著者
西宗 直之 小野寺 真一 成岡 朋弘 佐藤 高晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.123, 2003

<B>1. はじめに</B><BR> 瀬戸内沿岸地域は温暖少雨の気候のため、日本で最も山火事の発生頻度が高い地域となっている。山火事は森林植生や生息動物などの森林生態系を改変するのはもちろん、侵食作用の増大による地形変動や土壌環境、場合によっては水理・水質などの環境に影響を及ぼすことが想定される。また、土壌侵食の活発化による土砂流出量の増加は、下流域の堆積過程に変化をもたらす可能性があり、土砂災害の防止という観点からも重要な研究課題のひとつである。したがって、山火事の発生による侵食速度の変化や流域から生産される土砂量の予測を行っていくために、現存する山火事跡地の侵食速度を算出し、火災発生後の土砂流出特性を把握することが必要となる。よって、本研究では山火事発生後の経過年数の異なる流域における山火事発生前後の流域侵食速度の変化を確認し、山火事発生後の年数の経過に伴う土砂流出パターンの変動を明らかにすることを目的とした。</BR></BR><B>2. 研究地域及び方法</B><BR><U>2.1. 山火事跡地の砂防ダムにおける堆砂量の測定</U><BR> 流域の全面積が山火事に遭った砂防ダムのうち、最上流部に位置するものを選定し、堆積深度を検土杖で測定した後に堆砂量を算出した。堆積速度は、上記の方法により得た堆砂量を砂防ダム建造年から経過した年数で除して求めた。山火事の発生以前に建造されたダムについては、検土杖により炭化物が認められる堆積層を山火事発生時とみなし、堆積速度を区別することにより火災前後の侵食速度をそれぞれ求めた。一連の調査は2003年3月に実施した。<U>2.2. 山火事跡地試験流域における観測</U><BR> 2.1の砂防ダム流域とは別に、3か所の山火事跡地流域において調査・観測(2000年4月から2003年5月に実施)を行った。毎回の降雨イベント後に土砂トラップに堆積した土砂量を測定した。<BR>1)IK:2000年8月に山火事発生(撹乱流域)<BR>2)TB:1994年8月に山火事発生(荒廃流域)<BR>3)TY:1978年8月に山火事発生(回復流域)<BR> これらは、植生の状況以外はほぼ同一の特徴を持つ。<BR><BR><B>3. 結果と考察</B><BR><U>3.1. 山火事跡地流域における侵食速度の推定</U> 表1に各砂防ダム流域における流域特性及び侵食速度を示す。各流域とも、山火事発生前の流域侵食速度が0.02から0.07mm/yrという低い値を示したのに対して、山火事発生後では0.33から0.42mm/yrと高い値を示した。特に、山火事の発生からあまり年数が経過していないIK1では、侵食速度は2.2mm/yrという非常に高い値を示した。これらは、発電用ダムで計測された中部地方の急峻な山地渓流における侵食速度(0.3から0.5mm/yr)(藤原ほか、1999)と比較して同等かそれ以上の値であった。特に火災発生直後の流域では土砂堆積量の急激な増加が確認されたことから、これらの侵食速度の増加は山火事に伴う活発な土壌侵食の影響を強く反映している結果であるといえよう。<BR><U>3.2. 火災時期の異なる流域における土砂流出特性の差異</U><BR> 図1に各流域におけるイベント降水量と土砂流出量の関係を示す。いずれもイベント降水量の増加に伴った土砂流出量の増加が認められるが、小規模降雨イベントでは傾きが小さく、ある一定のイベント降水量で傾きが急になる傾向がみられた。IK流域ではイベント降水量に対する掃流土砂流出量の傾きが大きく、イベント降水量20mm付近に傾斜変換点がみられた。TB流域では傾斜変換点がイベント降水量40mm付近にみられ、傾きは緩やかであった。TY流域ではイベント降水量80mm付近に傾斜変換点がみられ、大規模出水時の傾きが大きかった。傾斜変換点は火災発生後の年数経過に伴ってイベント降水量の多い地点に現れた。この存在は、前後のイベント降水量の違いによって土砂流出プロセスが変化しているものと推察される。