著者
市原 正智
出版者
中部大学生命健康科学研究所
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.65-70, 2008-03

地球環境への影響の少ないクリーンエネルギーとして、水素社会の実現を目指した技術開発が行われている。これまで水素は生体に対して、害も益もない不活性のガスとして考えられていた。しかし水素と生体は密接な関係がある。人の体の中では腸内細菌から多量の水素ガスが産生され、一部は肺から排出されているという事実はあまり知られていない。昨年日本医大・太田成男氏らの研究により、水素を抗酸化剤として用いる新規治療法が示された。水素を低濃度で吸入することで、活性酸素のうちヒドロキシラジカルが選択的に消去され、その結果循環遮断にともなう組織障害が抑えられると報告された。また水素を飽和させた水素水も、糖代謝改善など、活性酸素の発生に伴う組織障害を抑制することが示された。著者も中部大学において、水素ガス、水素水を用いて生活習慣病に対する予防という観点から研究を進めている。
著者
大橋 裕子 丹羽 さゆり 水谷 聖子 小塩 泰代 岡部 千恵子 加藤 章子 水谷 勇
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.43-49, 2005-03

性教育の実践活動の傾向を明らかにし、今後の性教育のあり方について示唆を得るため、性教育の実践に関する論文を対象に文献検討を行なった。指定と関係機関の連携に関しては、文部科学省のエイズ教育(性教育)推進地域の指定による実践で、学校と他機関や家庭などとの連携が積極的に図られていた。しかし指定期間後の状況は明らかでなく、今後、把握が必要である。対象や教育内容と連携では、対象の年齢が上がるにつれ、また医学的知識を含む内容ほど、連携した実践の割合が高かった。現在、性教育の体系化はされておらず、学校のみに眠らないマルチレベルでの展開や生涯学習なども視野に含め、性教育の体系化が求められる。
著者
堀井 直子 三浦 清世美 久米 香 横手 直美 中山 奈津紀 青石 恵子 田中 結花子 山口 直己 足立 はるゑ
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.11-20, 2008-03
被引用文献数
1

目的 看護大学生の学習ニーズを反映させた教育方法を検討するために、入学時に学生が保健看護学科を選択した動機を明らかにする。方法 予備調査として、2006年5月に保健看護学科2006年度入学生81名を対象に、学科志望動機に関する記述を求め内容の分析をした。次いで本調査を2007年7月〜9月に保健看護学科2006年度入学生80名および2007年度入学生124名を対象に、予備調査の結果をもとに作成した学科志望動機質問紙(無記名自記式)を用い、集合調査を行った。結果 入学生の志望動機は、2006、2007年度ともに、「社会に出てから人のために役立つ仕事がしたい」「看護師・保健師の国家試験受験資格が得られることに魅力を感じた」「身近な人を助けたい」が全体の83〜92%の割合を占め上位であった。また「人とコミュニケーションをとることが好き」「人の世話が好き」なども約70%の学生が挙げており、看護を目指す学生は、人と関わることが好きで、看護職を、資格の取れる、人のためになる仕事であると認識して志望していると言える。また入学時と現在の「看護を学びたい思いの強さ」は、2006年度生は入学時"強い"45.6%が現在21.5%へ減少した。2007年度入学生は入学時"強い"43.4%から現在54.9%に増加していた。入学時の志望動機を大切にし、学習意欲の向上と職業的責任の自覚を強化していくための教育方法の工夫が必要であることが示唆された。
著者
石井 英子 青石 恵子 伊藤 守弘 大橋 裕子 渋谷 菜穂子 田島 織絵 城 憲秀 西尾 和子 丹羽 さゆり 林 公子 深谷 久子 堀井 直子 山田 知子
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-9, 2008-03

