著者
須田 年生 鄒 鵬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度はp57による造血幹細胞静止状態維持の分子機構を詳細に検討するために、ノックアウトマウス胎生期の肝臓由来の造血幹細胞を用いて、放射線照射したマウスに移植するin vivo実験系で解析した。1)p57の欠損に従って、p27が造血幹細胞の細胞質における発現が特異的に増加することがわかった。その結果より、造血幹細胞のp57が欠損する場合、その静止期維持における機能はp27が代償する可能性が考えられる。2)静止期造血幹細胞のcyclin Dの転写活性は高いレベルを維持することを見出した。また、新規p57結合タンパクHsc70がcyclin Dタンパクの局在を制御することによって、造血幹細胞の細胞周期制御に重要な役割を果たしていることが示された。3)Hsc70のinhibitorデオキシスパガリン(DSG)を用いて実験では、DSGは造血幹細胞の静止期での維持を阻害することがわかった。この結果より、p57とhsc70、およびcyclinD三者の相互作用が造血幹細胞の細胞周期制御において重要な働きをしていると考えられる。4)CDK inhibitorであるp27もHsc70と結合し、Hsc70/cyclin D複合体を細胞質に安定化させることによって、幹細胞の静止期維持に働くことがわかった。p57とp27は単独に一つでも存在すると静止期維持の機能できるが、両者の発現がともに抑制される場合、Hsc70/cyclin D複合体が核内に排出され、幹細胞静止状態の維持ができなくなることが証明された。