著者
古松 丈周
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.151-170, 2022-03-10

本稿の課題は、ポール・A・バランがふたつの移行論争を乗り越える議論を示していたことを明らかにすることである。ここで、ふたつの移行論争とは、1950年代にモーリス・ドッブ、ポール・M・スウィージーを中心とした論争、そして1970年代にアンドレ・G・フランクとエルネスト・ラクラウを中心とした論争である。封建制から資本主義への移行について、ドッブはその内的矛盾に起源を求め、スウィージーは商業の復活による外的力にその起源を求めた。後にフランクはこの論争を内的矛盾と外的力の相互作用として止揚し、資本主義の進入によって資本主義となった周辺を低開発と分析した。フランクを批判したラクラウは、低開発は封建制と資本主義の両立から生まれることを指摘した。バランは『成長の政治経済学』でこれらの論点をすでに指摘し、さらに資本主義的合理性を歴史的に把握し、批判する客観的理性による批判を示していた。
著者
吉野 裕介
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.299-320, 2022-03-10

本稿の目的は、フリードリッヒ・ハイエクのカール・マルクスに対する評価の変遷を抽出し、その意義を闡明することである。ハイエクの長い執筆活動のほとんどは、自由主義(資本主義)の擁護と、社会主義の批判に費やされた。にもかかわらず、膨大な書き物のうち、マルクスあるいはマルクス主義に関する言及は、ほとんど断片的と言えるくらい限られている。この理由を探ることで、ハイエクの社会主義批判の意図がより明確になるのではないか。こうした問題意識に基づいて、本稿は、第1節で初期ハイエクの経済理論的考察、第2節で中期ハイエクの方法論的考察、第3節で後期ハイエクの社会哲学的考察の3つに活動時期を区切り、それぞれの時期におけるマルクスへの言及を抽出したうえでその意義を考察した。かくして、ハイエクによるマルクス批判は確かに徹底的とは言えないものだが、それはかれがマルクス思想の背後にある科学主義や合理主義を批判したことが一因だと結論付けた。
著者
樫原 正澄 赤井 洋子 石川 友美 伊藤 佳代子 佐保 庚生 辰己 住子 森 正子
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.403-460, 2022-03-10

第2次世界大戦以降における大阪府内学校給食の変遷について考察を加えた。それを踏まえ、今後の課題を解決するための視点について論述した。第1としては、「学校給食法」の趣旨に基づいて、学校給食を子どもの成長に資するものとするように、関係者は努めることである。第2としては、学校給食の調理業務の民間委託によって、調理現場において起こっている変化について正確に把握して、必要な対策を講じることである。第3としては、学校給食を考える主体の形成である。
著者
野坂 博南 NOSAKA Hiromi
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.129-149, 2011-03

本稿では、日本の生産性低迷に伴い、雇用形態別の労働市場がどのように変化し、日本の景気循環にどのような影響を与えたかを一般均衡サーチモデルの枠組みで分析した。カリブレーションの結果、長期的な生産性低下は相対的に解雇費用の低い非正規雇用の増加をもたらすものの、非正規雇用の労働市場の求人倍率は正規雇用に比べて悪化することを示した。また、長期的な生産性低下に伴い景気の変動幅が増幅されることを確認したが、特に非正規雇用の雇用や失業の変動幅が大きくなることが分かった。また、正規雇用と非正規雇用の補完度の上昇は全体の景気変動に大きな影響は与えないが、相対的に変動の大きい非正規雇用の変動を安定化させる効果があることを示した。
著者
橋本 恭之 木村 真
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 = Economic review of Kansai University (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.303-321, 2015-03

