著者
酒井 雄希
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.101-105, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
17

小さな即時報酬と大きな遅延報酬の選択(異時点間の選択問題)において,前者を過度に頻繁に選ぶ「衝動的選択」は衝動性をとらえる指標の1つとされ,前頭葉や線条体といった脳領域の障害やセロトニン機能低下で引き起こされることが知られている。近年,計算モデルを用いた機能的MRI解析によって,線条体・島皮質において,腹側が衝動的な短期報酬予測に関与し背側が長期報酬予測に関与すること,セロトニン濃度が低いときは短期報酬予測に関連した腹側の活動が優位となることが明らかとなり,衝動的選択の神経基盤として注目されてきた。 一方で,様々な精神疾患において前頭葉─線条体回路の障害・セロトニン機能障害の関与を示唆する知見が集積してきているが,その包括的理解は進んでいない。本稿ではセロトニン機能障害を背景とした前頭葉─線条体回路の機能変化と衝動的行動選択といった観点から,様々な精神疾患の理解が深まる可能性を示す。
著者
宮田 淳 酒井 雄希 河内山 隆紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

妄想すなわち誤った信念の形成には「結論への飛躍バイアス」と呼ばれる認知的バイアスが関わり、これは健常者にみられる「保守性バイアス」の裏返しと推定されるが、その神経基盤はよく分かっていない。本研究では、妄想の形成機序およびその神経基盤を、認知的バイアス課題および構造的・機能的な脳領域間結合解析を用いて解明することを目指した。結果、健常者における脳白質の統合性(構造的結合性)と保守性バイアスが正の相関を示した。また統合失調症において、脳の機能的結合性と結論への飛躍バイアスとが負の相関を示した。これらの結果により、妄想に関わる認知的バイアスの神経基盤が明らかとなった。