著者
西田 清一郎 土田 勝晴 佐藤 廣康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.140-143, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

ケルセチン(quercetin)は代表的なフラボノイドのひとつで,有益なフィトケミカルとして食品では玉葱やワインに,また多数の漢方生薬に含まれている.臨床上,抗動脈硬化作用,脳血管疾患の予防,抗腫瘍効果を発揮することが知られている.ケルセチンは強い血管弛緩作用を表し,多様な作用機序が解明されているが,まだ不明な点も多く,現在議論の余地が残っている.我々はケルセチンの血管緊張調節作用を研究してきたが,ラット大動脈の実験から血管内皮依存性弛緩作用,血管平滑筋に対する複数の作用機序(Ca2+チャネル阻害作用,Ca2+依存性K+チャネル活性作用,PK-C阻害作用等)を介して,血管弛緩作用を発揮していることを明らかにしてきた.また,ラット腸間膜動脈の実験から,ギャップジャンクションを介したEDHF(血管内皮由来過分極因子)による血管弛緩作用も示すことを解明した.本稿では,ケルセチンの血管弛緩作用機序の総括と今後の研究課題をまとめた.
著者
西田 清一郎 佐藤 広康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.58-61, 2012-08-01
参考文献数
13

未病は,古来より東洋医学において重要なテーマとして掲げられている.未病ははっきりとした病が現れる前から体の中に潜む病態(状)を意味しており,まだ病ではない状態を意味しているのではない.未病は病を発生させる根本的な異常を意味し,東洋医学的には「〓血(おけつ)」と深いかかわりがあると考えられている.我々は,未病を現代医学的に解釈した場合,その病態は酸化ストレスの蓄積が一つの原因であると考えている.〓血に対して処方される駆〓血剤は,酸化ストレスの蓄積を抑制し,すなわち未病の進展を遅延,または阻害すると推察されている.駆〓血剤である桃核承気湯(とうかくじょうきとう)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)には,抗酸化作用があることが知られていた.酸化ストレスは血管緊張に変化を与えるが,これらの漢方薬は酸化ストレス負荷条件下で,血管の収縮を抑制し弛緩作用を増強した.駆〓血剤をはじめとする漢方薬は,酸化ストレスに対して,抗酸化剤として緩和作用だけではなく,状況に応じて酸化促進剤として血管収縮作用を表す.つまり,酸化ストレスをうまく制御して生体機能の調節作用をするものと考えられる.この酸化ストレス緩和作用は,酸化ストレスによる障害を和らげ,未病の進展を抑制していると思われる.
著者
西田 清一郎 土田 勝晴 佐藤 廣康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.140-143, 2015
被引用文献数
1

ケルセチン(quercetin)は代表的なフラボノイドのひとつで,有益なフィトケミカルとして食品では玉葱やワインに,また多数の漢方生薬に含まれている.臨床上,抗動脈硬化作用,脳血管疾患の予防,抗腫瘍効果を発揮することが知られている.ケルセチンは強い血管弛緩作用を表し,多様な作用機序が解明されているが,まだ不明な点も多く,現在議論の余地が残っている.我々はケルセチンの血管緊張調節作用を研究してきたが,ラット大動脈の実験から血管内皮依存性弛緩作用,血管平滑筋に対する複数の作用機序(Ca<sup>2+</sup>チャネル阻害作用,Ca<sup>2+</sup>依存性K<sup>+</sup>チャネル活性作用,PK-C阻害作用等)を介して,血管弛緩作用を発揮していることを明らかにしてきた.また,ラット腸間膜動脈の実験から,ギャップジャンクションを介したEDHF(血管内皮由来過分極因子)による血管弛緩作用も示すことを解明した.本稿では,ケルセチンの血管弛緩作用機序の総括と今後の研究課題をまとめた.
著者
西田 清一郎 佐藤 広康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.58-61, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
13

