著者
野崎 久義
出版者
The Japanese Society of Plant Morphology
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.19and20, no.1, pp.55-64, 2008 (Released:2011-03-01)
参考文献数
33

要旨:生物の生殖は,“性”が誕生して以来,雌雄の配偶子が同じ大きさの同型配偶(単細胞藻類,粘菌類など),雌の配偶子が少し大きな異型配偶(ハネモなど),そして更に大型で運動能力のない「卵(雌性配偶子)」と小型で運動能力のある「精子(雄性配偶子)」が受精する卵生殖(ボルボックス,高等動植物など)へと進化したと古くから推測されていた.しかし,卵と精子をつくるメスとオスの性が同型配偶のどのような交配型(性)から進化したかは全く不明であった.最近我々は雌雄が分化したボルボックスの仲間(プレオドリナ)で,オスのゲノムに特異的な遺伝子(OTOKOGI)を発見し,その起源がクラミドモナスのマイナス交配型(優性交配型)の性を決定するMD遺伝子と同じであることを明らかにした.このことは,“メス”が性の原型であり,“オス”は性の派生型であることを示唆する.オス特異的遺伝子“OTOKOGI”の発見はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの配偶子が分化した群体性ボルボックス目における性の進化生物学的研究の突破口となるものと思われる.即ち,群体性ボルボックス目における性特異的遺伝子を目印にした性染色体領域の解読および性特異的遺伝子の機能解析を主軸とする新しい進化生物学がこれから始まるのである.
著者
仲田崇志 冨田勝 野崎久義
出版者
植物研究雑誌編集委員会
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.364-369, 2010-12-20 (Released:2022-10-20)

Volvulina(新称;マユダマモ属)は主に 8または 16細胞性の群体性オオヒゲマワリ類で,中空で楕円体状の群体を形成する.本研究において,マユダマモ属の株が本邦神奈川県津久井湖より分離され,形態に基づきVolvulina compacta(新称:ヨリソイマユダマモ)と同定された.ヨリソイマユダマモはこれまでネパールからしか知られておらず,本邦では初の報告となる.葉緑体の rbcL, atpB, psaA, psaB および psbC 遺伝子を用いた複数遺伝子解析によると,ヨリソイマユダマモの日本産株はネパール産株およびV. pringsheimii のアメリカ産株と近縁で,本邦から知られていたV. steinii(新称:スタインマユダマモ)とは系統的に離れていた.日本産ヨリソイマユダマモはスタインマユダマモよりも V. pringsheimii により近縁だったが,V. pringsheimii とは細胞が頂面観で四角形であることから明確に区別された.これらの結果から,ヨリソイマユダマモに隠蔽種が含まれることが示唆された.

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著者
寺田 至 広報委員会 野崎 久義
出版者
東京大学大学院理学系研究科・理学部
雑誌
東京大学理学系研究科・理学部ニュース
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.18-19, 2011-07

岩堀長慶先生のご逝去を悼む/人事異動報告/東京大学大学院理学系研究科・博士学位取得者一覧/理学部オープンキャンパス2011のお知らせ/あとがき
著者
野崎 久義 関本 弘之 西井 一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は群体性ボルボックス目の雌雄の配偶子をもつプレオドリナから、オスに特異的な遺伝子"OTOKOGI"(PlestMID)を発見し、オスが同型配偶の優性交配型(クラミドモナスのマイナス交配型)から進化したことを明らかにした(Nozaki et al.2006, Curr.Biol.)。その結果、"メス"が性の原型であり、"オス"は性の派生型であることが示唆された。この研究では、従来的なモデル生物を用いた研究では不明であった進化生物学的大問題(オス・メスの起源)が、独自に開発した材料(プレオドリナの新種)を用いることで解き明かされ、生物学の一般的な教科書で示されている同型配偶から異型配偶/卵生殖への進化がはじめて遺伝子レベルのデータで説明された。また、本研究におけるオス特異的遺伝子の同定はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの起源を明らかにする進化生物学的研究のブレークスルーになるものと高く評価された(Kirk 2006, Curr.Biol.16 : R1028 ; Charlesworth 2007, Curr.Biol.17 : R163)。「雌雄性の誕生」とは性によって配偶子に差異が生じることであり、この差異を生み出した分子生物学的要因を特定するには、性によって異なる性染色体領域ゲノムの比較研究することができれば最適である。オス特異的遺伝子"OTOKOGI"はクラミドモナスの性染色体領域に存在する性決定遺伝子MIDのオーソログであり、プレオドリナのオスの性染色体領域に存在することが推定される。従って、本遺伝子のオーソログを同型配偶~卵生殖に至る様々な進化段階の群体性ボルボックス目の生物から得ることができれば、各進化段階の性染色体領域を探索するプローブとして使用できる。これらの性染色体領域に着目した比較生物学的な研究を実施すれば「雌雄性の誕生」の分子細胞学的基盤が明らかになるものと思い、群体性ボルボックス目の同型配偶のゴニウムからMIDオーソログ(GpMID)を探索し、その分子遺伝学的な特性を調査した(Hamaji et al.2008, Genetics)。
著者
野崎 久義
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

一次共生植物が単系統であると示した既存のデータの再検討による再解析並びに自由性生活の無色ミドリムシ類PeranemaのESTデータの構築と利用を実施した結果、一次共生植物が単系統と解析されている原因が遺伝子進化速度が高い細胞内寄生虫や繊毛虫等の影響である可能性が示せた。また、色素体二次共生植物のクロララクニオン藻とミドリムシ藻で、それぞれ緑藻の二次共生以前の隠された紅藻の2または3次共生が核ゲノムの解析で明らかになり、二次共生植物の概念も刷新しつつある。
著者
田中 寛 佐藤 直樹 野崎 久義 河村 富士夫
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

真核細胞の基本的な作動原理を、その成立に深く関わったミトコンドリア・葉緑体の進化や機能に注目して研究した。動物・菌類を除く多くの真核細胞系統が一旦は葉緑体を持っていたとする'超植物界仮説'を提唱すると共に、共生由来オルガネラである葉緑体からのシグナルが、植物細胞周期の開始に必須であることを示した。さらに、細胞内に共存する3種ゲノムにおける遺伝情報の発現協調機構の解析などを通じ、原始的な真核細胞シゾンをモデル系とした細胞生物学の新分野を切拓いた。