本稿の目的は、夕張市における公営事業と国保事業の現状と課題をあきらかにすることである。本稿で得られた結果は、以下のようにまとめることができる。第1に、財政破綻後の観光施設の運営方法として採用された指定管理者制度は、さまざまな課題を抱えていることがあきらかになった。指定管理者制度のもとで観光施設の延命を図るよりも、民間への売却ないし無償譲渡を優先して考えていくべきだろう。第2に、夕張市の病院会計の赤字は、診療所に縮小することで解消が図られてた。しかし、老朽化に伴い移設計画が検討されているものの、市の人口中心地への移設はへき地医療の指定がはずれてしまうなどの課題を抱えている。第3に、夕張市の国保事業会計は、赤字が解消されている。ただし、2010年度以降、赤字解消により保険料が引き下げられ、受診率と 1人あたり医療費も上昇傾向にあることから今後注意が必要である。第4に、夕張市の下水道事業は、一般会計からの繰り出し不足、利用者の伸び悩みなどにより多額の累積赤字を抱えるに至った。地方都市においては、インフラ整備の優先順位を考える必要があることがわかった。
著者
高木 秀玄
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-17, 1969-04
著者
植村 邦彦
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.17-33, 2010-03

英語の〈civil society〉は、16世紀末から使われ始めた言葉である。日本語では通常「市民社会」と訳されているが、この言葉は本来アリストテレス『政治学』における「国家共同体」の訳語として英語に導入されたものであり、17世紀のホッブズとロックにいたるまで、この意味で使われた。この言葉の前史と初出時の語義を確認することが、本稿の課題である。
著者
植村 邦彦
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.481-510, 1997-12

マルクスの数多い著作の中でも、1852年に書かれた『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』ほど、これまでに様々な読まれ方をしてきたテクストはないだろう。たとえばエドワード・サイードは、文学批評の方法を論じたエッセイの中で小説と「情況的現実」との関係を論じながら、やや唐突に次のように述べている。「しかしながら、いかなる小説家も、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を書いたときのマルクスほどに現実的情況について明確な態度を取ることはできないだろう。私から見れば、現実的情況が甥[ルイ・ボナパルト]を革新者としてではなくて、偉大な叔父[ナポレオン]の笑劇的な反復者として仕立て上げたことを示すときの筆法の正確さがこれほどに才気あふれ、これほどに圧倒的な力をもって迫ってくる著作はない(1)」。サイードが強調する第一点は、「マルクスの方法にとって言語や表象は決定的な重要性を持って」おり、「マルクスがあらゆる言語上の工夫を活用していることが『ブリュメール18日』を知的文献のパラダイムたらしめ(2)」ているということであり、第二は、ナポレオン伝説によって育まれた「実にひどい過ち」を修正するために、「書き換えられた歴史は再び書き換えることが可能であることを示」そうとするマルクスの「批評的意識(3)」である。こうして、マルクスにおけるレトリックという問題が設定される。あるいは、「オウムと世界最終戦争」という副題をもつ著書『虚構の時代の果て』の「あとがき」で、大澤真幸はこう述べている。「民主主義体制の下で極端な独裁が国民の広範な支持を獲得できたのはなぜか。マルクスは、この人物、ルイ・ボナパルト(ナポレオン三世)のク・デタが人民投票で承認された直後に、彼が政権を獲得するまでの過程を社会学的に考察する『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を著している。今日でもなお、マルクスのこの議論は、ボナパルトが成功しえた理由についての、最も説得力ある分析であろう。ちょうどこのマルクスの分析のような、私たちが内属している『オウム』という文脈に対する透徹した考察が必要である(4)」。ここでは、マルクスのこの書は、「考察する者自身が内属している<現在>」に関する「社会学的考察」の模範例とみなされている。このような『ブリュメール18日』の読み方は、言うまでもなく、「マルクス主義」の側からの正統的な読み方とはかなり異なる。マルクスの死後まもない1885年に、エンゲルスはこの書の第三版に付した序文で、次のような位置づけを試みているからである。「マルクスこそ、歴史の運動の大法則をはじめて発見した人であった。この法則によれば、すべて歴史上の闘争は、政治、宗教、哲学、その他どんなイデオロギー的分野でおこなわれようと、実際には、社会諸階級の闘争の――あるいはかなりに明白な、あるいはそれほど明白でない――表現にすぎない。そして、これらの階級の存在、したがってまた彼らのあいだの衝突は、それ自体、彼らの経済状態の発展程度によって、彼らの生産、およびこの生産に条件づけられる交換の仕方によって、条件づけられているのである。……マルクスは、ここでこの[フランス第二共和制の]歴史によって自分の法則を試験したのであって、彼はこの試験に輝かしい成績で合格した、と言わざるをえないのである(5)」。この見方によれば、『ブリュメール18日』は「唯物論的歴史観の定式」の一つの例示だということになる。本稿の課題は、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』に関する最近の注目すべきいくつかの「読み方」の批判的検討を通して、マルクスの思想の展開の中に占める『ブリュメール18日』の位置づけを明らかにすることにある。マルクスにおける歴史認識の方法、それがテーマとなる。
著者
西 重信
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.55-74, 2011-06

