著者
藤野(柿並) 敦子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.38, pp.21-41, 2006-05-31

Becker(1965)らによる家計生産モデルによれば,男性の家計内での時間配分は,考慮されていない。このため,この理論モデルから得られる結論は女性の市場賃金率上昇による女性の労働供給増加は,育児時間の機会費用を増加させ,出生率を低下させるというものとなる。ところが,マクロレベルでの国別クロスセクションデータを用いてみたとき,昨今の女性の労働力率と出生率とは,正の相関関係にあることが確認できる。夫の家計内での時間投入を考慮すれば,夫の家計内での生産活動は,妻の育児時間の機会費用を低下させることになる。そこで,総効果としては,女性の所得増大効果と併せ,子ども数が増加する可能性が出てくるのである。わが国では,最近,男性の長時間労働を見直し,家事育児分担を増やすことが,出生力の回復に貢献すると考えられ,少子化対策の中でも強調されてきている。しかし,夫の家計内生産活動と出生力との関係が実証的に明らかにされることは非常に少なかったと思われる。そこで,本稿では,著者の行った社会調査(兵庫県「若い世代の生活意識と少子化についてのアンケート」2003)で得られた最新のミクロデータを用いて,従来のベッカー理論の変数をコントロールした上で,夫の家事育児分担が夫婦の追加予定子ども数を高めることができるのか,実証的に解明する。本稿の分析から,夫の家計内生産活動が夫婦の予定子ども数を高める重要なファクターであることが,明らかとなり,従来のベッカー理論に新たに夫の家庭内での時間配分を考慮すべきことが示唆された。また,妻が非正規就業で働く家計,専業主婦の家計において,夫の家事育児分担が進む場合,夫婦の出生力が高まるという結果が得られた。