著者
岡村 行信
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.234-242, 2012 (Released:2012-12-11)
参考文献数
20
被引用文献数
7 7

歴史文書に記録されている西暦869年貞観地震を解明するため、地層に残された津波堆積物を詳細に調査し、津波の数値計算を組み合わせて津波規模を推定した。2011年東北地方太平洋沖地震は、その推定よりかなり大きかったが、津波堆積物が過去の巨大津波の証拠であり、巨大津波の警告であることを証明した。この貞観地震に関する研究成果は地震調査研究推進本部に提出され、2011年3月にはおよそ評価が終わっていたが、社会に周知する直前に地震が発生してしまった。このようなことを繰り返さないためにも、巨大地震に関する研究成果はできるだけ早く社会へ伝える必要がある。同時に、信頼できる研究を進めることも重要である。

19 0 0 0 OA 座談会

著者
Editorial Board
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.204-210, 2012 (Released:2012-11-09)

東京大学の石川正俊教授は、分析的な真理の探求だけではなく新しい社会的な価値の創造が必要であると主張され、2004年4月から2006年3月まで東京大学の副学長を務められ、独創性の高い研究成果を社会に導入していくための制度作りをされてきました。シンセシオロジーが目指す研究成果の社会導入を大学の立場で実践されている石川教授と小野編集委員長(当時)と赤松編集幹事が座談会を行い、価値創造に向けた社会づくりについての議論を行いました。
著者
三部 幸治
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.93-102, 2013 (Released:2013-09-04)
参考文献数
14

1970年代に本格化した業務用ビデオゲームは、さまざまな画像表示手法が投入され独自の進化をしてきた。「TTLロジック」による手法に始まり、「ビットマップ表示方式」によるスペースインベーダーの大ヒットを経て、業務用ゲーム独自の「スプライト表示技術」は市場を広げ、DSP等の高速演算機能を組み込んだ「リアルタイムポリゴン表示」等、他産業より数年早く新技術を投入活用してきた。そして、これら業務用ゲームの技術は、家庭用ゲーム、携帯電話コンテンツ、通信カラオケ等多くの産業に繋がっている。この論文では、これら業務用ビデオゲームの中心となる画像表示手法の進化とその背景を述べる。
著者
当麻 哲哉 瀧塚 博志 鳥飼 俊敬 鈴木 等 小木 哲朗 小池 康博
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.118-128, 2014 (Released:2014-08-27)
参考文献数
7
被引用文献数
2 5

ハイビジョン映像の品質を超える高精細なビデオ?フォーマットが開発されているが、その伝送のための高速データ通信技術は必ずしも一般家庭への適用が容易ではない。家庭向けには、高速通信というテクニカルな要求だけではなく、取り扱い易さ、接続不良のない信頼性、入手しやすい価格等の条件が満たされる必要があり、高速通信で代表的な石英系光ファイバーは、脆く折れやすい上、低コストで精度のよい簡単接続が困難なため、消費者のニーズに合わない。この研究では、折れにくく高速通信が可能な屈折率分布型プラスチック光ファイバーの端面に、球状のガラス・コリメータレンズを組み込んだ超小型ビーム拡大インターコネクトを、低コストで精度の高いボールペン製造技術の応用で実現し、4K3D高精細非圧縮映像伝送実験によるシステム検証を行った。
著者
野田 尚宏
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.147-157, 2010 (Released:2010-05-31)
参考文献数
13

遺伝子定量技術は医療、農業、水産業、環境、食品等の幅広い分野で利用されており、社会的にも重要な技術である。筆者等は、グアニン塩基との相互作用により蛍光が消光する現象に着目し、それを利用した正確性・コストパフォーマンスに優れた新しい遺伝子定量技術を開発した。本稿では、既存の遺伝子定量技術に内在する問題を克服するために選択した要素技術とその統合・構成による新規遺伝子定量技術開発に関する研究展開を中心に、企業と取り組みつつある開発技術の実用化に関するシナリオについて論じる。
著者
長 郁夫 先名 重樹
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.86-96, 2016 (Released:2016-06-08)
参考文献数
32
被引用文献数
1 10

