著者
浜野 龍夫 林 健一 川井 唯史 林 浩之
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:24330108)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.73-87, 1992-12-31 (Released:2017-09-08)
被引用文献数
6 5

Crayfish in Lake Mashu, Hokkaido, Japan, were captured with tangle nets in the summer of 1992. All specimens, 171 males and 517 females, had intermediate diagnostic character between two subspecies, Pacifastacus leniusculus leniusculus and P, l. trowbridgii. Although three very large individuals of unidentified crayfish were captured in this lake by poachers of trout in 1975 and 1985, there is no certain confirmation because of illegal samplings. One of the present authors took a chance to measure one of them, a fresh male crayfish with very large chelae, in 1975 when he was 11 years old and recorded only its giant size, i.e. 47 cm carapace length. However, the largest P. leniusculus collected in this study was 5.7cm in c. l. Neoteny may have occurred because there is no secondary sexual character on chelae of adult P. leniusculus males. This lake has no river. Age of the lake is estimated as about 2000 years old. Further, all species of fish and crustaceans in the lake were artificially introduced from other waters. Of crayfish, only P. leniusculus occurs and was introduced from Portland, Oregon, U.S.A., in 1930. From these, the unidentified gigantic crayfish seems to have been P. leniusculus grown to a giant size.
著者
蒲生 重男
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.1, pp.73-90, 1963-11-03

General features on the order Cumacea are described and illustrated. The species hitherto known from Japan are also listed herein. The following four species: Bodotria sp., Leucon sp., Schizotrema sp., and Campylaspis reticulata GAMO are also illustrated.
著者
一寸木 肇
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.177-182a, 1976
被引用文献数
1 6

日本のサワガニ属GeothelphusaなかでサワガニGeothelphusa dehaani(WHITE)の体色変異を神奈川県を中心に茨城県,千葉県,東京都,静岡県,山梨県,愛知県の各県にわたり調べ,次のような結果が得られた。サワガニの体色変異を調べたところ8型にわけることができ,それらの個体はBL型,RE型,DA型の3系統にまとめることができる。そしてそれぞれ一定の広がりをもって分布するように思われる。すなわち1)BL型地域(千葉県房総半島,神奈川県南部,静岡県東南部),2)RE型地域(静岡県西部,愛知県東部),3)DA型地域(茨城県中部,東京都西部,神奈川県北部・静岡県北東部・山梨県南部・長野県南部),4)BL・DA型混棲地域(神奈川県中部),5)RE・DA型混棲地域(静岡県北西部)の5つの地域にわけられる。
著者
今田 和則 平山 明 野島 哲 菊池 泰二
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.11, pp.124-137, 1981-12

The ecological distribution of phytal amphipods on seaweeds were investigated in a Sargassum bed at the coast of Tomioka Peninsula, Amakusa, Kyushu. Eight plants of 4 Sargassum species were collected underwater by the vertically stratified sampling method in May when these seaweeds fuliy grown up. By this sampling, 10 species of caprellids and 21 species of gammarids were obtained. The similarities among epiphytic amphipod assemblages of each host plant were analyzed for Caprellidae and Gammaridea respectively. These assemblages resembled each other, consequently it was speculated that these epiphytic amphipods generally have no specific preference to the host plants. Simultaneously, two groups were recognized in both taxa, namely, one group consists of S, patens and S. horneri which were collected in the outer part of the Sargassum bed, another is S. thunbergii and S. hemiphyllum which mainly flourish inside. The difference seemed to be caused by the factors which related with wave action or other hydrodynamic conditions. In the vertical distribution of the biomass of each alga, the weight of higher part was normally heavier than that of lower part, and this tendency was also observed in the individual number of amphipods on each part. Vertical distribution of 6 species of amphipods (Caprella decipiens, C. danilevskii, C. tsugarensis, Ampithoe orientalis, Aoroides columbiae, Pontogeneia rostrata) showed high positive correlations with those of seaweeds biomass. Exclusive of S. horneri, C. monoceros and Phliantidae sp. 1 also showed positive correlations with the vertical distribution of seaweed biomass like other species. On S. horneri, however, they mainly occurred on the lower part of seaweed and showed negative correlation.
著者
セレーン ラオール 小田原 アキ子
出版者
Carcinological Society of Japan
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:24330108)
巻号頁・発行日
vol.4.5, pp.71-74, 1971 (Released:2017-09-08)

