- 著者
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藤谷 悠
- 出版者
- 言語文化教育研究学会:ALCE
- 雑誌
- 言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.339-359, 2019-12-31 (Released:2020-03-10)
東浩紀の『ゲンロン0―観光客の哲学』(2017)によると,現代の世界は,ナショナリズムとグローバリズムなど,様々な局面で二項対立的な「二層構造」になっているという。本研究は,国際性という文脈のみに単線化された結果,「二層構造」を生み出す要因となっている複言語・複文化の物語を,「本来の姿」へと回帰させることを目指している。単線化した複言語・複文化の物語の例として,「移動する子ども」研究を批判対象とし,同研究が暗示する「移動する子ども」と「移動しない子ども」の二項対立的構造を概観しながら,その間に中間的文脈を作り出すことを試みる。そうすることで,同研究における「移動」概念を拡張的に再定義する。これらの目的に向けたナラティブな調査として,日仏「ハーフ」の人々を対象としてライフストーリー調査を行なった。それに加え,筆者自身の「ひきこもり」経験をオートエスノグラフィーとして記述し,それをハーフたちの語りと交差させる。そうして,「ハーフ=移動する子ども」と「ひきこもり=移動しない子ども」との間に「部分的つながり」を見立てることで,複言語・複文化の物語を複線的な「本来の姿」へと蘇らせるのである。