2005年以降、中国が主導する大図們江地域開発は着実に進んでおり、東北振興と北朝鮮開発を一体化して推進する中国の北東アジア開発戦略が具体化し始めている。北朝鮮は、東北三省での中国との経済協力を軸として、ロシア、モンゴル、韓国との直接、間接の連携によって経済の開放と自由化を進めている。大国の中央政府主導による広域、多国経済開発の最も重要な課題は、開発地域内の諸国、地域住民とりわけ辺境の少数民族の主体的積極性を引き出すことである。この視点は中国の辺境開放政策の意図とも基本的に合致している。大図們江地域の要である図們江地域は、国境に抗して持続している自然経済圏である。延辺朝鮮族と北朝鮮北東部の住民は、互いの困難、危機を自然経済圏を手段として生き抜いてきた。図們江地域の開発には、この自然的一体性に根差した考え方が最も大切である。開発の展望は、1930年代に日本で体系化された北朝鮮ルート論の主体的活用にかかっている。北朝鮮の先峰、羅津、清津の三港と中国東北の鉄道を結び付けた中継貿易輸送は、内陸の吉林省、黒龍江省だけでなくモンゴルをも日本に直結する。朝鮮族人口が急速に減少している延辺の民族経済の振興には、跨境民族の特性と中継貿易を活用した朝鮮族の地元での起業が何よりも必要である。そこでは十数万人とされる在外朝鮮族の主体的積極性に大いに期待できる。図們江地域を中心とした大図們江地域の経済、社会の発展に必ず貢献できるだろう。
著者
中屋 宏隆 河﨑 信樹 河﨑 信樹 KAWASAKI Nobuki
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 = Economic review of Kansai University (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.197-215, 2014-09

ドイツは、2011年に脱原発を再び宣言した。日本では、その政策実現に向けた動向が注目されている。また、多くの研究文献でも、ドイツの脱原発の動きは検討されており、本稿では、そうした研究史の吸収に加え、これまであまり検討されて来なかったドイツの原子力発電のエネルギー政策上の意義を考察するための研究材料を整理することを目的としている。その結果、ドイツはかつて十分に原発大国と言える状況に陥っていたという事実とドイツのエネルギー政策の中での原子力発電の役割を再検討する必要性が明らかになった。
著者
田口 方美
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.119-141, 2022-12