歴史と観察-酒井(1938)は,瀬戸(白浜)産,59×31のオスのnipponesisについて述べている。酒井に依れば,本種は次の点で大西洋産Portunus vocans A.M.E.と異なる。1)甲殻の後部が狭くなっている。2)前側縁歯は基部が幅広く先が尖っていない。3)心域は明確に稜線をなしていない。4)前鋼線は前方に向って強くカーブしている。5)鋏脚の長節には2棘でなく3棘ある。6)鋏脚長節の擦音器の棹は中途で途切れている。現在ある雌の標本は酒井(1938,1939)の観察引例と説明に一致する。鋏脚の長節の僅かな差異は恐らく標本の性差に依るのであろう。即ち(1)前縁において(第三の)後縁歯は酒井(1938)の標本よりも短かく,明かに未発達である。(2)発音器り桿は酒井の図ほど明確ではないが途切れている。前側縁腹面の発音桿が下眼窩の外葉の歯状縁に接して居り,又vocansについてラスバン(1930)が報告しているものと近似していることを記述する。酒井の図(1938)は,この点が相違している。窩眼外角は第一前外歯(酒井の第二,1938)の背面に位置する。即ち発音器の桿(本標本では27ある)の列は末端が下眼窩の外業の縁の5歯になっていることである。異る特徴の1の価値を正確にするために甲殻の後縁幅の長さを前側縁歯端間の最大計測値で比べてみた。この標本では甲殻の最大幅は後縁の幅の3.7倍である。それはnipponensisのType標本とは似ているが一方vocansではたった3.1倍でしかない。測定値はnipponensisのTypeについては酒井(1938)の図により,vocansについてはRathbun(1930)の図によった。ボルネオのPontianakからの標本記録はその地理的分布をかなり拡げた,そして本種は恐らく広くインド洋太平洋に分布しているという酒井(1938)の見解を確証した。私はエドモソソソ(1935)の標本即ちオアフ(ハワイ)採集の6×11の♂はnipponensisの幼型であるとする酒井(1938)の考えと一致している。タイプ標本の棲息環境は報告されていたい。現標本が77mの深さで採集された事は海岸近くにはなく又その記録の珍らしさを示している。
著者
ゴルドン イザベラ 小田原 アキ子
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.4, pp.123-132, 1971-07

