著者
田中 利男 島田 康人 西村 有平
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.S20-1, 2015

ゼブラフィッシュは、発生生物学のモデル動物として長い期間研究されてきましたが、最近15年間は特に創薬のすべてのプロセスに活用されるようになり、2008年以降ヨーロッパではラットを抜いてマウスに次ぐモデル生物になりました。ゼブラフィシュは、ヒトゲノムとの類似性、ゲノム編集の効率性、多産性、in vivoイメージングへの適合性、動物愛護管理法との調和性、ケミカルスクリーニングの最適性などから、創薬のあらゆるプロセスに活用され、欧米ではゼブラフィッシュの早期in vivoフェノタイプスクリーニング戦略により新しい医薬品開発が実現しています。さらに、ゼブラフィシュ創薬は、ターゲットバリデーション、前臨床薬効安全性スクリーニング、臨床個別化医療などにおける新しい脊椎動物モデルとして展開されています。たとえば、TALENやCRISPR/Casによるゲノム編集効率の高さは他の種を圧倒しており、世界的に多数の単一遺伝子疾患モデルが創生されております。さらに多彩な生活習慣病モデルも報告されており、病態機構解析だけではなく薬効スクリーニングがハイスループットで実現しています。我々は、ゼブラフィッシュの持つ薬効/安全性ケミカルスクリーニングや作用機構スクリーニングにおけるスループットをさらに増強するため、96、384、1536ウエルプレートシステムの構築とハイコンテンツフェノタイプイメージングへの統合を試みております。さらに、ヒト病態への外挿性を強化するために、ゲノムレベルにおけるヒト疾患遺伝子ノックインなどやヒト幹細胞移植などによるヒト化ゼブラフィッシュ創成に挑戦しています。さらに、ヒト臨床検体のゼブラフィッシュ移植後の治療薬感受性解析によるフェノミクスを基盤とする個別化医療への応用を試みております。これら最先端の次世代ゼブラフィッシュ創薬の国際的現状について報告し、近未来戦略を提案します。
著者
西村 有平
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.2, pp.88-91, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1

新たに承認される薬の数は,開発コストあたりに換算すると過去数十年間に渡り減少し続けている.この課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,ゼブラフィッシュを創薬に導入する機運が高まっている.ゼブラフィッシュは,ヒトへの外挿性,組織の複雑性,化合物スクリーニングの簡便性・高速性の三軸において比較的優れたバランスを持つモデル動物であり,産学官ともに創薬ツールとして利用される機会が増えている.本総説では,ゼブラフィッシュの表現型を指標とするin vivoスクリーニングを基軸とする創薬と,データベースなどを利用したin silicoスクリーニングとゼブラフィッシュの統合的利用を基軸とする創薬,という二種類のアプローチを用いた神経疾患治療薬の開発について概説する.また,ゼブラフィッシュを用いて発見された疾患治療薬が臨床に進んでいる具体例を提示する.今後,ゼブラフィッシュを用いた創薬研究の発展に伴い,ゼブラフィッシュで発見される疾患治療薬が臨床において真に有用である割合が明らかにされ,トランスレーショナルリサーチツールとしてのゼブラフィッシュの意義が確立されていくことが期待される.