著者
赤峯 倫介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.162-166, 1960
被引用文献数
1

台風22号による狩野川流域の豪雨およびそれにともなう洪水は,上流山地に非常に多くの崩壊地を発生せしめ,河岸を掃流し,中下流部の堤防を破壊し,流域に非常に大きな被害をもたらした.この水害の発生機構を明らかにするためには,狩野川の自然的性格の変化の過程と,その変化を促進した流域の社会的,経済発展のプロセスから明らかにしなければならない.狩野川では古来いく度となく大きな水害が繰り返えされ,一部常習的水害地域には堤防が構築されていたが,明治20年頃まではこの川は自然河川としての性格が強かつた.その後流域の治水対策はしだいに進展しとくに明治末期-大正期にかけて行われた高水方式による河川改修は,狩野川の自然的性格を著しく変化せしめた.他方この川の流域では日本資本主義の発展の中で社会的経済的の発展をみたが,その発展は無統制無秩序に進められた.この治水諸施説と流域社会経済の発展との不均衡が今次の大水害の要因をなした.