目的 内蔵脂肪生活習慣Checkの有効的活用に向け、企業関係者や中部大学教職員の概況把握である。方法 本調査でのチェック項目(数、内容)と身体・生理学的データとの関連を分析した。個人データは匿名性を記し、すべて統計的処理を行い、統計ソフトはSPSS12.0 J Windowsを用い、有意水準を5%とした。調査期間は平成19年9月17日。結果 受診者172人のうち、男性64.5%、女性35.5%。メタボリックシンドロームの目安となる体重と筋肉スコアによる体型判定では、男性は肥満型68.5%、女性の肥満型80.3%、ウエスト周囲径の内臓脂肪型肥満者は男性44人(39.6%)、女性36人(4.9%)で男性に有意な内臓肥満者が多かった。内蔵脂肪症候群生活習慣Checkの予備群の出現割合の男女比較では、「おやつは毎日食べる」、「階段よりエレベーター・エスカレーターを使う」で女性の割合が多かった。肥満状況を、生活習慣Checkにあてはまる数が5つ以上、または、それ未満の者とで比較したところ、男性でのみ、チェック数が多い者の肥満傾向が高くなった。このことから、男性、とくに中年男性の生活習慣指導が必要であることが示唆された。
著者
松下 富春
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-85, 2008-03

骨の損傷を治療する場合に用いられる人工骨は種々あるが、骨の力学的および生物学的特性に類似の特性をもつ人工材料は存在しない。純チタン粉末を用いて作成した焼結チタン多孔体は気孔率を適正に調整すれば、強度や弾性率が骨の力学的特性に近づき、また生体活性処理を施すと骨伝導能や骨誘導能が発現することから、人工骨材料として有望である。
著者
近藤 暁子
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.21-28, 2007-03

大腿骨頚部骨折は、65歳以上の人口が約20%を占めるわが国において社会・経済的な問題である。2002年の患者調査によると大腿骨骨折の患者数は65歳以上で20,000人であり、年々増加の傾向にある。わが国の大腿骨骨折における平均入院期間は2002年の患者調査によると68.4日であり、これは他の先進諸国と比べるとかなり長く、患者は必要以上に安静期間を設けられ、自宅での元の自立した生活への復帰が遅れている可能性がある。また、わが国の人口は米国の約40%であるにもかかわらず、大腿骨骨折による全入院医療費は、米国の約1.6倍である。わが国では人口の高齢化とともに医療費は年々増大し、医療費の削減のために、2003年から、急性期の入院医療に対しても「DPC」(diagnosis procedure combination)という定額払いが導入され、入院期間を短縮しようという動きがある。また近年では、術後合併症を避けるためにも早期離床、早期退院が奨励され、クリティカルパスなどの導入により、退院時のアウトカムを低下させずに入院期間を短縮することは可能であるという報告は多くある。中には人工骨頭置換術の翌日から全体重をかけた歩行訓練を行うことで、入院期間が23.5日まで低下し、かつ退院時に歩行可能であった患者の割合は増加したという報告もある。一方で、わが国の長い入院期間は長期的に見ると必ずしも悪いとは言えない。スウェーデンに比べてわが国の大腿骨骨折による1人当りの医療費は高く(148対63万円)、入院期間は長いが(54対11日)、退院後自宅に帰る患者は多く(72%対65%)、骨折後120日に自立して外出できた患者の割合は高く(58%対45%)、死亡率は低かった(6%対12%)という報告がある。また、米国のように1〜2週間以下など極端に入院期間が短縮した場合は、高い再入院率(16〜32%)が報告されている。わが国の入院期間が短縮した場合、患者の短期的なアウトカムはよいと言えるが、患者の退院後の調査を行った研究はあまりなく、再入院率や、特に入院期間が短縮した場合の長期的なアウトカムは明らかになっていない。したがって、早期に退院した患者の退院後の歩行能力や居住地、再入院率、死亡率など、長期的なアウトカムについて明らかにする必要がある。その研究は年齢、骨折前の歩行能力、術式、依存症、術後日数、病院、家族・社会的サポートの有無、退院時歩行能力など、アウトカムに関連していると考えられる要因を統計的に調整する必要がある。術後の回復を説明する枠組みとしては老化理論が適切であると考えられる。もし早期に退院した患者が長期に入院していた患者に比べて同等、あるいはそれ以上のアウトカムを示していれば、患者は問題なく早期に退院し、骨折前の生活を早期に回復できると考えられる。また、入院期間の短縮により入院医療費の削減につながると考えられる。しかし、もし早期に退院した患者のアウトカムが長期に入院していた患者よりも低い場合は、入院期間の短縮は慎重に行うべきであり、リハビリテーションプログラムの改善も必要である。