著者
松尾 智英 大倉 信彦 角田 浩之 矢野 泰弘
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 = Journal of the Acarological Society of Japan (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-23, 2013-05-25
参考文献数
105
被引用文献数
7

マダニ上科は主に2つの科,すなわちマダニ科(Hard tick)とヒメダニ科(Soft tick)とに分類され,マダニ科はさらにそれらの繁殖の違いによって Prostriata(マダニ科マダニ属)および Metastriata(マダニ属を除くマダニ科の属)に分けられる.すなわち,各グループに属する種はそれぞれ特徴的な繁殖システムや器官を有している.加えて,マダニ類は様々な病原体のベクターとしても重要な生物群である.Metastriataグループに属するフタトゲチマダニは単為生殖系統と両性生殖系統が存在するという特徴をもち,オーストラリア,ニュージーランド,ニューカレドニア,フィジー諸島,日本,朝鮮半島および中国・ロシア北東部に広く分布している.本種はまた Q熱リケッチア,ロシア春夏脳炎ウィルス,タイレリアおよびバベシア原虫のベクターとしても知られており,我が国における牧野の最優占種であるフタトゲチマダニは放牧牛にピロプラズマ病を媒介するという点で農学・獣医学上重要であると考えられている.そこで,我々がこれまでに明らかにしてきたフタトゲチマダニ両性生殖系統の繁殖に関する知見をここにまとめる.