著者
角井 誠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は、フランスの映画監督ジャン・ルノワールの演技指導のあり方を明らかにすることによって、フランス映画を演技論の観点から再考し、映画における演技の独自性を解明することを目的としている。本年度も昨年度に引き続き、パリの映画図書館(BIFI)などにおいて作品の製作資料や映画雑誌の調査を進め、ルノワールの演技論や演技指導のあり方を同時代の演技をめぐる言説や実践のなかに置き直すことを試みた。本年度はとりわけ、昨年度に行ったサイレント時代におけるルノワールの演技論についての研究を踏まえたうえで、トーキー以降の演技論について検討した。具体的には、トーキー移行期のルノワールが、一方で台詞を警戒する前衛的な立場から距離を取りつつ、他方で当時主流となった、台詞を中心とする演劇的な映画とも一線を画しつつ、人物の個性に即した独自の声の演出、演技指導のあり方を模索していった過程を当時の資料に基づき考察した。また、その過程で確立されていった、テクストの朗読による「イタリア式本読み」と呼ばれるリハーサル方法についても、同様の方法を用いていた舞台演出家ルイ・ジュヴェとの関係性という観点から検討を行った。以上の作業を通じて、同時代の映画および演劇における言説を背景に、ルノワールの演技論の輪郭を浮かび上がらせる手がかりを得ることができたと考えている。これら研究の成果は、早稲田大学演劇博物館グローバルCOE「演劇・映像の国際的研究拠点」の紀要および国際シンポジウム「ACTING-演じるということ」において発表した。