著者
近藤 暁子 藤本 悦子 山口 知香枝 松田 麗子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大腿骨近位部骨折で手術を受けた患者のアウトカムに影響している看護援助として、早期離床を促す声掛けを行っていた場合は合併症の発生率が低く、荷重の許可が出た後、荷重をかけることの必要性の説明や、荷重をかけるよう声掛けを行っていた場合は、退院時の歩行能力のみならず、術後 3 カ月後の歩行能力が高かった。看護師がリハビリテーションにかかわることで、患者のアウトカムを向上させることができる可能性が示唆された
著者
近藤 暁子
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.21-28, 2007-03

大腿骨頚部骨折は、65歳以上の人口が約20%を占めるわが国において社会・経済的な問題である。2002年の患者調査によると大腿骨骨折の患者数は65歳以上で20,000人であり、年々増加の傾向にある。わが国の大腿骨骨折における平均入院期間は2002年の患者調査によると68.4日であり、これは他の先進諸国と比べるとかなり長く、患者は必要以上に安静期間を設けられ、自宅での元の自立した生活への復帰が遅れている可能性がある。また、わが国の人口は米国の約40%であるにもかかわらず、大腿骨骨折による全入院医療費は、米国の約1.6倍である。わが国では人口の高齢化とともに医療費は年々増大し、医療費の削減のために、2003年から、急性期の入院医療に対しても「DPC」(diagnosis procedure combination)という定額払いが導入され、入院期間を短縮しようという動きがある。また近年では、術後合併症を避けるためにも早期離床、早期退院が奨励され、クリティカルパスなどの導入により、退院時のアウトカムを低下させずに入院期間を短縮することは可能であるという報告は多くある。中には人工骨頭置換術の翌日から全体重をかけた歩行訓練を行うことで、入院期間が23.5日まで低下し、かつ退院時に歩行可能であった患者の割合は増加したという報告もある。一方で、わが国の長い入院期間は長期的に見ると必ずしも悪いとは言えない。スウェーデンに比べてわが国の大腿骨骨折による1人当りの医療費は高く(148対63万円)、入院期間は長いが(54対11日)、退院後自宅に帰る患者は多く(72%対65%)、骨折後120日に自立して外出できた患者の割合は高く(58%対45%)、死亡率は低かった(6%対12%)という報告がある。また、米国のように1〜2週間以下など極端に入院期間が短縮した場合は、高い再入院率(16〜32%)が報告されている。わが国の入院期間が短縮した場合、患者の短期的なアウトカムはよいと言えるが、患者の退院後の調査を行った研究はあまりなく、再入院率や、特に入院期間が短縮した場合の長期的なアウトカムは明らかになっていない。したがって、早期に退院した患者の退院後の歩行能力や居住地、再入院率、死亡率など、長期的なアウトカムについて明らかにする必要がある。その研究は年齢、骨折前の歩行能力、術式、依存症、術後日数、病院、家族・社会的サポートの有無、退院時歩行能力など、アウトカムに関連していると考えられる要因を統計的に調整する必要がある。術後の回復を説明する枠組みとしては老化理論が適切であると考えられる。もし早期に退院した患者が長期に入院していた患者に比べて同等、あるいはそれ以上のアウトカムを示していれば、患者は問題なく早期に退院し、骨折前の生活を早期に回復できると考えられる。また、入院期間の短縮により入院医療費の削減につながると考えられる。しかし、もし早期に退院した患者のアウトカムが長期に入院していた患者よりも低い場合は、入院期間の短縮は慎重に行うべきであり、リハビリテーションプログラムの改善も必要である。