著者
賀 申杰
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.1-36, 2021 (Released:2022-02-20)

これまで、明治期の横須賀造船所の事業状況に関する研究は主に焦点を国内の軍需と民需の両面にあてて論じているが、本稿は外国船の修理という視点を導入し、明治一六年の海軍軍拡の開始まで、船舶の修理事業に重点を置いた横須賀造船所の事業状況、とりわけ外国船修理の受入れに対する造船所・海軍省の態度ついて検討を試みました。 この時期、部外船の修理の受入れに対する海軍の態度に関する考察として金子栄一・小林宗三郎、室山義正らの研究があげられる。これらの研究は修理船の外需の排除を海軍の方針として理解し、その上で、ヴェルニーの解雇の原因として外国船修理に関する彼の方針への海軍の反発があったと理解している。さらに、ヴェルニーが解雇されて以降も、造船所が依然として広く外国船の修理に従事したことについてそれを海軍の意図に反するやむを得ない選択として理解している。 しかし、前掲の各研究は史料的制約に規定され、その説は充分な実証に支えられているとは言いがたい面も多い。実際当時海軍・外務両省の公文を分析すると、当時両省はむしろ外国船修理の受入れに歓迎していた。 以上の研究を踏まえ、本稿は従来では史料的な裏付けが弱かった横須賀造船所における外国船修理状況に注目し、外国船の修理申請に関する規則の制定過程を明らかし、その上で、外国船修理の受入れに対する海軍・外務両省の態度を再検討したい。よって、第一章ではフランス人主導時代の横須賀造船所における外国船修理の受入れ状況を分析し、当時造船所の経営上に存在した問題を究明する。そして第二章では、ヴェルニーの解雇前後における外国船修理の申請手続きに関する規則の制定・改正の過程に注目し、規則の制定をめぐる海軍の意図を明らかにしようとする。最後の第三章では、ヴェルニーの解雇後の明治一〇年代前半における外国船修理の事業状況を分析し、外国船修理の受入れに対する海軍の態度を分析する。