本稿の目的は、所得税制の所得控除の中で、人的控除に焦点を当てて、その現状と所得税負担への効果を考察し、今後の所得税制の方向性を探る一助とすることである。人的控除による世帯人員への配慮の考察では、OECD等で用いられている世帯所得の概念を用いる。具体的には、世帯人員の増加に伴う規模の経済を考慮した等価所得(Equivalent income)の概念を用いて、日本の人的控除を世帯人員への考慮という観点から評価する。扶養(世帯)人員に対する人的控除の効果の検証では、第1に人的控除の適用数が減少傾向であること、第2に給与収入ベースでの分析によると、扶養人員が多い給与所得者ほど高い再分配効果を示す負担構造に直面しているという結果になった。そして、第3に等価所得を用いた分析によって扶養人員による負担調整の効果をまとめると以下のようになる。等価所得は、世帯人員の増加による生計費についての規模の経済を考慮して求めるもので、人的控除は所得水準とは無関係に定額で設定されているものであり、所得水準が大きくなるほど所得に対する割合は小さくなる。等価所得を用いた考察から、現行の人的控除制度は、低収入層では扶養人員に対する規模の経済を小さく評価し、高収入層では規模の経済を大きく評価、つまり世帯人員が増えても生計費は増加しないという前提の税負担構造となっていることが示された。
著者
李 佳穎 片山 直也 Katayama Naoya
出版者
関西大学経済学会
雑誌
Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.J-56, pp.1-33, 2021-05-15

コンビニレジの混雑の問題解決のため、2019年11月と2020年12月の2回にわたり、ファミリーマート関大店(以下FMKと略)でレジの決済の観察調査を行った。これら2回の調査期間をまたぎ、コロナ禍・レジ袋有料化・電子決済の普及による影響を受けた。グラフと記述統計の分析より、消費者のレジの決済時の特徴とレジの決済時間の関係にも変化が観察され、次がわかった。1. 消費者のできる混雑緩和(レジの決済時間の短縮)には、レジ袋を辞退する、事前に決済の準備をする、ポイントと決済はスマホで行い、レシートを受け取らないのが有効と推察される(2020年12月の調査時点、3.3節、4.1節、4.11節)。これら行動を全てとった場合、平均約4割程度のレジの決済時間の短縮につながることが分かった。またこれら行動は、プラスチックごみの削減や、新型コロナウイルスの感染防止策としても有効であろう。2. レジの決済時間の分布から、2019年調査と比較して、2020年の調査は、非常に長時間、レジの決済をする層が減り、短時間ですます層が増えた(3.1節)。しかしながら、レジ決済時間の平均は、2019年と2020年では、さほど大きな差は見られなかった(3.1節)。3. 電子決済の普及による影響は、2019年と2020年の比較をして、明らかな比率の変化が見られなかった(3.2節)。しかしながら、コロナ禍の影響も考えられるが、消費者は電子決済と現金決済、いずれか一方のみを選択する傾向が顕著となった(3.3節)。また、電子決済がレジの決済時間の短縮につながることが示された(4.1節、4.11節)。4. コロナ禍による影響と思われる現象として、品数を一度に多く買う客層の比率の増加、決済の準備をする消費者の比率の増加、おつり・レシートの辞退率の増加が観察された(3.2節)。5. レジ袋有料化の影響として、レジ袋辞退率が有料化前と比べて、22%から76%と大きく変化した。これはファミリーマートのプレスリリースや環境省の調査より、FMKではより有料化の効果が表れたことを示している(3.2節)。また、2020年調査より、レジ袋辞退は、レジの決済時間の時短にもつながる傾向があることが分かった(3.3節、4.1節、4.11節)。
著者
北川 勝彦
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.47-67, 2001-03

本研究ノートは、1980年代中頃から1990年代末にいたるまでに発表された南アフリカ経済史に関する諸研究の展望を試みたものである。主として『南アフリカ経済史ジャーナル』(South African Journal of Economic History) 、『南アフリカ歴史ジャーナル』 (South African Historical Journal) および『南部アフリカ研究ジャーナル』 (Journal of Southern African Studies) に掲載された諸論文を調査研究した。南アフリカ経済史の解釈をめぐる「リベラル派」と「ラディカル派」 の論争をふりかえり、経済史研究で主として取り上げられた諸問題一現代南アフリカ経済論、農業と農村社会の変化、鉱業と製造業、19世紀植民地経済、奴隷制社会などーを考察するにあたって重要と考えられる諸研究を順次整理した。現在、南アフリカ経済史研究は、1880年代から両大戦間期にかけての工業化をめぐる問題に焦点、があわせられているように思われる。
著者
加勢田 博
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.17-33, 2012-06-10

