著者
加川 隆三郎 斎藤 徹 宮岡 哲郎 黒川 彰夫 有竹 賀子 吉川 宣輝 西庄 勇 岩田 辰吾 竹林 正孝
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.505-512, 1998 (Released:2009-06-05)
参考文献数
25
被引用文献数
9 2

ヒトパピローマウイルス(HPV)は,子宮頚癌をはじめ各種扁平上皮癌組織にそのDNAが検出され,HPV感染による発癌機構の解明が進みつつある,諸外国では肛門管,直腸の扁平上皮癌にHPV-DNAを確認した報告がみられるが,本邦ではほとんどない。今回,HPV-DNAの検出に最も感度が高く,また型の同定も可能なPCR法により,日本人の肛門管,大腸の扁平上皮癌発癌におけるHPVの関与を研究した,方法:肛門管扁平上皮癌18例,その他の肛門管癌5例および大腸扁平上皮癌3例のパラフィン包埋標本より得られた検体のDNAをPCR法にて増幅,制限酵素にて処理後,消化パターンにより型判定をおこないHPV6,11,16,18,31,33,42,52,58について検討した.また肛門管扁平上皮癌症例で,HPV,p53に対する免疫組織化学的検討を行った.結果:肛門管扁平上皮癌症例のうち3例からHPV16,1例からHPV6のDNAが検出され,HPVによる発癌が示唆された。免疫染色では扁平上皮癌細胞の核が染色され,癌細胞核内のHPVの存在,mutantp53の蓄積が示された.欧米の成績と比較してHPVの種類には差はないものの,検出頻度は低かった.しかし,日本人の性習慣の変貌にともない,肛門管の扁平上皮癌の感染実態の変化が予想された。
著者
万井 真理子 辻仲 利政 西庄 勇 三嶋 秀行 吉川 宣輝
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.335-341, 2001-05
被引用文献数
13 7

症例は58歳男性. 右下腹部痛と下痢を訴え受診. 7年前胃癌にて胃全摘術施行. 注腸で横行, 下行, S状結腸と直腸に壁の辺縁硬化や鋸歯状不整を伴う全周性狭窄と粘膜の顆粒状小隆起を認めた. 内視鏡で同部の粘膜が浮腫状に肥厚し, 浅い潰瘍や半球状の顆粒集族も認めた. 生検上低分化腺癌・印鑑細胞癌を認め原発性びまん浸潤型大腸癌または胃癌による転移性びまん浸潤型大腸癌を疑い手術施行. 腹膜播種なく左半結腸切除および直腸切断術を施行. 病理組織で初回手術の胃癌同様, 粘膜下層中心に漿膜下までの癌浸潤と間質結合組織増生を認め, 胃癌による4領域を越える転移性大腸癌と診断した. 転移性大腸癌は原発巣術後5年以上でも発症し, 臨床的所見に乏しいことがあるため注腸等による定期的な画像診断が有用だが原発性びまん浸潤型大腸癌との鑑別が必要である. 転移巣切除後の予後は良好でないが, 治癒切除可能ならば原発性大腸癌に準じた手術を行うべきである.