著者
古瀬 清秀 藤野 次史 中越 利夫 佐竹 昭
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

鉄滓に関する研究は、これまで自然科学的分析によって、鉄滓と鉄及び鉄器の生産との関連が論じられてきた。考古学の立場からは、人工遺物、遺構が研究の対象となり、いわば廃棄物としての鉄滓はおろそかにされがちであったことは事実である。今回、この鉄滓を考古学的立場で検討することが可能かどうかについて、研究を推進した。この結果、鉄滓の外観的特徴、出土状況の分析を考古学的研究法によっても分類でき、鉄及び鉄器生産の諸工程を復元することも可能との結論を得た。方法としては、実験的鉄、鉄器生産及び現代の刀鍛治など伝統鍛治技術によって生成される鉄滓を入手して、それぞれの工程ごとの鉄滓の特徴を理解し、それらと古代遺跡で出土した鉄滓を比較検討することとした。特に、鍛治鉄滓に興味深い結果が得られた。鍛治滓は、i)ギザギザとした表面を呈するものが多い。ii)木炭片をかみこむ。iii)典型的な椀形滓が多く、小破片ももとは椀形を呈するものが破断していることが多い。iv)軟質のガラス滓がある。ということが主要な判断要素となるようである。実際に遺跡から出土するものには、(1)直径20cm前後・重量1kg前後、(2)直径10cm前後・重量200g前後、(3)(1)、(2)より小さく軽いガラス滓の3種に分類できる。そして、実験的に得られた滓をみると、(1)・(2)が精錬鍛治、(2)・(3)が鍛錬鍛治、(3)が火造り鍛治に対応できると考えられる。本研究の成果の大きな意義は、これまで考古学的には軽視されがちであった産業廃棄物としての鉄滓を考古学的方法論によって、重要な考古学資料として利用できることを明らかにしたことにあるといっても過信ではなく、鉄滓の研究が鉄及び鉄器の生産研究に大きな、しかも新たな研究の方向性を与えたといえる。