著者
谷内 涼馬 原 天音 森岡 真一 松川 佳代 植西 靖士 長谷 宏明 牧野 恭子 原田 俊英
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.339-346, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
20

目的:高齢パーキンソン病(PD)患者の短期集中入院リハビリテーション(集中リハ)開始時の評価から,2週間後の転倒リスク変動を判別する予測モデルを検討すること.方法:対象は当院にて集中リハを実施した65歳以上のPD患者のうち,集中リハ開始時のTUG-cognitiveが転倒リスクカットオフ値である14.7秒以上であった17名(平均年齢76.5±6.1歳)とした.集中リハ開始2週間後のTUG-cognitiveから転倒リスク低下/残存の2群に分類した.低下群と残存群間における各評価項目の比較および,2週間後の転倒リスク残存/低下を従属変数にしてロジスティック回帰分析を行い,転倒リスク変動に影響を及ぼす要因を検討した.結果:ロジスティック回帰分析の結果,最終的に最大歩行速度が転倒リスク変動の予測因子として抽出された.また,ロジスティック関数から転倒リスク残存の発生率を求め,最大歩行速度が0.84 m/秒以下でハイリスクと判定された.結論:集中リハ開始時のTUG-cognitiveと最大歩行速度から,2週間後の転倒リスク変動を判別できる可能性が示唆された.転倒リスクの低下には,最大歩行速度の向上が重要である.
著者
谷内 涼馬 山本 浩基 田代 桂一 道広 博之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0906, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】聴覚器の悪性腫瘍は頭頸部悪性腫瘍の1%前後とまれな疾患である。中耳悪性腫瘍に対する腫瘍摘出術後の理学療法に関する報告は見受けられず,その経過は不明である。そこで今回,中耳悪性腫瘍に対する腫瘍摘出術後に前庭機能障害を呈した症例の理学療法経過を報告する。【症例提示】70歳代後半,女性。ADLは自立。手術を目的に当院へ入院され,左側頭開頭腫瘍摘出術施行。悪性所見を伴った骨浸潤を認めたため,三半規管は摘出された。術後より悪心・嘔吐,頭位変換に伴う回転性のめまいを認め,歩行時のふらつきが強く自立歩行困難であった。術後3日より,バランス機能改善目的で理学療法開始となる。【経過と考察】理学療法は平行棒内歩行より開始し,術後1週のFunctional Balance Scale(FBS)は15点であった。術後3週までは悪心・めまいが強く,現症を助長する急激な頭位変換に留意した。十分な上肢支持の下,side stepやtandem gaitなどを中心に実施。徐々に悪心・めまいが治まり,術後4週より手放しでの練習に移行。バランス機能も改善を認め,cross stepや振り向き動作を含むback gaitも実施。歩行については病棟内自立となった。術後6週よりダイナミックなバランス練習を開始。術後9週のFBSは51点となり,術後14週で自宅退院となった。一側前庭器官が不可逆な損傷を受けると,中枢前庭系には神経機能の左右差を是正する回復機構(前庭代償)が働く。しかし,健側前庭覚への入力停滞・遅延は前庭眼反射や前庭脊髄反射の低下を惹起し,前庭代償が十分に働かない。本症例では術後早期からバランス練習を実施し,健側前庭覚への入力を継続した。また,現症とバランス機能に応じて練習難易度を高め,前庭代償の停滞を防いだことも機能改善に寄与した可能性が考えられた。急性期の前庭機能障害に対する理学療法では,現症の回復時期に応じて練習難易度を変化させ,前庭代償を促進することが肝要であると思われた。