著者らの目標は、地質・地盤に関連するさまざまな社会的ニーズに対応して、できる限り高密度・高分解能で定量的な地下S波速度構造の情報を提供することである。S波速度は地盤の揺れやすさや固さに直結する物性値なので、例えば、地震災害軽減のための地震ゾーニングの高精度化等に寄与できる。その一環として、半径0.6 mの極小アレイを用いて常時微動を15分間観測するだけで数mから数十mの深さのS波速度を探査する観測・解析システムを構築中である。開発のポイントは、アレイ観測・解析の徹底的な簡易化、客観化とそれによる自動化、品質管理である。構築中のシステムにより、今後取得されると期待される膨大な量の微動データに対応する。
著者
今村 亨
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.140-153, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
15

高線量の放射線被ばくによって生体が受ける障害を軽減・治療するための生物学的機構を介する放射線防護剤の有望な候補として、既存の医薬品を凌ぐ活性を有する新規シグナル分子(細胞機能を調節する生理活性タンパク質)「FGFC」(fibroblast growth factor chimeric protein)を開発した。今後、放射線関連機関に備蓄する放射線防護剤として採用される可能性のある、このタンパク質を医薬開発するための環境整備を、基礎研究機関において可能な限り高いレベルで進めることを目指している。
著者
佐川 賢 倉片 憲治
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.34-44, 2013 (Released:2013-02-16)
参考文献数
8
被引用文献数
2 5

高齢者・障害者の不便さを解決する技術として、アクセシブルデザイン研究の概念と進め方および成果の普及方法について、視覚の研究を例にとり説明した。福祉用具とは異なる視点をもつアクセシブルデザインの特徴を、問題解決の方法、デザインの対象、公共性の点についてそれぞれ言及し、公共性の点からアクセシブルデザインにおける標準化の役割について説明した。次に、これらの研究の特徴を、特に高齢者に読みやすい文字サイズを推定する視覚的技術を例にとり、その研究の流れに沿って技術的内容を述べた。年齢を考慮した最小可読文字サイズ推定方法を開発するため、まず、年齢や視距離によって変化する視力の基盤データの収集からスタートし、実際の日本語に出てくる文字の可読性に関するデータの収集を行い、そこから一般性のある可読文字サイズ推定式を導き、その実用性を確認した。この推定技術は、さらに国内外における標準的技術へと進展させた。特に国際標準確立に必要な国際比較テストを行い、この研究成果の有用性を確かめた。最後に、これらの一連の研究を基礎技術とその展開という二つのサイクルに分けて説明することによって、アクセシブルデザイン技術体系の開発における本格研究の位置付けを明確にした。
著者
川上 和孝 五島 直樹
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.154-162, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
13

我々はポストヒトゲノム研究としてプロテオミクス研究を推進し、ヒトタンパク質の機能解析、タンパク質相互作用、タンパク質構造解析等を大規模に行うための技術基盤の整備を行ってきた。これまでに開発したヒトタンパク質発現リソース、タンパク質発現技術を利用し、プロテインアレイを作製することで血清中に含まれている自己抗体のプロファイリングを世界で最も正確に行うことができる。生体の異常に敏感に応答する生体防御システムを、疾患の検出に利用することは非常に理にかなっていると考えられる。我々が開発するプロテインアレイは生体防御システムを利用した早期診断を可能にし、安全・安心な国民生活を実現する。
著者
畠 賢治
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.165-177, 2016 (Released:2016-11-03)
参考文献数
15
被引用文献数
1 5

飯島澄男博士による単層カーボンナノチューブ(CNT)の発見から20年以上を経た現在も、単層CNTは既存の材料ではなし得ない電気伝導性、熱伝導性、機械的強度を実現する革新的材料として期待され、世界各国で研究開発が続けられている。しかし単層CNTは、一足先に商業化された多層CNTに比べて合成の成長効率が低く高価格になるため、未だ工業的に利用されているとはいえない状況である。産業技術総合研究所で開発された革新的な気相合成法のスーパーグロース法によって単層CNTが抱えていた複数の技術的課題が一挙に解決され、工業的応用への扉が大きく開かれた。高品質な単層CNTの合成が可能なスーパーグロース法の量産プロセス開発という、実用化を見据えて進められた技術開発について、産学連携の視点から述べる。
著者
原澤 建 野口 仁
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.24-32, 2017 (Released:2017-04-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2

