著者
関谷 伸一 本間 義治
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.11, pp.53-60, 1975-10-30

佐渡を含む新潟県内の各地から採集したテツギョ44尾について,若干の外部ならびに内部の形態形質を調べ,さらにそのうち12尾については染色体を観察した。その結果,尾鰭の長さは,フナに似て短かいものから,体長の半分に達するものまであり,全長/体長の比は,1.38〜1.65の値を示した。得られたテツギョの大半は3倍体で,3n=153であり,これらの腸型はキンブナないしナガブナに固有のA型であった。一方,佐渡の2地点より得た2倍体のテツギョの腸型は判定不能であり,その複雑さより,キンギョとフナの雑種でないかと考えられた。2倍体のテツギョは両性よりなるが,3倍体はすべて雌であり,しかも2倍体や3倍体のフナと混生していた。また,地方差を比較するために,魚取沼蛮のテツギョ2尾の染色体を詞べたところ,染色体数約100の2倍体であった。
著者
沢田 勇 原田 正史
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.37, pp.20-23, 1988-06-25
被引用文献数
2

1986年10月1日,台湾新竹県関西鎮の石灰洞から採集されたヒナキクガシラコウモリにイセ条虫が寄生していた.イセ条虫は種子島を南限とする日本各地のコキクガシラコウモリに寄生する固有種である.南西請島の奄美大島・徳之島のオリイコキクガシラコウモリ,石垣島のイシガキコキクガシラコウモリ,西表島のイリオモテキクガシラコウモリなどにもイセ条虫の寄生がみられる.こうした条虫相からみて,台湾のヒナキクガシラコウモリは同じpusillusグループに属する前述の日本産小形Rhinolophus属のコウモリと分布上での関連性があるように思われる.
著者
佐藤 英文
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.28, pp.49-56, 1984-06-25

小笠原諸島の土壌性カニムシの2新種を記載し,海岸性カニムシの1種を記録した.2新種のうちTyrannochthonius similidentatus(オガサワラトゲツチカニムシ,新称)はT. takashimaiと類似するが,頭胸毛式,触肢の縁歯が1種であること,基節棘の数と形態の相違によって容易に区別され,またCheiridium aokii (グンバイウデカニムシ,新称)は体表毛が軍配形をしており,他のウデカニムシから区別される.軍配形体表毛はNeocheiridiumに多く見られるが,触肢動指の感覚毛数によって本種はCheiridium属に分類される.この他にコイソカニムシNipponogarypus enoshimaensisを記録した.
著者
関口 秀夫
出版者
The Japanese Society of Systematic Zoology
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.24-34, 1982-05-25 (Released:2018-03-30)

三重県英虞湾における夜間灯火採集のプランクトン試料中より得られた6種のモンストラ科橈脚類を記載した.これらはMonstrilla serricornis, Monstrilla sp., Cymbasoma longispinosum, C. rigidum, C. morii, C. agoenisである.この中でC. agoensisは新種であり,M. serricornis, C. longispinosum, C. rigidumの3種は日本近海より未報告の種であるM. serricornisは第1アンテナの特異な鋸歯状突起,C. longispinosumは交接器の形態,C. rigidumは第5胸脚の形態と刺毛数,C. moriiは透明な体部と第5胸脚の刺毛数,C. agoensisはoral coneの欠如と第5胸脚の刺毛数によって他種と明瞭に識別できる.
著者
岡田 豊日
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.42, pp.66-72, 1990-12-25
被引用文献数
2

タロイモショウジョウバエ属Colocasiomyiaに3種群,すなわちcristata種群,baechlii種群,arenga種群,を創設し,スラウェシ産の2新種C. sagittata,C. pararengaを記載した.また共寄主種の腹部色彩の微環境への適応現象を考察した.
著者
林 健一
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.32, pp.17-29, 1986-03-25

文部省の海外学術調査により1984年7月から9月にかけてギルバート,ナウルとソロモン諸島を訪れ,調査の一員として甲殻類の採集を行った.今回はそのうちのテッポウエビ科とテナガエビ科を除くエビ類について簡単に報告する.低潮時にサンゴ礁上とその周辺の浅海域でスノーケルや一部SCUBAを使って採集を行った.調査標本は2亜目,5科,20種に分類された.ナウルの採集物の中には該当するエビ類は1種も発見できなかった.ソロモン諸島で採れたモエビ科の1種Hippolyte sp.は既知種のどれにも一致しなかった.クルマエビ科の唯一の種であるMetapenaeopsis tarawaensisはその名前の通り,タラワ環礁が基産地であり,今回はアベママ環礁で採集されたが,この科のものとしては特異な分布を示し,キリバス以外からは報告がない.その他の種類はほとんどインド西太平洋種で,広い分布域を持つ.ただモエビ科の2種とオトメエビ科の2種は稀であり,今回の標本がそれぞれ2〜3回目の報告となる.日本にはこのうちの13種が分布している.
著者
井上 久夫
出版者
The Japanese Society of Systematic Zoology
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.23-32, 1979-06-30 (Released:2018-03-30)

