著者
谷島 茜 犬飼 順子 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-9, 2015-01-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

日常生活において歯質が酸により溶解する歯の酸蝕症が着目されている.飲食物として摂取される機会が多い各種の酸と,そのpHの違いがエナメル質の硬度に与える影響をヌープ硬さの経時的変化から検討した. エナメル質を浸漬させる酸として,市販飲料水に一般的に含有されている,乳酸,酢酸,クエン酸を選択した.pHは清涼飲料水のpH を想定して,2.5,3.0,3.5を設定した.これらの酸とpHのそれぞれの組合せと,対象として蒸留水を含む計10種の浸漬液にヒトエナメル質試料を浸漬させた.浸漬後15分後,30分後,60分後,120分後,180分後に試料を取り出し蒸留水で水洗し,大気中で乾燥させた後,ヌープ硬さを測定した.測定結果は浸漬液の酸の種類,pHの種類および浸漬時間を要因とした対応のある三元配置分散分析ならびにBonferroniの多重比較を行った. その結果,酸の種類と浸漬時間の要因は有意であったが,酸の種類とpHの種類に有意な交互作用が認められた.また,限定された条件ではpH の種類によるヌープ硬さの有意差が認められた.この結果より,エナメル質のヌープ硬さは摂取する食品のpHのみならず酸の種類や浸漬時間により変化し,それはそれぞれ酸のpKaなどの性質によるものと考えられる. したがって飲料水を摂取する場合は飲料のpHのみにとらわれるのではなく,酸の種類や摂取方法に注意を喚起する保健指導が必要である.
著者
藤田 恵未 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.280-285, 2013-04-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
21

多様化した生活習慣や高齢社会に伴い口腔内に象牙質が露出した者は多い.しかし象牙質の酸蝕症と飲料の関係は明確ではない.本研究では飲料が象牙質の酸蝕に与える影響を歯の酸蝕症の評価方法の一つであるヌープ硬さにより検討した. ヒト象牙質をオレンジジュース,グレープフルーツジュース,ヨーグルト飲料,炭酸飲料,蒸留水の5種試験飲料に浸漬し,経時的に試料のヌープ硬さを測定した.また,浸漬30分後の試料は二次電子像観察を行った.結果は経時的に一元配置分散分析およびTukey HSDの多重比較を行った. 各飲料別のヌープ硬さは浸漬2分後は飲料間に有意差はなく,5分後では蒸留水とグレープフルーツジュース間,および蒸留水と炭酸飲料間で有意差があり,15分後では蒸留水と炭酸飲料間,蒸留水とオレンジジュース間,および蒸留水とヨーグルト飲料間に有意差が認められた.また,30分後では飲料間では有意差は認められなかったものの,すべての飲料は蒸留水と有意差があり,二次電子像も異なっていた. 象牙質はエナメル質と比較して結晶構造や化学的性状が異なり硬度が小さく,耐酸性が低いため,pH値の低い飲料に浸漬すると飲料の種類によらず速やかに脱灰が開始し,飲料間のヌープ硬さに有意差がなかったと考える.したがって,清涼飲料水は象牙質の酸蝕症の要因となるため,象牙質の露出した者には象牙質の酸蝕症予防として,緻密な歯科保健指導が必要であると考える.
著者
山田 季恵 犬飼 順子 柳原 保 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.328-337, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
21

本研究では,セルフケアによる歯面色素沈着の阻止効果の検討を目的として,各種歯磨剤を併用したブラッシングが,外来性色素沈着に伴う歯面の色調変化に及ぼす影響を,牛歯エナメル質試料と歯科用色差計を用いて調べた.試料を研磨後,ウーロン茶,人工唾液,ムチンを混合した溶液に14日間浸漬して色素沈着を誘引し,この間1日2回,研磨剤(無水ケイ酸A)と清掃補助剤(無水ピロリン酸ナトリウム)配合の美白用歯磨剤,研磨剤を配合した低研磨性歯磨剤,または研磨剤無配合歯磨剤を使用する,および歯磨剤を使用しない4条件で,歯ブラシ試験機を用いてブラッシングした.1日1回ブラッシング前に,L*値(明度),a*値(赤み),b*値(黄み)を測定し,これらの値からC*値(彩度)とΔE*ab値(色差)を算出した.その結果,すべてのブラッシングの条件とブラッシングをしないコントロールにおいて,経日的にL値は低下し,a*値,b*値,C*値,ΔE*ab値は増加した.美白用歯磨剤の使用は,コントロール,歯磨剤の未使用または研磨剤無配合歯磨剤の使用に比較して,b*値,C*値,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.また,低研磨性歯磨剤の使用は,コントロールまたは歯磨剤の未使用に比較して,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.一方,低研磨性歯磨剤の使用と美白用歯磨剤の使用との間には,すべての色調指標に有意差は認められなかった.以上の結果から,研磨剤や清掃補助剤を配合した歯磨剤を使用したセルフケアで歯面の色素沈着は阻止されるが,その効果は歯面の色調を維持するには十分でない可能性が示唆された.
著者
小木 冴理 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.591-598, 2010-10-30

現在,市販キャンディには代用甘味料が含有されているものが多くなってきたものの,う蝕原性のスクロースが含有されているものも多く,その実状は報告されていない.そこで,本研究では,25種の市販キャンディ類に含まれる糖類について,スクロース量,グルコース量,その他の糖量およびpHを測定した.試料は蒸留水で10倍希釈し,全糖度は手指屈折糖度計を,スクロース・グルコースはバイオケミストリ・アナライザーを用いて測定した.その結果,フルーツはスクロース,グルコースとも含有量が多く,フルーツはのど飴と比較して有意に多い値を示した.さらに,のど飴はスクロース,グルコース以外のその他の糖がフルーツと比較して有意に多く含まれており,う蝕誘発の原因となる糖が少なかった.また,糖類含有量は商品によりばらつきが大きかった.pH値はほとんどの試料で5.4を下回り,フルーツが最も低かった.したがって,キャンディを摂取する場合ノンシュガー等表示されたものを選択するとよいと考えられる.しかし,スクロース値が低いものでもpH値が低いため摂取方法には注意が必要であり,適切な間食の指導により,キャンディを選択できる能力を身につけることが必要であると結論された.