・ホワイト氏(彼のカタログは1847年及び1850年に出版された)が退職した頃は,甲殻類研究にはほとんど何も見るべきものがなかった。もっとも,トマス・ベルのコブシガニ(1885)が一連のモノグラフの先駆をなしていたし,また,C.スペンス・ベイトが端脚類(1862)のカタログを作るために雇われたりはしたが,マイヤースはホワイトの後を継いだ。彼は,ホワイトの多くのnominanudaを含む館内の収蔵品のうち,新しい種類や,よく知られていない種類を述べエビ,カニ類の数種について,また,シャコ類やヘラムシ科についても訂正した。それに加え,彼は多くの重要な採集物について報告し,ニュージーランドの有柄眼と無柄限甲殻類のカタログを出版した。この期間中,「収蔵品の鑑定ばかりでなく,記名,ラベルはり,分類などまで私ひとりの手でなしとげた」(1883年5月14日付書簡)ことを考えると,彼の組織的な仕事の量と質は驚くべきである。当時採集したものは,大体,生物の記録として新種のものになった。マイヤースは新種の名を脚註や他の種類のテキストの中でなにげなく紹介する傾向があったので,マイヤースの発見した新種を正確に数えることは容易ではない。しかし,彼は 大体のところ十脚類に32の属,亜属と260の種,亜種を加えた。そして甲殻類の目に4つの属と,72の種,あるいは変種をつけ加えた。名前は少し変ったかも知れないが,それらの大部分は今でも有効である。例えば最近,R.セレン博士によって編纂された西インド洋の短尾類の暫定的なリスト(未出版)の中には,143のマイヤースの発見した種類が含まれており,そのうち名前の変ったものは20しかない。(十脚類を含むマイヤースの文献のリストについては,Balss&Gruner.1961:1898と1989〜1991を参照されたい)ところで,彼の主要報告はどうであったろうか。甲殻類のサウス・ケンジングトンへの移転がマイヤースにとって大変厄介な時にやってきた。1883年5月14日付のギュンターへの手紙で,彼はその移転が,「軍艦アラートによって採集された甲殻類に関する報告の準備によって必然的に延びるチャレンジャーの短尾類の予備調査の完了まで延期される」ことを暗示した。ジョン・ミュラーは彼の報告書の長さと,それを図で説明するのに必要な図版の数によって評価されたいと望んでいた。しかし,マイヤースはこの望みをかなえてやらなかった。というのは彼は異尾類のほうにまわされることになっていたパロワとまだ討議しなければならなかったし,また,図版は10から15で十分であると考えたからである。ミュラーは1883年5月18日にこう書いている。「あなたの時間の多くが,博物館の移転に費やされてしまったのは残念です。しかしながら,せいぜい二月以内に,あなたが我々によい報告書をお与え下さることを望んでおります」。甲殻類は全部6月末までに移されたが収蔵品と書籍を整理するのに,数か月かかったにちがいない。つづく18か月をマイヤースは,彼の博物館の仕事が許すがぎり,チャレンジャー報告に費やした。しかし1885年の終りまで彼は病気がちで,健康をかたり害していたので11月に辞任した。チャレンジャーの原稿は,1886年4月1日から11月26日までの間に分けて,ミュラーのところへ送られ,マイヤースは健康の続く限り,それを校正した。彼は6月26日付のミュラーの手紙を読んで確認したに違いない。「ここ数年間,私はあなたの報告書をていねいに読んでおります。大変立派な,重要なものであり,今あなたのお送り下さった原稿は,大変明確でよく準備されてありますので,出版が完了するまで,大して,あなたにお手数をおかけしなくて済むと思います。あなたの名を高める報告書になるにちがいありません。すべての生物学者に,科学への最高の貢献であるとみなされるでしょう」。マイヤースはしばしばこの博物館で働いていたようである。その時彼はかなり元気で,乾燥標本を新しい標本棚に並べかえたりしていた。(ギュソター宛の書簡,1887年7月30日)この日以来,1892年1月19日の葉書しか残っていない。これはコーンウェルの住所から発信したもので,かつての同僚にクリスマスの挨拶に対する感謝をしたためたものである(偶然にも,ヘンリー・マイヤースが1882年から1895年までこの博物館の職員であり,また,1926年から1939年まで大英博物館の理事をつとめている)。E.J.マイヤースは終生,動物学会員及びロンドンのリンネ学会員であった。日本の甲殻類に関するマイヤースの業績 日本の甲殻類に関する彼の重要な文献は,韓国と日本の海を7年間調査したことのある英国海軍のセント・ジョン海軍大佐によって集められた資料に関する1897年の報告である。資料の多くはドレッジで採集された深海のものである。それゆえ,デ・ハーンによってよく説明されている通常海岸に住む種類はほとんど含まれていなかった。この地域の深海の甲殻類については,アメリカ合衆国,北太平洋調査探検隊(1853〜56)に加わった動物学者スティンプソンがフィラデルフィア科学学士院委員会で,多数の属や種の特性についての短いラテン語の本を出版するまでは,比較的わずかしか知られていなかった。しかも,短尾類と異尾類の説明とさし絵は,かなり後まで出版されなかった。(スティンプソン1907)しかしながら,マイヤースは,セント・ジョンの資料と,スティンプソンによって命名され数年前スミソニアン協会から大英博物館に寄贈された日本近海で採れた標本とを比べることができた。提供された64種類のうち,26種類は明らかに新種であった。他の7種には彼は種名をつけなかった。彼はParatymolus, Pleistacantha, Pomatocheles, Heterocumaなどの属名を確立し,日本の動物相の関連について述べた。彼は後日Amphipoda, Isopoda, Cirripedia Pycnogonidaなどに関する出版をするつもりであったが,達成しなかった。マイヤースの出版物の多くは,さし絵を画家に石版刷りにさせているが,この図版のように石版工の名だけしか記されていないものは,恐らく下絵はマイヤース自身によるものであろう。1881年12月17日,ナポリの動物学研究所のピー・メイヤー博士がマイヤース宛ての書簡で,彼はあるアメリカ人,ホイットマン博士によって彼に送られた日本のエビの標本をいくつか送るつもりであると述べている。このエビは東京の近くの淡水池で採集された。メイヤーの手紙には,実際に誰がそれを採取したのか書いてない。この標本は成長した大きさよりせいぜい5mmしか小さくなかったのであるが,かなり小さかった。しかし私は,ホイットマン博士個人を通じて,この標本を送ったのは石川博士であるに違いないと思っている。というのは石川博士は,この種類を増やすことを研究していて,専門家にそれを名づけてもらいたがっていたからである。このことは,Atyaephra? Compressa De Haan(1882.マイヤース)に関するメモを受けとった時に石川博士が書いていることに一致するであろう。1882年6月12日に石川はこう書いている。「私があなたにお送りした標本は,皆小さいので,今度はもっと良い大きた標本をお送りしたいと思っているのですがご存じのとおり,アルコール標本を海外に郵送することは,我々にとって大変困難なことなのです。」それ故,大英博物館の収蔵品には,ナポリからメイヤー氏によって送られたこれらの標本(登録番号82.2)しかないのである。このエビは,久保博士によりParatya compressa improvisa Kempに属するものとされている。(1938.東京水産大学報告.33(1):71).英国軍艦チャレンジャーは,再び日本の海で採集し,1875年5月12日から6月17日までの間に獲得されたカニはマイヤースのリストに載っている。2種類だけ新種であることが分った。即ちCharybdis bimaculata(Miers)と深海産のEthusa(Ethusina)challengeri(Miers)である。又,マイヤースがよく述べていた西インド洋産の多くは,後に,日本の動物相に属することが分った。
著者
鈴木 博
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究
巻号頁・発行日
vol.3, pp.52-60, 1967
被引用文献数
1

