著者
塩崎 宏子 石津 綾子 須田 年生
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.3-12, 2018

<p>加齢は,クローン性造血(clonal hematopoiesis)という現象をもたらす。加齢により,遺伝子変異に伴うクローン造血の存在が観察されるようになるが,血液学的異常が認められない場合はCHIP(clonal hematopoiesis of indeterminate potential)と称されている。近年のゲノム解析より,その原因となる特定の遺伝子変異も明らかになっている。CHIPは高齢者において高頻度となり,やがて造血器腫瘍発生の引き金となる。すなわちこのクローン性造血は造血器腫瘍のリスクを上げ,そのリスクはクローン性造血のないグループと比較すると10倍にも増加する。造血幹細胞の老化および腫瘍化のメカニズムが徐々に解明されつつあり,老化細胞を除去する(senolysis)効果も確認され,幹細胞老化の分野においては,今後の臨床応用が期待される。</p>
著者
須田 年生 馬場 理也 石津 綾子 梅本 晃正 坂本 比呂志 田久保 圭誉
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

造血幹細胞ニッチと幹細胞動態の研究、ならびに幹細胞におけるDNA損傷反応に関する研究を展開し、しかるべき成果を得て論文発表すことができた。幹細胞ニッチに関する研究に関しては、Integrin avb3 が周囲の環境に応じて、サイトカインシグナルを増強することを通して、造血幹細胞の維持・分化を制御することを示した(EMBO J, 2017)。造血幹細胞の代謝に関連した研究では、造血幹細胞が分裂する直前に、細胞内カルシウムの上昇を通して、ミトコンドリアの機能が活性化することを見出した。さらに、造血幹細胞分裂直前の細胞内カルシウムが上昇をカルシウムチャネル阻害によって抑制すると、① 造血幹細胞の分裂が遅延すること、② 分裂後の幹細胞性の維持(自己複製分裂)に寄与することを示した。また、in vivo において、造血幹細胞周辺のMyeloid progenitor(lineage-Sca-1-c-kit+)細胞が細胞外アデノシンが造血幹細胞の細胞内カルシウムの上昇やミトコンドリア機能の制御に関与することも確認した。さらに興味深いことに、Myeloid progenitorは、上記の細胞外アデノシンによる造血幹細胞の与える影響を増強していることも見出している(JEM in Revision)。造血幹細胞におけるDNA 損傷反応における研究では、Shelterinと呼ばれるタンパク複合体の構成因子Pot1aが、造血幹細胞のDNA損傷の防止に加えて、活性酸素(ROS)の産生を抑制し、造血幹細胞の機能維持に寄与することを新たに明らかにした(Nat Commun, 2017)。
著者
中内 啓光 丹羽 仁史 横田 崇 須田 年生 岡野 栄之 石川 冬木
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本特定領域研究では1)細胞の初期化の機構の解明、2)幹細胞の未分化性維持機構、3)幹細胞の多様性と可塑性の三つの柱を中心に5年間にわたり研究を進めた。ES細胞、組織幹細胞のそれぞれにおいて研究が大きく進展したが、最近2年間に本特定領域研究の分担研究者である山中伸弥教授らによって遺伝子導入によって体細胞を多能性幹細胞に変換する技術が開発され、再生医療・幹細胞研究に大きな転換を迎える事態となったことは特筆すべきことである。厳しいガイドラインのため本邦においてはヒトES細胞研究が諸外国と比して進展に遅れていたが、倫理的問題を含まないiPS細胞技術の登場により、多能性幹細胞の分野にも今後大きな研究の進展が見込まれる。そこで昨年度は新しく開発されたiPS細胞産生技術を中心に「幹細胞研究を支える新しいテクノロジー」というテーマのもとでシンポジウムを開催した。産業界を含む300名近い研究者が参加し意見を交換することにより、本研究領域における研究で得られた知見を速やかに共有することができた。また、総括班メンバーを中心に今後の幹細胞研究の進め方などについても討議がなされた。
著者
須田 年生 鄒 鵬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度はp57による造血幹細胞静止状態維持の分子機構を詳細に検討するために、ノックアウトマウス胎生期の肝臓由来の造血幹細胞を用いて、放射線照射したマウスに移植するin vivo実験系で解析した。1)p57の欠損に従って、p27が造血幹細胞の細胞質における発現が特異的に増加することがわかった。その結果より、造血幹細胞のp57が欠損する場合、その静止期維持における機能はp27が代償する可能性が考えられる。2)静止期造血幹細胞のcyclin Dの転写活性は高いレベルを維持することを見出した。また、新規p57結合タンパクHsc70がcyclin Dタンパクの局在を制御することによって、造血幹細胞の細胞周期制御に重要な役割を果たしていることが示された。3)Hsc70のinhibitorデオキシスパガリン(DSG)を用いて実験では、DSGは造血幹細胞の静止期での維持を阻害することがわかった。この結果より、p57とhsc70、およびcyclinD三者の相互作用が造血幹細胞の細胞周期制御において重要な働きをしていると考えられる。4)CDK inhibitorであるp27もHsc70と結合し、Hsc70/cyclin D複合体を細胞質に安定化させることによって、幹細胞の静止期維持に働くことがわかった。p57とp27は単独に一つでも存在すると静止期維持の機能できるが、両者の発現がともに抑制される場合、Hsc70/cyclin D複合体が核内に排出され、幹細胞静止状態の維持ができなくなることが証明された。