著者
大村 智 小畠 りか 田端 典子 砂塚 敏明 供田 洋
出版者
(社)北里研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

糸状菌Asperbllus fumigatus FO-1289の培養液中より19種のピリピロペン(pyripyropene A から R まで)と命名した一連の新しい化合物群を、アシル-CoA:コレステロールアシル転移酵素(ACAT)阻害剤として発見した。NMR測定(HMQC、^1H-^1HCOSY、HMBCなど)、X線結晶解析や改良Mosher法などにより絶対立体配置も含めた構造を明らかにした結果、ピリピロペンはピリジン、α-ピロンとセスキテルペンから構築されたユニークな共通骨格を有することが明らかとなった。各種前駆体化合物の取り込み実験や分解反応実験により、ピリピロペンAの生合成も明らかにした。ラット肝ミクロソームを酵素源としたACAT活性の測定から、成分A、B、C、D、L、Jは天然物の中で最も強力なACAT阻害活性を示すことが明らかとなった。天然由来ピリピロペンの構造活性相関を基盤に、約300の誘導体を合成し、そのACAT阻害活性が10倍以上向上した化合物を得た。また、ピリピロペンAとEについては異なったルートで全合成を達成した。誘導体について経口投与によるハムスターの消化管からのコレステロール吸収に対する影響を比較したところ、ピリピロペンAは投与量依存的にその吸収阻害が認められ(ED50は約100mg/kg)、さらに誘導体PR-86の活性(ED50は10mg/kg)はピリピロペンAより約10倍上昇した。今後、ピリピロペンについてさらに医薬品としての検討が加えられることを期待すると同時に、未だ不明な点が多いACAT酵素自身の生化学的解析の道具としての利用が期待される。
著者
米澤 穂波 池田 朱里 高橋 亮 廣瀬 友靖 岩月 正人 大村 智 砂塚 敏明 上原 至雅 西谷 直之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

Wnt/β-catenin経路は、細胞増殖や分化を制御するシグナルである。この経路の過剰な活性化が腫瘍の発生に寄与することが知られている。我々は、ゼブラフィッシュ胚を用いた表現型スクリーニングから、低毒性なWnt/β-catenin経路阻害剤として抗寄生虫薬のイベルメクチンを同定した。イベルメクチンは、β-catenin/TCF応答配列ルシフェラーゼ活性を低下させ、Wnt/β-catenin経路の標的遺伝子産物の発現を抑制した。また、イベルメクチンは、大腸がん細胞株においてWnt/β-catenin経路を阻害し、APC変異陽性マウスモデルでは大腸腫瘍の増殖を抑制した。イベルメクチンの標的分子を明らかにするため、固定化したイベルメクチンを用いて標的分子を探索し、質量分析によってイベルメクチン結合タンパク質(IvBP)を同定した。さらに、様々なIvBP変異体を用いたin vitro結合実験により、IvBP中のイベルメクチン結合領域をつきとめた。In vitroに加え、PROTACを用いたプロテインノックダウンにより、生細胞中でのイベルメクチンとIvBPの結合も明らかにした。siRNAによるIvBP遺伝子ノックダウンの結果、Wntによるβ-cateninタンパク質レベルの上昇がキャンセルされ、IvBPはWnt/β-catenin経路をポジティブに制御する因子であることが明らかになった。これらの結果から、IvBPを新たな創薬標的分子として提案する。
著者
上田 あかり 廣瀬 友靖 林 裕美 岩月 正人 穗苅 玲 石山 亜紀 砂塚 敏明
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景・目的】マラリアは世界三大感染症の一つであり、近年は薬剤耐性原虫の出現から、新たな作用機序を有する新規薬剤の開発が急務となっている。このような背景のもと、当大村智記念研究所において、糸状菌Paracamarosporium属FKI-7019株の培養液からKozupeptin A(1)が単離された。1は抗マラリア活性を有し、新たな抗マラリア薬のリード化合物として期待される。そこで我々は、1の効率的な全合成と構造活性相関の研究に着手した。【方法・結果】すでに報告している疎水性タグAJIPHASE®️を用いた1の全合成経路1)では、C末端のアルデヒド形成におけるエピメリ化が課題となった。そこで、我々は新たな疎水性アンカー分子(2)をデザインした。従来、タグとアミノ酸との結合はエステル結合によるものだったが、この結合をWeinrebアミドタイプにすることで、還元によるタグの除去とアルデヒドの形成を一挙に行うことができると考えた。さらに2を用いることで、ペプチド合成の際固相合成では困難であったC末端の還元を克服し、液相合成中でのアルデヒド形成を様々な基質で簡便に行うことができると考えられる。HO-TAGa2)から2を導き、晶析による簡便な手法でペプチド鎖を伸長したのち、還元条件を種々検討し3を合成したことで、形式的に1の全合成を達成した。さらに、新たにデザインした2を用い、様々な誘導体を合成し構造活性相関研究を行ったので報告する。【参考文献】1) Y. Hayashi, et al., Organic Letters. 2019, 21 (7), 2180.2) H. Tamiaki, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2001, 74, 733.
著者
砂塚 敏明 長光 亨 大村 智
出版者
社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.478-488, 1998-06-01
参考文献数
37
被引用文献数
2