This paper deals with the sacculinization occurred in a male of the pea crab, Pinnetheres sinensis Shen. The specimen was found living commensally within the mantle cavity of the common bivalved shell, Mytilus edulis Linne, obtained on the coast of Tokyo Bay in October, 1964. The body of the adult normal male of Pinnotheres sinensis is rather flat and solid, much smaller than the normal female which has the grobular and soft-shelled body. Even in the largest male, the length of carapace is less than one half that of the fully grown female. In the male, the chela is somewhat thickset compared with that of the female and its propodus furnished with 10-13 setae near the distal end of the anterior border. In second and third pairs of the male ambulatory legs, the carapus is crossed by an oblique row of long feathered hairs, and the propodus fringed with same hairs along the anterior borders. The dactylus of all pairs is claw-shaped and shorter than the propodus. In the female, the dactylus of the last ambulatory leg is rod-shaped and longer than the propodus, furnished with longish hairs along the inner border, with short hairs around the whole surface in distal half. The width of the male abdomen is much narrower than that of the female-about one fifth the length of the carapace, and its sixth abdominal segment has a hook-shaped process on the lateral margin. Of the two pairs of male pleopods, the posterior one has a short flatty exopodite. Of the four pairs of female pleopods, the posterior two are uniramous and has no exopodite (Fig. 1). The external morphological modifications are seen in the male, by sacculinization, as shown in the following: a) The size of the body becomes comparatively larger than in the normal male, and its exoskeleton becomes softend as in the female body (P1. VI). B) The chela becomes somewhat slender and the setae on the propodus are replaced by soft longish hairs, covering the distal surface of both fingers (Fig. 2, 3). C) The long feathered hairs seen on the second and third ambulatory legs are worn out and the dactylus of the fourth ambulatory leg is longer than the propodus, furnished with long hairs as seen in the female (Fig. 2, 1). D) The width of abdomen is broadened; the lateral margin of the sixth segment becomes entire and with marginal hairs (Fig. 3). E) No change of form seems to occur in the first pleopod except for its tip. The carified bridge at the foot of the first pleopod is rudimented. The exopodite of the second pleopod is well developed and covered with long soft hairs. No pleopod is seen in the third abdominal segment, while in the fourth abdominal segment, a uniramous appendage is seen on the right side (Fig. 3 and 4). The internal morphological modifications are seen in testis and midgut gland. These organs are entirely rudimented, being only represented by withered cells. The roots of the parasite glowing thickly around the vas deferens, the midgut gland, the anterior portion of intestine, and the thoracic ganglion. In vas deferens, however, sperms and spermatophores are still seen filling the duct. The penetration of roots of the parasite into the thoracic ganglion has already been investigated by the previous authors (MATSUMOTO K. (1952) and HOSHINO K. (1962)), so the author's present investigation is confined to that of the vas deferens.
著者
武田 正倫 須賀 秀夫
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:24330108)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.43-46a, 1979 (Released:2017-09-08)
被引用文献数
5

