著者
趙 南勲 洪 文植 林 謙治
出版者
日本民族衛生学会
雑誌
民族衞生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.298-314, 1996-09-30
参考文献数
21

韓国における家族計画プログラムの全国的な展開により,避妊の実行が普及すると共に出生率が低下してきた.こうした初期の目標が達成された中で,人工妊娠中絶は依然に高率であり,また,出生性比も増加する傾向にある.性比の歪み伝統的な男子選好に起因するものと思われる.本論文では妊娠結果の経年的変化を調査し,人工妊娠中絶の決定要因を分析すると共に中絶と男子選好が性比の歪みどのように影響を与えているかを検討した. 人工妊娠中絶率は1980年代前半まで急激に増加しており,中絶と出生はほぼ同数であった.その後,中絶率は高い水準で推移し,出生回数が多いほど中絶率が高い傾向を示している.第1子出産後の次の妊娠結果は前子の性別により強い影響を受けることが判明した.すでに男児を得ている場合妊娠が中絶になる確率はきわめて高い.希望子供数の減少と男子選好のために既存の子供の性構成が妊娠結果を左右することにおいてより重要な因子となっている.女性の教育水準も中絶の確率に対して常に影響を与えているが,最近ではその影響度は弱まっている.婚姻外妊娠と都市化も中絶の増加の方向で影響を与えている. 本研究から得られた結果により,今後韓:国における家族計画プログラムは性比の歪みをもたらす男子選好の価値観を弱めると同時に,人工妊娠中絶を予防すべく社会政策の強化を打ち出す必要があることを示唆している.