著者
谷津 勲 朝倉 伸司 名倉 正明 福田 収 横山 公要 坂田 洋一 浅野 泰 目黒 輝雄
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.27, no.8, pp.1159-1167, 1994-08-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
35

透析時残血発生機序の検討の一つとして再生セルロース膜に吸着されるマトリックス蛋白質の動態および血液凝固反応の関与を検討した. 血液凝固反応に関しては血液凝固亢進の分子マーカーであるTAT複合体の変化を検討した. 合併症のない慢性腎炎より腎不全へ移行した安定した血液透析患者を対象とした. そのうち透析時残血の存する群 (残血群n=4), 残血のない群 (非残血群n=5) に分けてマトリックス蛋白質であるFbg, VNの透析時血漿中濃度の推移および透析器膜よりの50mM Tris HCl-1M NaCl, pH 7.4による溶出分画中の濃度, 分子パターンを検討した. TAT濃度に両群間で差はなくまた正常範囲内であり残血群でも血液凝固反応が進行している所見はない. このことより残血は血小板の膜への接着を中心とする一次止血機構に似た反応が推定された. マトリックス蛋白質であるFbgの血漿中濃度の推移は両群間で差は認められなかった. しかしVNの血漿中濃度の推移は残血群でより高値の傾向を示した. Immunoblotting法による分子パターンは大きな差は認められなかった. しかしながら透析器膜の1M NaCl-Tris buffered saline (TBS) による溶出分画中の蛋白質には他のマトリックス蛋白質に比しVNが多く含まれていた. またそのimmunoblotting法による分子パターンではVN-multimerが残血群でより多く認められた. この溶出分画中にはFibrinおよびFibrin-bound FNは認められなかったことから, このVN-multimerはFibrin由来とは考えられず, 従って残血の結果生じたものではなく, むしろ残血発生の原因の一つと考えられた. これらの結果より透析時残血発生機序の一つとしてVN-multlmerが強く関与していることが推定された.