A peculiar feeding habit of opening mollusk shells was observed in Calappa gallus capellonis LAURIE in the field (Murote Bay faced to the Bungo Channel) and in the laboratory (Ehime University). It is sure that the box crabs can skillfully open the shells by using the tubercles of the right chela and thus feed on the soft parts or hermit crabs. The shell-opening mechanism observed is not basically different from the result reported by SHOUP (1968). When there are no shells in the surrounding, the box crabs take the other foods.
著者
ホルトイス L. B. 酒井 勝司
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.15-18, 1987
被引用文献数
1

この小論文は故酒井恒博士に捧げるものである。博士は日本甲殻類研究界での重鎮であり,そのカニの業績は他に類を見ないものである。また世界に先駆けて日本に甲殻研究学会を設立されたことは意味深い。ここでは博士が存命でおられたならば関心をもたれたであろうカニの命名上の問題を提起したい。コノハガニMaja(Huenia) proteusはドゥ・ハーン(1839)によってクモガニ科コノハガニ亜属に属する唯一の種として発表されたが,それ以後はこのコノハガニは属名Huenia DE HAAN1839の模式種とされている。しかし,コノハガニについてはそれより古い二つの有効名があり,属名の発表年月日は1839年ではなく1837とすべきものである。ドゥ・ハーンの日本動物誌の第23図版は第3分冊に含まれ,これが1837年に発表されたものであることはホルトイス・酒井(1970)の著書「シーボルトと日本動物誌」の中で明示した通りであるが,この第23図版第4-6図には2種のカニが記されている。すなわち第4図はMaja(Huenia) elongata,第5図はその変種,第6図はMaja(Huenia) heraldicaである。また,この2種の口器は別の第G図版にみられる。図G版は亜属Hueniaに関する記載(78,83,95,96頁)と同じく,1837年ではなくて1839年に発行されたものである。ドゥ・ハーンは1839年の記載の中で,1837年に発表したM.(H.) elongataとM.(H.) heraldicaはそれぞれ同種の♂と♀であると述べ,この2種をしりぞけ,その代りとしてM.(H.) proteusを使っている。その後コノハガニの種名はドゥ・ハーンに従ってproteusとして使用されているが,H.heraldicaとH.elongataに代えて単に新しい種名のproteusを使用するのは正当ではない。2つのより古い種名は図版と共に1931年以前に発表されたものであり,命名規約からして有効といえるからである(動物命名規約第3版12条b7)。すなわちこの2種はM.(H.) proteusに対して2年の優先権priorityをもつ。そこでelongataとheraldicaの名称のうちどちらの名称が有効性を持つかと云えば,命名規約上から最初の改訂者の原則に従うことになる。すなわち,改訂者は1837年以後これら2種を同時に扱った上で,どの種が他方の種に対して優先するのかを明確にしなくてはならないのである(国際命名規約第3版(1985)第24条b)。私の知るかぎりこのような指摘はこれまでに行なわれていない。ドゥ・ハーンは1839年に2種の名称を挙げたが両種を無効名とせず,しかも2種のどれに優先するかも述べていない。それ以後コノハガニが引用される場合古い2種の名称を無視するか,間違って無効名の同物異名であるHuenia proteusとして扱っているにすぎない。以上のことから,私は最初の改訂者としてコノハガニの学名についてMaja(Huenia) heraldica DE HAAN, 1837をMaja(Huenia) elongata DE HAAN, 1837に対して優先することを位置付けるものである。これまでコノハガニの学名はHuenia proteus(DE HAAN, 1839)とされてきたが,Huenia heraldica(DE HAAN, 1837)と訂正される。この種は応用科学の分野,漁業または一般の生物学者にも知名度の高い種ではないのでproteusという種名が無効でありheraldicaを使用するとしても国際命名規約に提議すべきものであるとは思われない。属名Hueniaはドゥ・ハーンの日本動物誌第23図版の出版年から1837年と決定される。また,ミアー(1839)がHuenia属の模式種としてHuenia proteusを挙げたことは無効となる。従って,私が初めてHueniaの模式種をMaja(Huenia) heraldica DE HAAN, 1837と確立することになる。
著者
鈴木 幸子
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.10, pp.61-68, 1980-11

