著者
西井 一郎
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.176-184, 2009-03-01 (Released:2011-06-27)
参考文献数
31

きれいな球状をした緑藻ボルボックスは,生物の教科書にもよく掲載されており,名前と形を連想できる方は多いかもしれない.現在,モデル生物としてゲノム配列の解析が行なわれているボルボックスの発見は,レーウェンフックまで遡る.ここでは,この種の研究の歴史と生活環を紹介し,そしてボルボックス胚の形態形成運動の分子機構について紹介する.
著者
野崎 久義 関本 弘之 西井 一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は群体性ボルボックス目の雌雄の配偶子をもつプレオドリナから、オスに特異的な遺伝子"OTOKOGI"(PlestMID)を発見し、オスが同型配偶の優性交配型(クラミドモナスのマイナス交配型)から進化したことを明らかにした(Nozaki et al.2006, Curr.Biol.)。その結果、"メス"が性の原型であり、"オス"は性の派生型であることが示唆された。この研究では、従来的なモデル生物を用いた研究では不明であった進化生物学的大問題(オス・メスの起源)が、独自に開発した材料(プレオドリナの新種)を用いることで解き明かされ、生物学の一般的な教科書で示されている同型配偶から異型配偶/卵生殖への進化がはじめて遺伝子レベルのデータで説明された。また、本研究におけるオス特異的遺伝子の同定はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの起源を明らかにする進化生物学的研究のブレークスルーになるものと高く評価された(Kirk 2006, Curr.Biol.16 : R1028 ; Charlesworth 2007, Curr.Biol.17 : R163)。「雌雄性の誕生」とは性によって配偶子に差異が生じることであり、この差異を生み出した分子生物学的要因を特定するには、性によって異なる性染色体領域ゲノムの比較研究することができれば最適である。オス特異的遺伝子"OTOKOGI"はクラミドモナスの性染色体領域に存在する性決定遺伝子MIDのオーソログであり、プレオドリナのオスの性染色体領域に存在することが推定される。従って、本遺伝子のオーソログを同型配偶~卵生殖に至る様々な進化段階の群体性ボルボックス目の生物から得ることができれば、各進化段階の性染色体領域を探索するプローブとして使用できる。これらの性染色体領域に着目した比較生物学的な研究を実施すれば「雌雄性の誕生」の分子細胞学的基盤が明らかになるものと思い、群体性ボルボックス目の同型配偶のゴニウムからMIDオーソログ(GpMID)を探索し、その分子遺伝学的な特性を調査した(Hamaji et al.2008, Genetics)。