著者
馮 文和 趙 佳 藤原 昇
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.107-112, 1997-09
参考文献数
9

本研究では, ジャイアントパンダの年齢と精液生産との関係, 電気刺激によって採取された精液の一般性状ならびに新鮮精子と凍結保存精子の体外における生存性などについて比較検討した。ジャイアントパンダは大体5〜25歳までが繁殖可能な年齢で, この期間内にあるものを実験に供した。精液は電気刺激によって採取した。採精後直ちに精液性状を検査した。ついで精液の一部を7%グルコース液で希釈して4℃で保存した。一方, 凍結精液については, 約2%のグリセロールを含む緩衝液で希釈した後, ドライアイスを用いたペレット法で凍結し, 液体窒素中(-196℃)で保存した。ジャイアントパンダの精巣の発達は年齢15歳くらいで最高となり, その後徐々に衰退することが確認され, 精液量も8〜14歳が最高であった。一方, 電気刺激によって採精した精液の量および精子濃度に繁殖季節による差異がみられた。また, 精液量と奇形精子数との間にも関連性が認められ, 精液量が少ない場合には無精子のものも観察された。つぎに, 精液のpHについてみると, 6.4〜7.2の範囲を外れると体外保存した精子の生存性が著しく低下する現象がみられた。さらに, 体外における精子の生存性をみると, 射出直後の精子を0〜4℃で保存すると, 約130時間(約5日)生存したが, 受精可能な運動性(30%以上)を保持するには60時間が限度であった。一方, 凍結・融解精子を37℃で保存した場合, 30%以上の運動性を保持するのは90分間程度であったが, 全ての精子が運動性を停止したのは約6時間後であった。
著者
馮 文和 趙 佳 藤原 昇
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.135-142, 1996
参考文献数
10

ジャイアントパンダの自然における棲息状態をみると, 中国本土においてすら自然環境が徐々にではあるが破壊され, 棲息分布範囲が狭められており, それにともなって個体数も少しずつ減少していく傾向には変わりはない。また, 現在, 中国では14の自然保護区と17の自然棲息地帯, 例えば, 秦嶺山脈や臥龍山脈などがあるが, これらの場所あるいは地域へ人間の侵入を完全に禁止することができれば, 野生パンダの絶滅を少しは遅らせることができるのではないかと思われる。一方, 世界各国に出ているパンダについても, 例えば, 動物園, 研究所およびその他の施設で飼育されているものについては, 人工繁殖などが盛んに実施されており, 成果は上がっているようである。しかし, パンダの繁殖あるいは保育に関する研究は, まだ緒についたばかりで, これからの研究課題である。これまでのところ, 人工繁殖によって得られた子パンダを人工的に保育する技術が確立されておらず, 成獣になる割合は極めて低い現状である。これが今後の問題でもあり, 十分に研究して, その対策を検討することが必要である。したがって, これからは以前にも増して, パンダに関する国際的規模での研究を発展させていく必要があろう。