アカテガニの脱皮に及ぼす歩脚除去の影響を眼柄を切除した場合と熱処理の場合とで比較した。アカテガニを脱皮直後に2(1対),4(2対)あるいは6(3対)本の歩脚を除去すると次の脱皮は正常(歩脚を除去しない)個体よりも促進され,脱皮率も上昇する。この脱皮の促進は除去した歩脚数に比例する。一方眼柄を切除した場合には今まで十脚類で報告されたようにアカテガニでも脱皮を誘発し歩脚除去よりも著しい効果を示す。眼柄と歩脚を同時に除去すると次の脱皮は眼柄だけを切除した個体よりも遅延する。この脱皮の遅れる程度は除去歩脚数と比例関係にあった。FINGERMAN and FINGERMAN(1974)はUca pugilatorで,McCARTHY and SKINNER(1977a)はGecarcinus lateralisでそれぞれ無眼のカニから歩脚を除去すると脱皮は遅延することを認めているが,アカテガニによる結果とは多少相違している。
著者
ゴルドン イサベラ
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.4, pp.133-137, 1971-07

今度出版されたこのすばらしい本は,シーボルトの古典「Fauna Japonica」5巻のいずれかを利用する機会のあるすべての動物学者にとって,興味深いものである。シーボルトに関する既にあった情報に加えて,著者達は,ヨーロッパと日本の様々な教育の古い記録の未発表の資料に接する機会を持ったのである。歴史的,伝記的事実の他に,「Fauna Japonica」各巻の色々な分冊の出版の日付に関する有用なデータをすべて含んでいる。甲殻類学者には,この本は,デ・ハーンによる原典(1833〜1850)と共に,甲殻類の原典の姉妹編又は補遺として,特に観迎されるであろう。甲殻類分類学の二人の権威によって,デ・ハーンの多くの新属,新種のそれを含んで,すべての学名が改訂され,今日まで提出されてきた。さらに,約140年後,日本の有名な画家川原慶賀によって,シーボルトとビユルゲルの為に準備され,もともと「Fauna Japonica」のためのさし絵として描かれた甲殻類と剣尾類の得も言われぬほどの精巧な絵を再生することも今では可能になった。初めて,ヨーロッパ人が日本の海岸に着いてから約一世紀後,日本は諸外国との接触を一切断つことを決めた。ただし,厳しい監視の下で,オランダだけはその小さな貿易地を残すことを許された。平戸に1609年に設立されたこの商館は,1641年長崎港の人工島出島に移された。遠い江戸(今の東京)幕府への定期訪問の間だけ,商館のオランダ人は国内を見ることができた。しかし,この時代でさえ,日本の医者は西欧医学を学ぶことに熱心で,諸科学,特に植物学に興味を持つものが多かった。このようにして,出島の医者は日本人と何らかの職業上の接触を持つことができ,時々,植物を集めることも許された。オランダの権威は,従って彼等の奉仕に対し,自然科学に幅広い興味をもつ医者を可能な限り,ひきつけようと努めた。1820年はライデン自然科学博物館が設立された年であったが,これに先立って,こういった医者二人が,二人のヨーロッパ人,即ち,1690年から1692年まで日本に居たE.Kaempferと1775年から1776年まで勤務していたC.P.Thunbergの日本の動物相の知識にかなりの貢献をしたのである。ケンペルとツンベリーに関する生物学上の情報と,彼等の各々の貢献の評価は第一章に書かれている。しかし,最も著しい貢献は,最初の訪日が6年間に及んだ(1823〜1829)Ph.F.Von Sieboldと彼の助手であり後継者であるH.Burgerによって行なわれた。ビュルゲルは医者ではなかったが科学の養成を受けており,優れた収集家になった人である。シーボルトとビュルゲルに関する生物学上の記事は,シーボルトと親交のあった日本の生物学老たちに関する記事とともに,第2章に記載されている。そして,日本の動物学史への彼等の貢献の評価は,第3章に書かれている。次の2章の内容は,「Fauna Japonica」に捧げられたものであるが,この評論の第一パラグラフにすでに述べた。第5章(シーボルトの「Fauna Japonica」における甲殻類の学名の改訂)では,第1部(pp.80〜98)と第2部(pp.271〜298)の間に,いくつかの食い違いがある。例えば,p.57 Ocypoda(Helice) tridens, De Haan-p.280のHelice tridens tridens De Haanがp.85では省かれている。p.83亜属Othonia, Bell-P.284のPitho Bellがp.88では省略されている。p.31亜属Philyta-p.275のPhilyra Leachは"Philyra"と読めるがp.81から省略されている。ついでに言うと,第2部には第1部以上に脚註がある。(つまり,p.273〜274には属,Galene, Curtonotus, Dotoの脚註があるが,p.81にはない。)最後の章は,画家川原慶賀と海の生物,主に魚類や甲殻類の原画の歴史を扱っているが,これらの絵はビュルゲルによって1831年ライデンに送られた。甲殻類と剣尾類の絵はカラーで上手に再現されており,それらが代表している種の説明はp.106〜132とp.304〜323(日本語)に記されている。