著者
西山 知佐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1166, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】リハビリテーション(以下リハとする)医療における今後の展開として、訪問リハサービスの提供量を増やし、かつ質も高めることで国民により認知されるよう働きかける動きがある。一方で鍼灸マッサージ師等が訪問マッサージを行っているが、なかには「訪問リハビリマッサージ」と称して機能訓練も行う業者も存在する。介護保険制度においては利用者本位の観点から必要でかつ適切な介護サービスが選択できることが理念の一つとして謳われている。我々現場で携わる者としては質の良いサービスを提供しないと利用を中止され、さもないと経営面にも大きく影響する場合もある。このような状況下にありながらも、どの程度サービスを利用されているのか実態を調査した文献はなかった。そこで訪問リハと訪問マッサージの併用利用について調査し、現状を把握することを目的とした。【方法】対象者は平成20年10月から21年9月までの間で当院理学療法士(以下PTとする)が提供する訪問リハを1か月以上利用した76名とした。サービス利用状況は調査期間内の対象者のサービス提供票から集計した。必要に応じて担当PTやケアマネージャー、利用者およびその家族からの情報を参考にした。さらに愛知県介護サービス情報公表センター、社団法人愛知県鍼灸マッサージ師会のホームページを参考に、当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区の資源の分布状況を調査した。【説明と同意】訪問リハ開始にあたって契約時に個人情報の取り扱いについて説明を行い、文書で同意を得た。個人情報取り扱いに関する院内規定に則り実施した。この中には質の向上のための研究が使用目的の一つに挙げられている。【結果】対象者76名のうち訪問マッサージを利用しているのは10名、過去に利用していたのは3名、加えて接骨院等へ通っているのは2名であった。うち訪問マッサージを利用した13名の介護度は要介護2が3名、要介護3が1名、要介護4が2名、要介護5が7名であった。該当する利用者の障害像は要介護2、3の場合は疼痛が強く日常生活に何らかの支障を来していた。ADLのほとんどは自立もしくは一部介助レベルであるが、外出は諸々の事情により困難であった。一方要介護4、5の場合は関節可動域制限や疼痛のあるケースがほとんどであり、寝たきりでおおむね全面的に介助が必要な状態であった。訪問マッサージ利用者が他に利用している介護保険サービスとその人数は訪問介護8名、訪問入浴6名、訪問看護9名、通所介護2名、通所リハ1名、短期入所3名であった。当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区のサービスの分布状況は訪問リハが11箇所、リハを提供している訪問看護ステーションが15箇所であった。また従事者数は訪問リハのPT38名、訪問看護ステーションのPT24名に対して、鍼灸マッサージ師会の登録者は164名であった。【考察】今回当院訪問リハ利用者の中における訪問マッサージ利用者の割合は19.7%であったが、他事業所との比較については言及できない。あくまで当院利用者における傾向を知るものであり、この研究の限界である。また資源の分布状況についても公表されているデータを用いたため、妥当性に欠けるところがある。ある文献にて「近隣に訪問リハサービスがなかったため、訪問マッサージを導入した」という報告が散見されたが、当院近隣の状況はこれとは違い決してサービス量は少なくない。だが訪問リハに従事しているPTよりも鍼灸マッサージ師の方が圧倒的に多く、提供できるサービス量の上でも後者の方が多いと思われた。しかし単純に量だけでなく、併用しているケースが存在することを考えるとリハとマッサージを使い分けて利用していることが示唆された。その背景として訪問マッサージは医療保険を使用できること、訪問リハよりも自己負担が少ないこと、ケアマネージャーの中で「リハは運動、マッサージはリラクゼーション」というイメージを持っていることが挙げられる。特に要介護4、5の利用者は利用限度枠近くまでサービスを利用しており、それに伴い経済的負担も大きく困っている利用者も少なくなかった。さらに関節拘縮予防の目的で短時間でもよいので運動頻度を増やしたい思いが利用者の中にあり、訪問マッサージも導入したのではないかと考えられた。またこれ以外のケースにおいては疼痛緩和やリラクゼーションの目的でマッサージを選択し、リハは運動や生活指導の目的で利用していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今後PTの職域の拡大を目指し、PTをはじめ多くの人々が努力している。さらなる発展のためには我々の置かれている現状とそれを取り巻く周囲の様子を把握しておく必要があると考える。
著者
