著者
ホルトイス L. B. 酒井 勝司
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.15-18, 1987
被引用文献数
1

この小論文は故酒井恒博士に捧げるものである。博士は日本甲殻類研究界での重鎮であり,そのカニの業績は他に類を見ないものである。また世界に先駆けて日本に甲殻研究学会を設立されたことは意味深い。ここでは博士が存命でおられたならば関心をもたれたであろうカニの命名上の問題を提起したい。コノハガニMaja(Huenia) proteusはドゥ・ハーン(1839)によってクモガニ科コノハガニ亜属に属する唯一の種として発表されたが,それ以後はこのコノハガニは属名Huenia DE HAAN1839の模式種とされている。しかし,コノハガニについてはそれより古い二つの有効名があり,属名の発表年月日は1839年ではなく1837とすべきものである。ドゥ・ハーンの日本動物誌の第23図版は第3分冊に含まれ,これが1837年に発表されたものであることはホルトイス・酒井(1970)の著書「シーボルトと日本動物誌」の中で明示した通りであるが,この第23図版第4-6図には2種のカニが記されている。すなわち第4図はMaja(Huenia) elongata,第5図はその変種,第6図はMaja(Huenia) heraldicaである。また,この2種の口器は別の第G図版にみられる。図G版は亜属Hueniaに関する記載(78,83,95,96頁)と同じく,1837年ではなくて1839年に発行されたものである。ドゥ・ハーンは1839年の記載の中で,1837年に発表したM.(H.) elongataとM.(H.) heraldicaはそれぞれ同種の♂と♀であると述べ,この2種をしりぞけ,その代りとしてM.(H.) proteusを使っている。その後コノハガニの種名はドゥ・ハーンに従ってproteusとして使用されているが,H.heraldicaとH.elongataに代えて単に新しい種名のproteusを使用するのは正当ではない。2つのより古い種名は図版と共に1931年以前に発表されたものであり,命名規約からして有効といえるからである(動物命名規約第3版12条b7)。すなわちこの2種はM.(H.) proteusに対して2年の優先権priorityをもつ。そこでelongataとheraldicaの名称のうちどちらの名称が有効性を持つかと云えば,命名規約上から最初の改訂者の原則に従うことになる。すなわち,改訂者は1837年以後これら2種を同時に扱った上で,どの種が他方の種に対して優先するのかを明確にしなくてはならないのである(国際命名規約第3版(1985)第24条b)。私の知るかぎりこのような指摘はこれまでに行なわれていない。ドゥ・ハーンは1839年に2種の名称を挙げたが両種を無効名とせず,しかも2種のどれに優先するかも述べていない。それ以後コノハガニが引用される場合古い2種の名称を無視するか,間違って無効名の同物異名であるHuenia proteusとして扱っているにすぎない。以上のことから,私は最初の改訂者としてコノハガニの学名についてMaja(Huenia) heraldica DE HAAN, 1837をMaja(Huenia) elongata DE HAAN, 1837に対して優先することを位置付けるものである。これまでコノハガニの学名はHuenia proteus(DE HAAN, 1839)とされてきたが,Huenia heraldica(DE HAAN, 1837)と訂正される。この種は応用科学の分野,漁業または一般の生物学者にも知名度の高い種ではないのでproteusという種名が無効でありheraldicaを使用するとしても国際命名規約に提議すべきものであるとは思われない。属名Hueniaはドゥ・ハーンの日本動物誌第23図版の出版年から1837年と決定される。また,ミアー(1839)がHuenia属の模式種としてHuenia proteusを挙げたことは無効となる。従って,私が初めてHueniaの模式種をMaja(Huenia) heraldica DE HAAN, 1837と確立することになる。
著者
酒井 勝司
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ : 日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
no.15, pp.13-30, 2003-08-20
被引用文献数
2

"Crabs of Japan" from the Expert Center for Taxonomic Identification (ETI), University of Amsterdam is going to be published from ETI. The information of this CD-ROM is based on "Crabs of Japan and the adjacent Sea by Tune Sakai (1976). The section of the true crabs is now extensively revised and extended by the extended carcinologist; Dr. Daniel Guinot, Museum national d' Histoire naturelle, Paris, Dr. Peter Davie, Queensland Museum, Brisbane, and the Dr. Michael Ttirkay, Forschungsinstitut Senckenberg, Frankfurt am Main. Some 1250 species of Brachyuran crabs from Japan and adjacent sea are recognized, and information on genera, families and etc is also provided. Herewith the Japanese common names of crabs are added for the Japanese users (http://www2.shikokuu.ac.jp/people/crabs/).
著者
酒井 勝司
出版者
Carcinological Society of Japan
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:24330108)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.23-28a, 1986 (Released:2017-09-08)
被引用文献数
9 10

Upogebia narutensis sp. nov. is the fourth upogebid species found in the Inland-Sea, Japan. This species is closest to U. spinifrons from Australia.
著者
篠宮 幸子 酒井 勝司
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.54, pp.38-43, 1995-12-25

徳島市の魚市場で得たMetapenaeopsis sinica LIU et ZHONG,1988の形態について検討した.本種は日本ではこれまでに高知県からの報告がある(CROSNIER,1994).LIU&ZHONGの記載とは雌の第3顎脚,雌雄の第3歩脚の長さ,およびペタズマの先端部の突起数にわずかな違いがあった.CROSNIERの記載とはペタズマの形態ではインドネシア産の標本とよく似ているが,Maldivesの標本とはわずかに違いがみられた.発音器の隆起数は高知県産のものと一致した.