ビュルゲルは,この絵のうち25に説明をつけ,日本語の俗名の音声的転写が後に続く暫定的な属名をつねにつけた。川原慶賀は二種類の文字の組み合わせ,つまり,仮名と漢字で日本語名をつけ加えた。原画にいくつかの面白い註が,日本のカニの分野での第一人者,酒井博士によって加えられた。そして,図版26に描かれたカニの細部がSesarma(Sesarme) intermedia(De Haan)に一致するのに彩色がSesarma(Holometopus) dehaani H. Milne Edwardeのものである(p.129)ということを酒井博士が見つけている。学名のいくつかの誤字や印刷者のまちがいが沢山あるが,これらは,甲殻類学者には明らかに分るであろう。読者は英文体のちがいを区別できるであろうが,種々の分野の原著者の指示が,内容の委員会で与えられればよかったのではないだろうか。原典に列挙された日本の著者による著書が挿入されてないが,(つまり,p.47のK.Ito, T.Ito, p.99のイワサキヨシカズ,p.101のアレクサンダー・シーボルト)参照リストは,日本の動物学史に興味をもつ者にとって有益であるにちがいない。とびら絵として入れてある口絵(一枚はカラー)の頁は,この書の芸術的歴史的興味を非常に強めている。川原慶賀とジョセフ・シメラーによるシーボルトの青年時代の肖像画を長崎のナルタキ校と病院の敷地に彼を記念して建てられた銅像の写真と比較するとおもしろい。又,慶賀による出島の絵や,種々のオランダの使いが通った長崎から江戸への道順の地図なども含まれている。序文は,ライデン大学分類動物学の名誉教授H.ボシュマ博士,日本生物地理学会長の岡田弥一郎博士から寄せられたものである。本書は日本とオランダの長い交流にふさわしい記念であり,両著者は,非常に魅惑的な問題への学問的貢献に関し,祝されるべきである。
著者
浜野 龍夫 林 健一 川井 唯史 林 浩之
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.21, pp.73-87, 1992-12-31
被引用文献数
4

Crayfish in Lake Mashu, Hokkaido, Japan, were captured with tangle nets in the summer of 1992. All specimens, 171 males and 517 females, had intermediate diagnostic character between two subspecies, Pacifastacus leniusculus leniusculus and P, l. trowbridgii. Although three very large individuals of unidentified crayfish were captured in this lake by poachers of trout in 1975 and 1985, there is no certain confirmation because of illegal samplings. One of the present authors took a chance to measure one of them, a fresh male crayfish with very large chelae, in 1975 when he was 11 years old and recorded only its giant size, i.e. 47 cm carapace length. However, the largest P. leniusculus collected in this study was 5.7cm in c. l. Neoteny may have occurred because there is no secondary sexual character on chelae of adult P. leniusculus males. This lake has no river. Age of the lake is estimated as about 2000 years old. Further, all species of fish and crustaceans in the lake were artificially introduced from other waters. Of crayfish, only P. leniusculus occurs and was introduced from Portland, Oregon, U.S.A., in 1930. From these, the unidentified gigantic crayfish seems to have been P. leniusculus grown to a giant size.
著者
浜野 龍夫 林 健一
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-13, 1992
被引用文献数
2 19