磁気テープシステムは、安価、大容量という特徴からアーカイブ、バックアップ用途に広く使用されている。他のストレージ媒体同様に持続的な高容量化という市場ニーズに応える為、高記録密度化の研究が進められてきた。従来、メタル磁性体を用いたテープにより高密度化が進められてきたが2000年代後半に減速し始めた。しかし2011年、ポストメタル磁性体としてバリウムフェライト磁性体を採用したテープを市場導入し、高密度化の再加速に成功した。この論文は、近年の磁気テープシステムの大きな技術革新の一つであるバリウムフェライトテープの基礎研究から市場導入までの道のりについて報告する。
著者
赤松 幹之 北島 宗雄
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.140-150, 2011 (Released:2011-10-11)
参考文献数
19
被引用文献数
1

単に開発者のアイデアだけで技術開発を行っていると、人に受容される製品やサービスを実現することは容易ではない。それは、さまざまな個性を持つ利用者が実際にそれを使う状況下で何を考え、何を感じているかを、開発者が正しく知ることが困難だからである。そこで、実際の状況下での人の認知行動を把握する手法である認知的クロノエスノグラフィ法を開発した。この方法は、対象とする人の条件を明確化して選定したエリートモニターを用い、製品やシステムの設計につながる変数であるクリティカルパラメータを事前に検討して、それを統制したうえで実生活場面での行動を記録して、それを基に回顧的インタビューを行うことによって認知行動過程を明らかにする。製品やサービスの設計につながることを指向する構成的な研究プロセスの初期段階に適用する手法である。
著者
茶谷原 昭義 杢野 由明 坪内 信輝 山田 英明
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.272-280, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
61
被引用文献数
1 6

ダイヤモンドは超高圧安定相であることから大型結晶の合成が困難であり、応用は工具など硬度を利用した用途に限られていたが、大きさとコストの課題をクリアできれば、その用途は計り知れない。特に究極の半導体と称され、半導体開発ロードマップ上では、炭化ケイ素SiCや窒化ガリウムGaNの次に位置している。高温動作が可能であり、物質中最高の熱伝導率が活かせるパワーデバイスが実現すれば、例えば、車載用インバータを冷却フリー化でき、低電力損失と冷却システムの軽量化の両面から省エネに貢献できる。本稿では、大型化が可能な気相合成による単結晶ダイヤモンド合成と難加工材であるダイヤモンドをウェハ形状にする技術開発について述べる。
著者
富江 敏尚 石塚 知明
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.216-234, 2016 (Released:2016-12-14)
参考文献数
38

レーザープラズマ光源の最有望応用技術として極端紫外光励起光電子分光法、EUPS、の原理を考案してから、4半世紀が過ぎた。最表面原子層の超微量汚染の検出、バンド曲がり、表面のキャリア密度の評価、導電率の評価等、他の手法では困難な分析がEUPSで可能になっており、触媒活性との良い相関が得られるなど、材料の有用な分析手段になっている。ユーザーの課題解決のために生まれた分析法が多く、ユーザーによりEUPSが高度化されたと言える。EUPSの着想に至るまでの経緯、実用装置にするための要素技術の選定と構成、従来の光電子分光にはない新たな分析法を可能にしたのはEUPSのどのような特徴によるか、などを記述した。
著者
田中 隆宏 黒澤 忠弘 齋藤 則生
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.222-233, 2012 (Released:2012-12-11)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

乳がんの早期発見のため、乳房X線検査(マンモグラフィ)が2000年より乳がん検診に導入され、受診者数は増加の一途をたどっている。診断の高い信頼性と人体への十分な安全性を両立させるためには、X線照射を適切な線量に抑えた上で、高品質なX線診断画像を得ることが必要となる。マンモグラフィでは、乳房撮影に特化した通常とは異なる特殊なエネルギースペクトル(線質)のX線が用いられる。しかし、その線質は、これまでの線量計の校正に用いられているX線とは大きく異なるため、線量計の校正の信頼性が十分であるか心配する声が、学会や産業界から挙げられた。そこで、産総研ではマンモグラフィ用のX線の線質に基づいた線量の国家標準を開発し、それを産業界へ供給した。既存の研究設備や技術を最大限活用したり、現行の精度管理体制の中にこの標準を組み込むことにより、この標準の迅速な開発を可能にした。また、国内・国外の両方を意識した研究開発のシナリオをあらかじめ策定したことが、国際的な同等性の確認された標準の迅速かつ広範な供給へ結びついた。
著者
渡部 司
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.296-304, 2008 (Released:2009-02-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

