著者
谷本 愼介 Shinsuke Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.31-49, 2016-09

『悲劇の誕生』はニーチェの哲学者としての処女作とされているが、古代ギリシャ悲劇の誕生を論じているのは、全25節のうち第7 、8 節のみであり、古代ギリシャ悲劇の誕生を文献学的に実証しようとした書ではない。本書の正式タイトルは『音楽の精神からの悲劇の誕生』だが、「音楽の精神」という独特の用語はワーグナーが『ベートーヴェン』でくり返し用いたものを借用したものである。また本書で提起される「ディオニュソス的世界観」はバッハオーフェンの「バッカス的世界観」からの借用である。立論に当たってニーチェは先達の発明した概念や命題を借用、活用しながら、「悲劇は音楽の精神から生まれる」という個別命題を一挙に普遍化して、「文化は音楽の精神から生まれる」という前代未聞の画期的な命題を打ち立てた。