著者
辻野 亮 鄭 呂尚 松井 淳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.159-166, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

市街地に隣接した深泥池湿原(京都市)にニホンジカCervus nipponが出没して問題になっていることから、深泥池湿原と周辺林のニホンジカの関係を明らかにすることを目的として、深泥池湿原とその周辺林に自動撮影カメラを2014年6月16日から12月17日まで34台設置し(深泥池湿原に4台、深泥池湿原の東に位置する宝ヶ池公園東部に17台、宝ヶ池公園西部に5台、西に位置する本山国有林に3台、京都大学上賀茂試験地に5台)、動物の行動を調査した。のべ2700.2日の調査によって、哺乳類が1485枚11種(55.0頭/100カメラ日)撮影されたことから、都市域に残存しているこれらの森林は、哺乳類の生息地として重要な役割を果たしていると推測された。その一方で、撮影回数の93.2%がニホンジカで占められており、単調な哺乳類相となっていることが示唆された。深泥池湿原での撮影頻度は、日中は0に近く、夜間に高い値を示した。一方、宝ヶ池公園西部と東部では逆の傾向を示した。本山国有林と上賀茂試験地では、昼夜間で撮影頻度はそれほど変わらなかった。以上から、宝ヶ池公園に生息するニホンジカが日没頃の時間帯に深泥池湿原に侵入し、夜間は湿原に滞在して、日の出頃の時間帯に再び宝ヶ池公園の森林に帰ってゆくことが推測された。