著者
原 耕介 松島 知生 小保方 祐貴 西 恒亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0087, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,股関節唇損傷の病態や治療に関する報告が増えている。損傷メカニズムは股関節運動時に大腿骨頚部と臼蓋前縁が衝突することとされている。臨床では,股関節屈曲時に鼡径部につまりや疼痛を訴える患者に対し,徒手的に骨頭の後方滑りを補助することで症状の軽減やROMが改善することを経験する。また,LeeやSahrmannは股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の後方すべりの減少に起因する関節前面のインピンジメントを成書のなかで示している。Sahrmannは,自動SLR時の大転子の軌跡を追うことで,大腿骨頭の後方滑りを評価しているが,股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の動態について報告しているものは見受けられない。そこで今回,他動股関節屈曲運動時の大転子の軌跡を分析し,大腿骨頭の動態を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健常成人男性10名20股(年齢24.5±2.2歳,身長171.2±3.cm,体重66.8±7.0kg)で,股関節屈曲時に鼡径部につまり・疼痛を感じる群(P群:6股)と感じない群(N群:14股)に分け,基本特性として,股関節0°および90°屈曲位における股関節内外旋角度を測定した。被験者は骨盤・股関節中間位の背臥位とした。骨盤中間位は両側上前腸骨棘(以下;ASIS)と恥骨結合が並行になる位置とし,股関節内外転中間位を維持するために膝蓋骨中央をマーキングし,さらに膝蓋骨中央が上方を向いた位置を股関節内外旋中間位とした。その後,骨盤の代償が可能な限り起こらないように,非検査側の大腿部および両側のASISを非伸縮性のベルトで固定し,さらに徒手的に両側ASISを固定した。測定は他動股関節屈曲運動を最終域まで行った。最終域は検者がエンドフィールを感じた時点もしくは被検者が鼡径部につまり感を感じた時点とし,その際の可動域を測定した。その際,大転子最突出部(以下;Tro)を触診し軌跡を追い,屈曲10°ごとにTroをマーキングした。マーキング後に両側ASISを結んだ線の延長線上でTroから60cm,床から60cmの位置に設置したデジタルカメラにて縦・横とも1ピクセル0.2mmに設定した画像を撮影した。撮影した画像を,Image Jを用いX軸は頭側を正,尾側を負とし,Y軸は腹側を正,背側を負として,各股関節屈曲角度におけるTroの座標を求めた。股関節屈曲0°の座標を原点とし,原点からのTro移動量(以下,原点移動量)をmm単位で屈曲角度ごとに求めた。さらに,各屈曲角度間におけるTroの移動量(以下,角度間移動量)も同様の方法で求めた。統計処理はSPSSver21.0を用い,各股関節屈曲角度におけるX軸・Y軸の原点移動量および角度間移動量,股関節屈曲可動域および90°・0°内外旋可動域をN群とP群で比較した。群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に目的及び内容,対象者の有する権利について口頭にて十分説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】股関節屈曲可動域はN群が優位に大きい値(N群:107.50±6.72°,P群:98.33±3.67°)を示した。股関節内外旋可動域は群間で差は認められなかった。X軸原点移動量では屈曲10°から40°においてP群で有意に頭側へ移動し,Y軸原点移動量は屈曲10°から最終域の全屈曲角度でP群有意に腹側へ移動した。角度間移動量では両軸とも屈曲0°から10°の間にN群で有意に尾・背側に移動した。【考察】他動股関節屈曲時にP群では屈曲0°から10°における大転子の背側移動量が減少し,その後も背側に大転子が背側へ移動せずに,N群よりも腹側に大転子が位置していることが分かった。Joshuaらによれば,大転子の移動量は股関節中心の移動量を反映しているため,大転子が背側へ移動しない,つまり,大腿骨頭が後方へ滑らないまま屈曲することが鼡径部のつまりや疼痛の一因である可能性が示唆された。後方滑り減少の原因として,本研究では,群間で屈曲可動域に有意差は認められたが,内外旋可動域に差がないことから,諸家により報告されている短外旋筋群の伸張性低下が股関節屈曲可動域や大腿骨頭の後方滑りに影響を与えた可能性は本研究においては低いと考えられた。今回の結果から,股関節屈曲0°から10°での大腿骨頭の後方滑りが減少していた原因を断定することは困難であり,また,大転子の軌跡が真に大腿骨頭の動態を反映しているかは議論の余地がある。今後は関節エコーなどを用いて,関節内の大腿骨頭の動態とそれに影響を与え得る因子を明らかにするとともに,本研究で用いた方法の妥当性を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】他動股関節屈曲運動時に鼡径部につまりや疼痛を訴える場合,大転子の背側移動量が減少していることが明らかとなった点において意義があると考える。
著者
野中 理絵 野中 一誠 西 亮介 吉田 亮太 松島 知生 西 恒亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】頸椎症は40歳以上の男性の下位頸椎に好発すると言われており,若年における症例報告は散見しない。今回,頸椎症と診断された20代女性の理学療法を担当する機会を得た。アライメントに着眼して介入し,良好な結果が得られたので,以下に報告する。【症例提示】症例は20代女性,診断名は頸椎症。現病歴は起床時に頸部痛出現,鎮痛剤にて症状消失。約2か月後に同様の症状出現,鎮痛剤でも症状変わらず,それから1か月後に理学療法開始。主訴は頸を曲げると左頸部後方が痛くなる。X-p所見では,C3/4・4/5・5/6椎間腔狭小化を認めた。座位アライメントでは頭部・上位頸椎伸展位,下位頸椎前彎が消失し,頭部・C2-3右回旋位,C4-7左回旋位を認めた。頭頸部前屈時に左頸部後方に疼痛を認めた。前屈動作として下位頸椎の動きはほとんど見られず,上位頸椎の左回旋・側屈を伴い,前屈最終域で頭部左回旋位となった。頭部を正中位へ修正することで自動運動時の疼痛消失。頭頸部筋群に過緊張・圧痛,左頭半棘筋・板状筋に硬結が認められた。神経学的所見は認められなかった。【経過と考察】本症例では頭部・頸椎マルアライメントの状態で,上位頸椎の左回旋・側屈を伴う前屈運動を行っていた。そのため頸椎症に伴う二次的な筋スパズムが左頸部筋に生じ,これが疼痛の原因であったと考える。そこで頭頸部筋群のストレッチングやマッサージに加えて,頭部正中位での頭頸部自動運動を中心に行った。その結果,介入後2ヶ月で疼痛消失,座位では頭部マルアライメントが改善し,上位頸椎の左回旋・側屈を伴わずに前屈が可能となった。頸椎症に対する理学療法の概要として,後部頸部筋群・肩甲帯周囲筋群のリラクセーションを目的としたストレッチング・温熱療法,良姿勢指導・禁忌肢位指導が報告されている。本症例により,若年で発症した頸椎症に対しても,姿勢指導や運動療法が有効であるということが示唆された。