著者
西 重信
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.55-74, 2011-06

2005年以降、中国が主導する大図們江地域開発は着実に進んでおり、東北振興と北朝鮮開発を一体化して推進する中国の北東アジア開発戦略が具体化し始めている。北朝鮮は、東北三省での中国との経済協力を軸として、ロシア、モンゴル、韓国との直接、間接の連携によって経済の開放と自由化を進めている。大国の中央政府主導による広域、多国経済開発の最も重要な課題は、開発地域内の諸国、地域住民とりわけ辺境の少数民族の主体的積極性を引き出すことである。この視点は中国の辺境開放政策の意図とも基本的に合致している。大図們江地域の要である図們江地域は、国境に抗して持続している自然経済圏である。延辺朝鮮族と北朝鮮北東部の住民は、互いの困難、危機を自然経済圏を手段として生き抜いてきた。図們江地域の開発には、この自然的一体性に根差した考え方が最も大切である。開発の展望は、1930年代に日本で体系化された北朝鮮ルート論の主体的活用にかかっている。北朝鮮の先峰、羅津、清津の三港と中国東北の鉄道を結び付けた中継貿易輸送は、内陸の吉林省、黒龍江省だけでなくモンゴルをも日本に直結する。朝鮮族人口が急速に減少している延辺の民族経済の振興には、跨境民族の特性と中継貿易を活用した朝鮮族の地元での起業が何よりも必要である。そこでは十数万人とされる在外朝鮮族の主体的積極性に大いに期待できる。図們江地域を中心とした大図們江地域の経済、社会の発展に必ず貢献できるだろう。