The first total synthesis of the microbial a-pyrone meroterpenoid, (+) -pyripyropene A (1), acyl-CoA : cholesterol acyltransferase (ACAT) inhibitor, which is effective and concise convergent approach (14 steps, 9.3% overall yield), designed to afford easy access to both the natural products and a variety of analogs, has been achieved. The key step is the coupling reaction between a-pyronepyridine moiety (4) and the acid chloride of sesquiterpene moiety (3) in the presence of Lewis acid to construct ketone (2). The sesquiterpene moiety has been synthesized started from (+) -Wieland-Miescher ketons via stereoselective reductive formylation, palladium associated carbonylation, and allylic oxidation.<BR>(+) -Pyripyropene E (36) also has been synthesized from farnesyl acetate (9 steps, 9.6% overall yield). The convergent and stereoselective route exploited a biomimetic polyene cyclization as the key transformation.
著者
砂塚 敏明 長光 亨 大村 智
出版者
社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.740-751, 1996-09-01
参考文献数
48
被引用文献数
3

A total synthesis of the microbial metabolite (+) -lactacystin (1), the first non-protein neurotrophic agent, has been achieved in 11 steps (14% overall yield) from 2 (R), 3 (S) -3-hydroxyleucine. The key steps in the elaboration of the lactam moiety include the stereoselective hydroxymethylation of oxazoline and an asymmetric allylboration of the aldehyde which introduce the hydroxyl and methyl substituents at C (6) and C (7).<BR>This new asymmetric approach furnished four stereoisomers of 3-hydroxyleucine as required starting material in high overall yield and enantiomeric purity.<BR>Furthermore, the construction of several active analogs and the structure-activity relationships of lactacystin are also described.
著者
松根 彰志 黒野 祐一 砂塚 敏明 大久保 公裕 吾妻 安良太 藤倉 輝道 後藤 穣 吉福 孝介 大堀 純一郎
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マクロライドは本来抗菌薬としての作用があるが、慢性副鼻腔炎治療の分野では抗炎症作用としての働きが期待され、近年「マクロライド少量長期投与療法」が確立された。しかし、鼻茸や副鼻腔粘膜に好酸球浸潤が著明に認められ、アスピリン喘息を含む気管支喘息の合併が高頻度に認められる成人での難治性、易再発性の慢性副鼻腔炎には効果がない。経口ステロイドの漸減療法や長期使用に頼らざるをえないのが現状である。一方マクロライドには、過剰な免疫反応の抑制、調整作用やあることも分かってきていることから、直接の治療効果がなくてもステロイドのいわゆる増強する作用(primingeffect、プライミング効果)が期待でき、本疾患治療におけるステロイド使用の減量が期待できると考えられた。手術で得られた鼻茸粘膜の培養系や、術後症例に対するマクロライド少量長期投与とステロイド点鼻の併用効果から、期待されたプライミング効果はすべての症例に対して認められたわけではなかったが、程度の差はあるものの症例によっては認められた。どのような症例で認められるかについては今後の検討課題である。ただし副作用の点などから、術後の内服ステロイドの30~40mg/dayからの漸減療法2週間終了後、マクロライドの少量長期投与にステロイド点鼻(鼻噴霧用ステロイドよりはベタメタゾン点鼻)の併用でとりあえず様子を見ることは意義のあることであり、今回の重要な研究の成果と考えられる。更なる症例の蓄積による検討が必要である。