宮川 博文 稲見 崇孝 井上 雅之 小林 正和 西山 知佐 大須賀 友晃 本庄 宏司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O2127-C3O2127, 2010

【目的】愛知県理学療法士会健康福祉部は平成17年より、地域住民の健康増進、スポーツ傷害の予防と改善を目的に県内行政機関と連携をとり、スポーツ傷害講座を年1回開催している。平成20年度はスポーツ傷害の発生機序からの予防対策に注目し、小・中学生バスケットボールチームを対象にバスケットボール女子日本リーグ機構(以下WJBL)外傷予防プログラムの紹介を中心に講座を開催した。今回の研究の目的は小・中学生に対するWJBL外傷予防プログラム(以下プログラム)の有効性、問題点をアンケート調査及びプログラム紹介後の実施状況より検討することである。<BR>【方法】対象はN町小学生(以下ミニ)・中学生(以下ジュニア)バスケットボールクラブチーム女子選手38名(ミニ17名:平均年齢10.7±1.1歳、ジュニア21名:平均年齢14.0±0.9歳)、保護者22名、指導者3名の計63名である。尚、競技レベルはミニがA県大会出場レベル、ジュニアは東海大会出場レベルである。プログラムは膝前十字靭帯(以下ACL)損傷、足関節捻挫など下肢の外傷予防を目的に2007年日本臨床スポーツ医学会、国立スポーツ科学センター、WJBL所属チームのトレーナーによって作製された。その内容は1.筋力(下肢・体幹筋)、2.バランス、3.ジャンプ、4.スキルの4項目で、それぞれベーシック(高校生、大学生)、スタンダード(大学生上位・実業団)、アドバンス(WJBLトップ選手)の3段階より構成されている。今回は体育館を会場とし、ベーシックを中心としたプログラムを6名のスタッフ(理学療法士3名、トレーナー1名、理学療法士養成校学生2名)による講義及び実技にて紹介した。<BR>アンケートはプログラムの紹介後に会場内で調査用紙を配布し、記入後その場で回収した。アンケート内容は以下の5項目である。1)下肢外傷の既往歴:医療機関で診断された外傷、2)プログラムがどの程度できたか:自覚的達成率、3)プログラムで最もケガの予防に役立つと思われる項目は何か、4)プログラムを通常の練習に取り入れたいか、5)プログラムを練習に取り入れる場合、何分が適当か、尚、プログラム紹介後に実施状況を調査した。<BR>【説明と同意】アンケート調査の説明はスポーツ傷害講座終了後、全対象に行い、同意の上で調査の協力を得た。<BR>【結果】回答数は63件で回収率は100%であった。1)下肢外傷の既往歴:ミニ期での発生は足関節捻挫3件、足関節骨折1件、ジュニア期は足関節捻挫8件、足関節骨折3件、ACL損傷2件であった。2)プログラムの自覚的達成率:筋力はミニ72.1、ジュニア79.8%、以下同様にバランスは69.1、78.6%、ジャンプは76.5、81.0%、スキルは67.6、82.1%であった。 3)プログラムで最もケガの予防に役立つと思われる項目:ミニは筋力とジャンプ、ジュニアはジャンプであった。4)プログラムを通常の練習に取り入れたいか:対象全員が取り入れたいと回答した。5)プログラムを練習に取り入れる場合の時間:最も回答の多かった時間はミニ15、ジュニア20、保護者20、指導者10分であった。プログラム紹介後の実施状況:紹介後4ヵ月での実施状況は、ミニはジャンプ、スキルの一部、ジュニアは筋力、ジャンプの一部が実施されるのみで、プログラムは通常練習に十分に取り入れられていなかった。<BR>【考察】ミニ・ジュニア選手に対するプログラムのスポーツ現場への導入は、ジュニアを中心に下肢外傷が多数発生していること、ベーシックを中心としたプログラムがミニ約70%、ジュニア約80%の自覚的達成率で実施可能であること、選手、保護者、指導者全てが通常練習への導入を希望していること等から早期に実現すべきと考える。しかし、スポーツ現場への導入は今回紹介したスポーツ傷害講座の開催による現場指導者や選手へのスポーツ外傷予防に対する理解を得るのみでは困難であった。スポーツ現場への導入にはそれに加えてプログラムの実施が現場のスポーツ活動の妨げにならず、さらに競技力向上につながるプログラムメニューの工夫が必要であり、我々理学療法士がスポーツ現場に足を運び指導者、選手と意見交換を重ねメニューを作成することが必要不可欠と考える。具体的には1)プログラムの実施時間は10~15分とする、2)プログラムの内容はウォームアップメニューとしてリズミカルでチームの士気を高め、さらにサーキット形式、ボールを使った形式など実践に近いメニューも取り入れる等の工夫が必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】スポーツ現場は外傷予防に強い関心を持っているがその導入に至っていないのが現状である。外傷予防プログラムの内容、導入方法等の検討はスポーツ傷害の発生機序からの予防対策として重要であり、理学療法学研究としての意義は高いと考える。<BR>