端脚目,ヒメハマトビムシOrchestia platensis KROYERの胸部第7節背面に見られる斑紋が,4種の基本的斑紋型に分類された。斑紋の安定性を調べるため,長期間にわたって飼育観察が行われた結果,第一斑紋型は一貫して安定性を保つこと,また他の3種の斑紋型は,ときに相互移行をすることが明らかにされた。さらに,種内構造の分析の一端として,4種の斑紋型について第2触角の基部末端節と鞭状部の長さが測定され,両者の相対関係が各斑紋型の間で比較された。その結果,雌雄共に第1斑紋型と他の3種の斑紋型の間には,第2触角の相対成長に関しても明らかに相違が見られた。しかし,後者すなわち他の3種の斑紋型の間でははっきりした違いを見い出すことができなかった。これらの結果は,曰本の海浜に生息するヒメハマトビムシ個休群は,少なくとも二つの異なる形態型からなっていることを示唆するものと思われる。
著者
沢田 勇 原田 正史 織田 銑一 子安 和弘
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.47, pp.26-28, 1992-06-25

1991年7月28日,中国吉林省長嶺県にある長嶺種馬場内で捕獲された1頭のニオイモグラScaptochirus moschatusの消化管を剖検した結果,1隻の成熟虫体が寄生していた.同定の結果,日本のヒメヒミズ及びヒミズに寄生していたヒメヒミズ膜様条虫Hymenolepis dimecodontis SAWADA et HARADA.1990であることが判明した.条虫の終宿主特異性の観点からして,中国吉林省に生息するニオイモグラと日本のヒメヒミズやヒミズとは地理的分布上関連性があるように考えられる.
著者
本間 義治 石川 佐吉
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.14, pp.55-62, 1978-06-26

佐渡島に生息するイワナ網魚類の種族を明らかにするため,同島北部の13河川より採集した約70標本を材料として,斑紋や体原形質を検討した。また,比較のために,佐渡沿岸で採捕される大型の降海性アメマスの標本も調べた。その結果,佐渡産の本属魚類は変異に富み,俗にいわれていたエゾイワナの系統より,むしろニッコウイワナの系統の方が主体をなしていた。学名はSaloelinus leucomaenisを当てるのが適当と判断された。なお,この研究中に得られた本種では初めての狆頭を呈する一奇形標本についても簡単に記した。
著者
楊 定 永冨 昭
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.48, pp.54-62, 1992-12-25

Suragina caerulescens(BRUNETTI,1912)はビルマ,ネパール,インド(W.Bengal),日本(北海道,本州,四国,九州)に広く分布し,従来Suragina属のatypicalな一員として知られていた.中国に近縁の別種が存在することがわかり,ここでyangiと命名するのを機会にしてAsuraginaという1新属を創設する.模式種はcaerulescensである.
著者
石田 昭夫
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.50, pp.p6-12, 1994-02
被引用文献数
2

本州と九州から得られた新種Macrocyclops monticolaと.北海道から得られた新種Diacyclops dispinosusを記載した.これら2種はそれぞれの分布域の山地水体に普通に分布している.M.monticolaは第5脚2節外縁の棘の消失が殆どの個体群で変異として出現する.D.dispinosusは第5脚2節外縁に例外なく棘を具えている.
著者
青木 優和 菊池 泰二
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.53, pp.p54-61, 1995-06
被引用文献数
1

東シナ海および九州天草において,Caprella andreae MAYER,1890がいずれもアカウミガメCaretta caretta(L.)の背甲上から採集された.本種の胸節は近縁地種に比べ太く頑健で,第5〜7胸脚前節には,カメの背甲上に生える小型の海藻類を把握し強い流れに抗するのに適した形態が見られる.Caprella acutifrons groupに属する近縁種で,生息基質の種類が多岐にわたるC.penantisでは体の太さなどに著しい種内変異がみられるが,C.andreaeでは得られた標本を比較し,また過去の記録を調査しても,胸節の太さやその他の形態に顕著な種内変異はみられなかった.C.acutifrons groupの種群のうち,漂流物やカメに着生するC.andreaeやヒドロ虫類に特異的に生息するC.glabraなどの生息基質特異性の強い種類は,C.acutifrons groupの祖先種から,孤立した特異な生息場所に適応して種分化してきたものであろう.
著者
黄 娟娟 武田 正倫
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.11-18, 1986

