- 著者
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謝 陽
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- E-journal GEO (ISSN:18808107)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.2, pp.131-146, 2012-09-28 (Released:2012-09-28)
- 参考文献数
- 23
本研究では,木曾漆器の産地である長野県旧楢川村を対象に,1980年代以降の生産構造の転換と中国産漆器製品との関係を明らかにし,漆器業者による「伝統」の再構築について考察した.方法論として,漆器業者へのアンケート調査と,特定の業者へのインタビュー調査を組み合わせた.その結果,事業所の生産形態,規模,歴史などによって中国産製品の扱い方はかなり異なっていることがわかった.中国産製品を取り入れている事業所は,製造過程の一部に組み込み,販売面では安価品の提供と考えている.一方,中国産製品を排除する事業所は,自家製造のオリジナリティに「伝統」を再発見しようとしている.ゆえに,「伝統」のとらえ方は一元的なものでなく,中国産製品との関係性の中で常に変化しているものだといえる.中国産製品への評価は,必ずしも品質の悪さに帰結することはなく,漆器業者ごとに多様なとらえ方がある.なお,本稿では歴史-地理的な視点を用いて個人誌に注目し,国境を越えた特定個人間のつながりが,この漆器産地を支えていることを明らかにした.