著者
山崎 静子 石賀 裕明 道前 香緒里 東 直子 Faruque Ahmed 三瓶 良和 Hamidur Rahman Badrul Islam
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.81-93, 2000-03-25 (Released:2017-07-14)
被引用文献数
3

1999年にバングラデシュのシャムタ村と東となりのデウリ村で18本のボーリングによって採集した堆積物試料(パーカッションリバースサーキュレーション工法による,一本の深さは約15m)をもちいて,地下水ヒ素汚染のメカニズムを解明するために,主元素,微量元素および全有機炭素,窒素,イオウの定量を行った.デウリ村の有機質泥ではAsが50ppmを超えるものがあり,ピート層では262ppmに達する.これらはシャムタ村の一般的な泥質試料(As=20ppm)に比べ高い値を示す.As濃度はVやCuの濃度と良い相関をもち,有機物の濃縮に関係する.P_2O_5も地表の試料で高いものがあり,人間活動に関連するといえる.試料のいくつかからはイオウが検出され,海成や汽水環境で堆積したことを示唆する.しかし,TS/TOC比は一般の海成層の値(0.36)よりも低く,淡水もしくは汽水環境で堆積した可能性がある.TOC/TN=9.2〜14.2(平均値11.1)であり,プランクトンおよび高等植物の両者に起源すると判断される.有機物に関連する高濃度のヒ素は帯水層での還元的環境下で地下水汚染を引き起こすと考えられる.農業や家庭排水の増加に伴って有機物の分解は促進され,堆積物,特にピート層からのヒ素溶出の速度を増していると考えられる.