著者
藤田 恵未 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.280-285, 2013-04-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
21

多様化した生活習慣や高齢社会に伴い口腔内に象牙質が露出した者は多い.しかし象牙質の酸蝕症と飲料の関係は明確ではない.本研究では飲料が象牙質の酸蝕に与える影響を歯の酸蝕症の評価方法の一つであるヌープ硬さにより検討した. ヒト象牙質をオレンジジュース,グレープフルーツジュース,ヨーグルト飲料,炭酸飲料,蒸留水の5種試験飲料に浸漬し,経時的に試料のヌープ硬さを測定した.また,浸漬30分後の試料は二次電子像観察を行った.結果は経時的に一元配置分散分析およびTukey HSDの多重比較を行った. 各飲料別のヌープ硬さは浸漬2分後は飲料間に有意差はなく,5分後では蒸留水とグレープフルーツジュース間,および蒸留水と炭酸飲料間で有意差があり,15分後では蒸留水と炭酸飲料間,蒸留水とオレンジジュース間,および蒸留水とヨーグルト飲料間に有意差が認められた.また,30分後では飲料間では有意差は認められなかったものの,すべての飲料は蒸留水と有意差があり,二次電子像も異なっていた. 象牙質はエナメル質と比較して結晶構造や化学的性状が異なり硬度が小さく,耐酸性が低いため,pH値の低い飲料に浸漬すると飲料の種類によらず速やかに脱灰が開始し,飲料間のヌープ硬さに有意差がなかったと考える.したがって,清涼飲料水は象牙質の酸蝕症の要因となるため,象牙質の露出した者には象牙質の酸蝕症予防として,緻密な歯科保健指導が必要であると考える.