著者
谷井 陽子
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.491-524, 2009-05

モンゴル帝国は中国を軍事征服したが、明はモンゴル勢力を軍事的に屈服させることはできなかった。これは専ら軍事的条件の相違による。中国から草原地帯に侵攻しても占領地を経営することができないため、段階的に領土を広げていくことができず、軍事基地を維持することさえ困難であった。そのため、明側から攻撃をしかける場合、補給上の制約を受け、可能な軍事行動の範囲は著しく限定された。兵力において優勢であっても効果的に打撃を与えられず、逆に殲滅される危険性が高く、敵を追い詰めることは事実上不可能であった。しかも攻勢に出た場合の財政負担は甚大なものとなった。永楽帝の親征は、この制約下で最大限の努力をしたものと言えるが、実質的成果は僅かであり、最終的には財政的限界によって行き詰る。こうして明からモンゴル側への攻勢は無益と証明され、明は防衛に徹した軍事体制を維持するため、国内制度を整備することを余儀なくされた。
著者
谷井陽子著
出版者
京都大学学術出版会
巻号頁・発行日
2015