著者
西谷 直之
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

がん細胞の特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬の登場で、がん治療は画期的な進歩を果たした。しかし、その多くはキナーゼと呼ばれる同族のタンパク質に作用する薬剤であり、薬剤の作用点は限られている。さらなる分子標的治療の発展のためには、キナーゼ阻害薬に並ぶ新たな薬剤やその作用点の同定が重要な課題である。本研究では、がん化に関連する細胞内情報伝達を阻害する天然由来の化合物を医薬品の原型に育て上げることを目的とする。この化合物は、キナーゼとは異なる情報伝達分子に結合するため、新規の分子標的治療薬の開発につながると期待している。
著者
米澤 穂波 池田 朱里 高橋 亮 廣瀬 友靖 岩月 正人 大村 智 砂塚 敏明 上原 至雅 西谷 直之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

Wnt/β-catenin経路は、細胞増殖や分化を制御するシグナルである。この経路の過剰な活性化が腫瘍の発生に寄与することが知られている。我々は、ゼブラフィッシュ胚を用いた表現型スクリーニングから、低毒性なWnt/β-catenin経路阻害剤として抗寄生虫薬のイベルメクチンを同定した。イベルメクチンは、β-catenin/TCF応答配列ルシフェラーゼ活性を低下させ、Wnt/β-catenin経路の標的遺伝子産物の発現を抑制した。また、イベルメクチンは、大腸がん細胞株においてWnt/β-catenin経路を阻害し、APC変異陽性マウスモデルでは大腸腫瘍の増殖を抑制した。イベルメクチンの標的分子を明らかにするため、固定化したイベルメクチンを用いて標的分子を探索し、質量分析によってイベルメクチン結合タンパク質(IvBP)を同定した。さらに、様々なIvBP変異体を用いたin vitro結合実験により、IvBP中のイベルメクチン結合領域をつきとめた。In vitroに加え、PROTACを用いたプロテインノックダウンにより、生細胞中でのイベルメクチンとIvBPの結合も明らかにした。siRNAによるIvBP遺伝子ノックダウンの結果、Wntによるβ-cateninタンパク質レベルの上昇がキャンセルされ、IvBPはWnt/β-catenin経路をポジティブに制御する因子であることが明らかになった。これらの結果から、IvBPを新たな創薬標的分子として提案する。