ロータリエンコーダは360度の分度器のように円周上に目盛スケールが刻まれ、それを検出することにより角度位置情報を出力する装置である。しかし、ロータリエンコーダの目盛スケールのずれや、回転軸の偏心の影響により理想的な角度位置から偏差が存在するため、ユーザーはエンコーダから得られる角度情報の信頼性をどのように確保して良いのか困っていた。この問題を解決するべく、さまざまな角度偏差の要因を、自分自身で検出し角度校正値として出力することができる自己校正機能付きロータリエンコーダ(SelfA: Self-calibratable Angle device)を開発した。このエンコーダはこれまでブラックボックス化していた角度偏差要因を検出、分離し、そしてそれら要因を定量的に評価できる「見える化」を実現した。
著者
鈴木 正哉 前田 雅喜 犬飼 恵一
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.154-164, 2016 (Released:2016-11-03)
参考文献数
20
被引用文献数
8 2

温室効果ガス削減が求められる状況の中、優れた省エネシステムに利用可能な吸着剤として、水蒸気吸着性能に優れかつ低温熱源を用いて再生が可能な無機多孔質物質ハスクレイを開発した。この論文では、粘土の研究と天然に存在するナノ物質の研究を経て、ハスクレイの合成に至った経緯、および省エネ用吸着剤として広く利用されるために必要な事項を示す。
著者
藤木 弘之 天谷 康孝 佐々木 仁
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.127-144, 2015 (Released:2015-09-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2

国家標準の交流電圧標準は、サーマルコンバータと呼ばれる交直変換器を用いて、直流電圧標準と交流電圧を比較測定して導かれている。しかし、サーマルコンバータを作製可能な標準機関は少なく、入手が困難であるため、国家標準の範囲拡張が難しい状況であった。また、従来のサーマルコンバータは、壊れやすく、大量の校正を行う校正事業者の校正器物として使いにくいため、国家標準機関で普及するのみであった。今回、作製方法の簡易化と従来の性能を改善する目的で、新型のサーマルコンバータの開発を行った。新型サーマルコンバータは窒化アルミ基板を採用することで、耐久性が向上し、産業現場に近い校正室でも校正器物として使用可能となった。
著者
今井 登
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.281-291, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

日本全土における海と陸の元素分布を調査し、日本の地球化学図を初めて作成した。これにより日本列島の海と陸のバックグラウンド値が明らかになり、陸から海への元素の連続的な流れを知ることができるようになった。地球化学図作成に用いた試料は、陸では河川堆積物3,024個、海では海底堆積物4,905個で、分析した元素はヒ素、水銀、カドミウムなどの有害元素を含む53元素である。この研究では、特定の地域で確立した方法を適用し、現実的な実施可能性を考慮した発想の転換により一挙に全国カバーへの展開を実現し、陸域から海域、さらに土壌へと対象を拡大している。地球化学図は、人間・産業活動による土壌や海底堆積物の汚染の評価にも使用される。また、結果は出版やweb公開により、社会的なインパクトを与えている。本稿では、日本の地球化学図を作成するために採った研究シナリオを述べ、次に試料採取から試料処理、化学分析・元素濃度測定、地図作成、データ公開に至る一連の研究プロセスを述べる。
著者
高木 哲一
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.15-25, 2016 (Released:2016-03-19)
参考文献数
13

新興工業国の経済発展により、21世紀に入り金属資源価格が高騰し、さらに2009-2012年には中国のレアアース輸出制限によるレアアース危機が勃発した。これらを受けて、2010年より産総研では、レアメタル資源研究拠点の整備、海外地質調査機関との協力関係の構築を進めた。さらに、南ア、米国、ブラジル、モンゴル等でのレアアース資源調査を積極的に進めた。特に南アでは、有望な重レアアース鉱徴地を発見した。2011年秋以降、レアアース価格の暴落により、世界中のレアアース資源開発計画が頓挫し、レアメタル資源開発のリスクの高さを露呈した。民間にそのリスクに耐えて次のレアアース危機へ備えを求めるのは困難であり、産総研による調査研究体制の継続が求められている。