著者
出口 竜作 佐々木 博成 岩田 薫 越前 恵
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.53-61, 2009

カイヤドリヒラムシ(Stylochoplana pusilla)は、主にイシダタミガイ(Monodonta labio)の外套腔に生息している。本研究では、フィールドでの調査と研究室内での飼育・実験により、本種の生殖とライフサイクルについての基礎的知見を得ることを目指した。イシダタミガイを定期的に採集し、内部から得られたカイヤドリヒラムシの個体数、個体サイズ、および性成熟の有無について調べたところ、夏期にのみ性成熟した個体が見られること、秋期の初めに小型で未成熟な個体が急激に増加することが分かった。性成熟したカイヤドリヒラムシの受精嚢内には、すでに受精した卵が保持されていた。このような受精卵は減数分裂第一分裂中期で細胞周期を停止していたが、海水中に産卵されると減数分裂を再開し、卵割を経て幼個体に至った。また、人工的に海水中に切り出されることによっても発生を開始し、一部は幼個体にまで発生した。未成熟なカイヤドリヒラムシをアルテミア(ブラインシュリンプ)の幼生を餌に23℃で飼育したところ、性成熟が誘起され、受精嚢内には正常な受精卵が見られるようになった。また、同じ飼育法で幼個体を性成熟させ、再び産卵させることにも成功した。以上のような飼育法の確立により、カイヤドリヒラムシのライフサイクルを制御し、1年間を通して生殖に関する観察・実験を行うことが可能になった。