著者
小橋 浅哉 谷川 勝至
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

紙は、植物を原料として製造されるパルプを主な成分としている。紙類に含まれる放射能のレベルや紙類をめぐる放射性核種の動態を明らかにするため次のような研究を行った。1 書籍中の^<137>Cs濃度の発行年に伴う変化は、^<137>Csフォールアウト降下量の年変化のパターンによく似ている。その原因を明らかにするために、国内で1960年代に印刷された書籍について、中身と表紙に分けて^<137>Csの含有量を測定した。中身はほとんど^<137>Csを含んでいなかった(0.2 Bq kg^<-1>以下)。表紙については、芯材の板紙が稲わらを原料とする黄ボールのものは^<137>Cs濃度が高く(1.0-5.7 Bq kg^<-1>)、チップボールのものには^<137>Csは検出されず、半黄ボールのものは両者の中間の濃度を示した(0.2-1.0 Bq kg^<-1>)。このことから書籍に含まれる^<137>Csは、ほとんど稲わらから来たことがわかった。書籍中の^<137>Cs濃度と^<137>Csフォールアウト降下量の年変化の類似は、稲わらの^<137>Cs含有量の年変化および1960年代半ばからの表紙の板紙の種類の変化により説明できる。2 国内で1990年代に発行された新聞および情報用紙について、天然放射性核種(^<226>Ra、^<228>Ra、^<228>Th、^<40>K)およびフォールアウト核種(^<137>Cs)の放射能を定量した。新聞試料中の天然放射性核種の濃度は低かった。情報用紙の一つには、30 Bq kg^<-1>もの濃度の^<228>Raおよび^<228>Thを含んでおり、これらの核種は、填料のカオリナイトによってもたらされたと推定された。^<137>Csは、情報用紙においては検出されなかったが、新聞については全試料において検出された(0.1-0.2 Bq kg^<-1>)。新聞用紙については、使用されている機械パルプに原料木材に含まれていたフォールアウトの^<137>Csの一部が残っているため、^<137>Csが検出されたと推定された。紙類に含まれる放射能の測定データをもとに、紙類の燃焼に伴いごみ焼却場から排出される放射能の影響について、石炭との比較により考察した。