The ecology of an atyid shrimp Caridina japonica was studied in the Shiwagi Rivulet. Yuki Town, Tokushima Pref. This species is amphidromous in nature. The juveniles migrate upstream from the sea exclusively during the night and can be seen climbing a vertical wall, where the rivulet water is trickling down. From field observation, rheotaxis seems, to be the most important orientation mechanism for the upstream migration of juveniles. The peak month of egg incubation was June. The mean duration of incubation was 40 days at 20℃ in aquaria. From these values and with known information on the duration of larval life, it was estimated that the period of upstream migration starts in August. Most males die within two years after metamorphosis, however, many females survive for more than two years.
著者
Holthuis L.B. Manning Raymond B.
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.3, pp.p1-151, 1990-06

Seventeen species of Dorippinae, distributed among eight genera, are recognized from the Indo-West Pacific region. The genera include Dorippe, with five species, Paradorippe, containing four species, Dorippoides, with two species, Heikea, new genus, recognized for two species formerly assigned to the genus Nobilum, and Medorippe, Neodorippe, Nobilum, and Philippidorippe, each containing one species. Representatives of all but one of the recognized genera of Dorippinae, Phyllodorippe Manning and Holthuis, 1981, containing one West African species, occur in the Indo-West Pacific. One genus and species that occurs in the eastern Atlantic and Mediterranean, Medorippe lanata (Linnaeus, 1767), is known from off South Africa and Madagascar. Otherwise the members of this subfamily are restricted to Indo-West Pacific localities. Several species of Dorippinae hold objects or species of anemones on their backs with their modified fourth and fifth legs, and representatives of several species play prominent roles in Chinese and Japanese folklore. In general, distribution patterns of known species are limited; no species extends across the Indo-West Pacific from the Red Sea and South Africa to Japan.
著者
駒井 智幸 丸山 秀佳 小西 光一
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.189-205, 1992
被引用文献数
7 18

The present paper provides an annotated list of decapod fauna of Hokkaido, northern Japan, mainly based on previous biogeographical works. It includes 196 species ranging 40 families, and several new records to Hokkaido are recognized.
著者
ムツ M. S. 本尾 洋
出版者
一般社団法人 日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-63, 1979
被引用文献数
1 2

1978年12月26日夜,Tigbauan(Panay島,フィリピン)沖,水深約7mの泥質地でトロール漁を行った際,他のクルマエビ類(Decapoda,Penaeidea)に混じって多くのサルエビ属(Trachypenaeus)のエビが採集された。そして,同時に漁獲されたT.asperおよびT.fulvusに混じって,一見それらと酷似するが精査すると,いくにかの点で相異する76個体(雄28,雌48)が発見された。その特徴は以下のとおりである。生時または新鮮時,antennal flagellumは白または桃白色,第1〜5腹筋の後縁部に狭い淡赤色の横縞があり,尾節と尾肢は赤色,尾肢は白く縁どられている。体全体の印象は淡赤褐色である。第2,3歩脚にmastigobranchiaがあり,第1歩脚ではこれを欠く。Petasma(雄の外部生殖器)のdisto-lateral projectionの下縁は凹型であり,thelycum(雌の外部生殖器)の前板は深くへこんでいる。以上を総合した特徴は既存の種には見られず,よってこのエビを新種と認めた。新種はフィリピンにおけるエビ類研究の先駆者Domiciano K. VILLALUZ氏(東南アジア漁業開発センター養殖部局の前部局長)の名前に因んでTrachypenaeus villaluziと命名され,同部局およびインド中央海洋水産研究所に保管された。また,他の3近縁種(T.asper, T.curvirostris, T.fulvus)との相異関係も論じ,更にT.asperはT.curvirostrisと独立の種であることを理由づけた。