著者
西山 知佐
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O1166-E3O1166, 2010

【目的】リハビリテーション(以下リハとする)医療における今後の展開として、訪問リハサービスの提供量を増やし、かつ質も高めることで国民により認知されるよう働きかける動きがある。一方で鍼灸マッサージ師等が訪問マッサージを行っているが、なかには「訪問リハビリマッサージ」と称して機能訓練も行う業者も存在する。介護保険制度においては利用者本位の観点から必要でかつ適切な介護サービスが選択できることが理念の一つとして謳われている。我々現場で携わる者としては質の良いサービスを提供しないと利用を中止され、さもないと経営面にも大きく影響する場合もある。このような状況下にありながらも、どの程度サービスを利用されているのか実態を調査した文献はなかった。そこで訪問リハと訪問マッサージの併用利用について調査し、現状を把握することを目的とした。<BR><BR>【方法】対象者は平成20年10月から21年9月までの間で当院理学療法士(以下PTとする)が提供する訪問リハを1か月以上利用した76名とした。サービス利用状況は調査期間内の対象者のサービス提供票から集計した。必要に応じて担当PTやケアマネージャー、利用者およびその家族からの情報を参考にした。さらに愛知県介護サービス情報公表センター、社団法人愛知県鍼灸マッサージ師会のホームページを参考に、当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区の資源の分布状況を調査した。<BR><BR>【説明と同意】訪問リハ開始にあたって契約時に個人情報の取り扱いについて説明を行い、文書で同意を得た。個人情報取り扱いに関する院内規定に則り実施した。この中には質の向上のための研究が使用目的の一つに挙げられている。<BR><BR>【結果】対象者76名のうち訪問マッサージを利用しているのは10名、過去に利用していたのは3名、加えて接骨院等へ通っているのは2名であった。うち訪問マッサージを利用した13名の介護度は要介護2が3名、要介護3が1名、要介護4が2名、要介護5が7名であった。該当する利用者の障害像は要介護2、3の場合は疼痛が強く日常生活に何らかの支障を来していた。ADLのほとんどは自立もしくは一部介助レベルであるが、外出は諸々の事情により困難であった。一方要介護4、5の場合は関節可動域制限や疼痛のあるケースがほとんどであり、寝たきりでおおむね全面的に介助が必要な状態であった。訪問マッサージ利用者が他に利用している介護保険サービスとその人数は訪問介護8名、訪問入浴6名、訪問看護9名、通所介護2名、通所リハ1名、短期入所3名であった。当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区のサービスの分布状況は訪問リハが11箇所、リハを提供している訪問看護ステーションが15箇所であった。また従事者数は訪問リハのPT38名、訪問看護ステーションのPT24名に対して、鍼灸マッサージ師会の登録者は164名であった。<BR><BR>【考察】今回当院訪問リハ利用者の中における訪問マッサージ利用者の割合は19.7%であったが、他事業所との比較については言及できない。あくまで当院利用者における傾向を知るものであり、この研究の限界である。また資源の分布状況についても公表されているデータを用いたため、妥当性に欠けるところがある。ある文献にて「近隣に訪問リハサービスがなかったため、訪問マッサージを導入した」という報告が散見されたが、当院近隣の状況はこれとは違い決してサービス量は少なくない。だが訪問リハに従事しているPTよりも鍼灸マッサージ師の方が圧倒的に多く、提供できるサービス量の上でも後者の方が多いと思われた。しかし単純に量だけでなく、併用しているケースが存在することを考えるとリハとマッサージを使い分けて利用していることが示唆された。その背景として訪問マッサージは医療保険を使用できること、訪問リハよりも自己負担が少ないこと、ケアマネージャーの中で「リハは運動、マッサージはリラクゼーション」というイメージを持っていることが挙げられる。特に要介護4、5の利用者は利用限度枠近くまでサービスを利用しており、それに伴い経済的負担も大きく困っている利用者も少なくなかった。さらに関節拘縮予防の目的で短時間でもよいので運動頻度を増やしたい思いが利用者の中にあり、訪問マッサージも導入したのではないかと考えられた。またこれ以外のケースにおいては疼痛緩和やリラクゼーションの目的でマッサージを選択し、リハは運動や生活指導の目的で利用していると考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後PTの職域の拡大を目指し、PTをはじめ多くの人々が努力している。さらなる発展のためには我々の置かれている現状とそれを取り巻く周囲の様子を把握しておく必要があると考える。