イワガニ科のオオヒライソガニVaruna litterata(FABRICIUS)はインド西太平洋海域の汽水,淡水域に広く分布しているが,流木などについて沖合を漂流していることもある.同属には他にザンジバル産のV.tomentosa PFEFFERが知られているが,1889年の原記載以後,記録されていない.台湾産の標本を調査したところ,典型的なオオヒライソガニに加えて,明らかな別種が存在することが判明した.本論文でこの種をV.yuiの名で記載したが,最も著しい相違は雄の第1腹肢の形態である.オオヒライソガニの第1腹肢は先端が丸い完縁であるのに対し,新種では深く切れ込んでいる.その他,甲域の状態,腹部の形態,歩脚の長さなどもわずかに異なる.なお,フィリピン産の標本中にも新種に同定できるものがあり,新種もオオヒライソガニと同様にインド西太平海域沿岸部に広く分布している可能性がある.
著者
星野 孝治
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-4, 1976-12-20

高知沖の深海(水深約4350m)から採集された尋常海綿2個体について固定の結果Axinella profunda RlDLEY et DENDYとした。本種は南北両太平洋の深海域から報告されていたものである。本邦よりは,谷田(1961)が来島海峡で得た海綿を本種の変種Axinella profunda var. kurushima TANITAとして報告している。本種は樹波状になった体の中央に針状体よりなる密な軸をもち,さらにその軸から針状体がまわりに射出している。骨片は針状体のみで大きさは615-1660×8-28μ。針状体は頭部に小さな棘を有する。この棘は小さい骨片では顕著であるが,大きい骨片には少ないし無いこともある。
著者
井上 正志
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.16, pp.58-64a, 1979-06-30

筆者は現在,日本産バッタ科(Acrididae)の細胞学的研究を続けているが,各地から得た短翅フキバッタ類(Podismini族)については,種々な核型があることがわかった。この類は短翅のために分散力が弱く,地理的に分化する傾向が強いのではないかとも考えられる。従来mikadoとされてきたものについても,原産地(北海道)のものと西日本のものを比較すると多くの形態的特徴において,かなり異っていて種の同定すら困難であった。そこで筆者はこれまで,日本各地で採集された材料に基づいてこの類の分類学的研究を行っているが,今回は西日本産Parapodisma属の下記2新種について記載し,faurieiを除く本属の既知種を含めて検索表を作成した。1.Parapodisma setouchiensis sp. n.セトウチフキバッタ(新称)。模式産地:広島県御調郡御調町大字市。本種は雄の亜生殖板の背面の前縁中央に明らかな突起をもつ点でP.dairisamaと似ているが,尾毛の先端が偏平でわずかに内に向って曲がっていること,雌雄ともに前翅が大きく,しかも背面で重っていること,さらに幅に対する長さの割合が大きいことなどによって明らかに区別できる。2.Parapodisma niihamensis n. sp.シコクフキバッタ(新称)。模式産地:愛媛県新居浜市大字河又。本種は雄の亜生殖板の背面の前縁中央に突起を持たない点でP.mikadoと似ているが,亜生殖板の先端突起が短いこと,尾毛が長くその先端の縁が非常に丸いこと,雌雄ともに前翅が非常に大きく,その上背面で重っていること,さらに幅に対する長さの割合が大きいことなどによって明らかに区別できる。なお前翅が背面で重っている点でP. setouchiensisと似ているが,雄の亜生殖板,尾毛および上陰茎の形態の相違によって区別できる。
著者
鈴木 実
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-4b, 1977-10-31

付着生物における相組成の特時空的変遷過程を調べる目的で日本大学能獣医学部所属下田セミナーハウス(爪木崎)前の海水中,筑波大学付属研究センター内と東京港湾内人工凪さにスライドグラスを10枚一組として上・中・下三層に分け懸吊させ1〜3カ月後に回収・検鏡を行なうという作業を毎月1回ずつ行なってみた。その間,昭和51年12月14日に懸吊し2月14日に回収した爪木崎中層からのスライドグラスと5月9日に懸吊し6月中旬に回収した爪木崎中層からのスライドグラス各1枚にTrichoplaxをそれぞれ1個体と3個体見出すことができた。この動物はGRELL(1973)により形態・発生・系統などが詳細に調べられ,その結果クラゲの幼生ではなくPlacozoaに所属する唯一の実在種で,しかも後生物共通の祖先とみなしうることなどが明かにされた。Trichoplax(センモウアメーバヒラムシ:新称)は世界的な珍奇種で飼育用水槽中以外から発見されたのは下田爪木崎が世界では2番目の記録である。