1670年にチャールズ2世によって与えられた特許に基づいて、毛皮貿易の独占のみならず行政権を含む種々の特権を有する植民地支配会社として設立されたハドソン湾会社が、1867年にカナダが自治領となって特許をはじめそのすべての特権を失った後、どのようにして今日まで生き残り繁栄してきたのかを概観したものである。本論文は、17世紀に設立された同様な植民地会社はすべてその姿を消してしまった中で、この会社だけが21世紀まで繁栄を続けることができた原因の幾つかを明らかにしている。
著者
鈴木 善充
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.101-124, 2012-06-10

相続資産が家計資産に占める割合はアンケート調査を利用した既存研究によると、3割から4割程度である。シミュレーション分析をおこなった場合、結果は経済想定や相続資産からの収益の現在価値をライフサイクル資産に含めるかどうかという解釈によって異なる。公開データからは、高所得層に資産が集中していること、現役サラリーマンよりも引退老人世帯が多くの資産を保有していること、高齢者世帯でも収入の増加にしたがって、また住宅・宅地資産が高くなるにしたがって貯蓄残高が増加していることがわかった。アンケート調査から、相続を経験している高所得層は、相続財産額が高い結果をえた。また教育投資額と親子間における職業連鎖による階層の固定化がみられた。高い相続をうけている家計が高い教育投資をおこない、子どもが高いレベルの大学に進学していることがわかった。これらをふまえると、控除額の引き下げという相続税強化の方向に改正された2011年度税制改正大綱は評価できる。今回の改正では、最高税率の引き上げが行われたが、改革の方向性としては、むしろ相続税の合法的な節税策を解消させるのが望ましい。世代間の所得・資産移転を通じた格差拡大を防ぐには、民主党の目玉政策であった子ども手当ては現金支給ではなく、現物支給に切り替えるのが望ましい。
著者
橋本 恭之 HASHIMOTO Kyoji 木村 真 KIMURA Shin
出版者
関西大学経済学会
巻号頁・発行日
2013-09-10

第2次安倍政権は、金融緩和、財政支出拡大と成長戦略を組み合わせた「アベノミクス」を推進しようとしている。アベノミクスに対する懸念のひとつが、財政の持続可能性である。本稿では、成長率、税収の伸び率を一定の値に仮定して財政収支を予測する「機械的試算」により財政健全化の可能性を検証した。本稿のシミュレーションでは、仮に名目成長率3 %、名目長期金利が2 % で成長率を下回るという都合のよいケースでも、2050 年度の対GDP 比でみた国債残高は200%を突破し、名目金利が成長率を上回る4 % のケースでは、300%を超えてしまうことがわかった。2020 年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は、消費税率換算で6.6%程度の赤字が予想される。
著者
中澤 信彦
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 = Economic review of Kansai University (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.249-271, 2015-03

本稿の課題は、ハイエクがバークをどのように読んだのか、その読解の詳細を追跡することによって、ハイエクの保守主義観の特質と意義を明確化することにある。ハイエクが残したバークへの言及は分量的に決して少なくないが、断片的なものばかりである。そこで本稿では、ハイエクがバークの膨大なテクスト群のうちの何を参照したのかにとりわけ着目しつつ、ハイエクの主要著作におけるバークへの言及の有様を時系列的に整理する。本稿の構成は以下の通りである。第1節では論文「真の個人主義と偽りの個人主義」におけるバークへの言及を検討する。第2節では壮年期の主著『自由の条件』を検討し、第3節では『自由の条件』の補論「なぜ私は保守主義者ではないのか」を検討する。第4節では『自由の条件』と並ぶ後年の主著『法と立法と自由』を検討する。最後にこれまでの議論を整理し、「つまるところ、ハイエクはバークをどのように読んだのか?」という問いに、できるだけ明快な答えを与えたい。