未病は,古来より東洋医学において重要なテーマとして掲げられている.未病ははっきりとした病が現れる前から体の中に潜む病態(状)を意味しており,まだ病ではない状態を意味しているのではない.未病は病を発生させる根本的な異常を意味し,東洋医学的には「〓血(おけつ)」と深いかかわりがあると考えられている.我々は,未病を現代医学的に解釈した場合,その病態は酸化ストレスの蓄積が一つの原因であると考えている.〓血に対して処方される駆〓血剤は,酸化ストレスの蓄積を抑制し,すなわち未病の進展を遅延,または阻害すると推察されている.駆〓血剤である桃核承気湯(とうかくじょうきとう)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)には,抗酸化作用があることが知られていた.酸化ストレスは血管緊張に変化を与えるが,これらの漢方薬は酸化ストレス負荷条件下で,血管の収縮を抑制し弛緩作用を増強した.駆〓血剤をはじめとする漢方薬は,酸化ストレスに対して,抗酸化剤として緩和作用だけではなく,状況に応じて酸化促進剤として血管収縮作用を表す.つまり,酸化ストレスをうまく制御して生体機能の調節作用をするものと考えられる.この酸化ストレス緩和作用は,酸化ストレスによる障害を和らげ,未病の進展を抑制していると思われる.
著者
佐藤 廣康 西田 清一郎 土田 勝晴
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.144-147, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2

東洋医学的概念,五臓の「腎」は先天の生命力を表し,老化予防・抗病力の賦活を意味する.更年期症状,冷え,全身倦怠,水分代謝の機能低下,頻尿,夜間頻尿,尿失禁,浮腫,前立腺肥大,性欲減退,勃起障害などの臨床症状を腎虚という.腎虚に対して処方される補腎剤には六味丸・八味地黄丸・牛車腎気丸があり,六味丸に2生薬ずつ添加した生薬構成をしている.補腎剤は若年ラット(10~15週齢)と高齢ラット(35週齢以上)で血管弛緩作用に違いを示した.単一フィトケミカル(植物由来機能物質)では薬理効果の加齢的減衰が著明であるが,多成分複合薬(漢方薬を含む)は抗加齢効果を表す.六味丸は,高齢ラットでは血管内皮依存性弛緩作用が弱くなった.高齢ラットで,八味地黄丸は六味丸より強い弛緩作用を表すが,内皮依存性弛緩作用はみられず,平滑筋作用が強い.牛車腎気丸は高齢ラットで弛緩作用は増強し,血管内皮依存性弛緩作用は保たれた.含有生薬の違い(種類,含有数)から,薬理作用に加齢的差異が表れたと考えられた.一方,糖尿病ラットでは,血管弛緩作用の加齢変化は著明に見られなかった.臨床適用では,長期投与によって主訴症状を改善した.同時に圧脈波解析では動脈スティフネス(CAVI)も著明に低下させた.病態下では急性投与での効果発現は表れにくく,長期投与の必要性が示唆された.
著者
佐藤 廣康 西田 清一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.126-129, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
11

シノメニンは漢方生薬,防已の主要含有フィトケミカルである.シノメニンの主たる心循環作用は血管弛緩作用であり,血管内皮依存性と血管平滑筋への複雑な作用機序に起因している.木防已湯と防已含有シノメニン単独の血管弛緩作用を比較すると,シノメニンは老齢ラットに対して弛緩作用が減弱するが,木防已湯は老齢ラットでもその弛緩作用を保持した.したがって,木防已湯に含有する多数の生薬成分,含有フィトケミカルによる複雑な相互作用によって,木防已湯は薬理作用の加齢変化を受けにくくなっていると推測された.一方,シノメニンは心室筋膜イオンチャネルにも作用し,抗不整脈作用を示し,心筋保護作用を表すことが解明された.よって,木防已湯エキス剤によって循環器疾患を改善する可能性が示唆された.すでに漢方薬を用いた診療は広い領域に応用されており,そのエビデンスも少しずつ構築されつつあるが,循環器領域における漢方薬,木防已湯の臨床適用に関する研究の発展は,今後一層期待される.
著者
西田 清一郎 佐藤 広康
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.638-642, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
17

症例は,耳鳴りを主訴に来院した70歳の男性。釣藤散の服用後,耳鳴りは,約10ヵ月で改善しそれまでにあった頭痛も改善した。しかし,釣藤散を減量後に,それまで見当たらなかった高血圧症が,みられるようになった。再度,釣藤散を通常量に戻したところ,投与開始日から,速やかに高血圧の改善を認めた。高齢者の耳鳴りを釣藤散はよく改善する可能性がある。また,本例から,釣藤散は,高血圧の程度が軽度で,深刻な合併症がない症例であれば,患者の随伴症状の治療とともに,投与でき,その降圧作用は,即時的に表れる可能性が示唆された。