著者
古河 恵一 長野 護 重吉 康史
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.171-174, 2007-09

ハイテクリサーチ研究の中で,時差症候群がどうして起きるのかを明らかにしました.単純にいえば,体内時計の一部が,環境の明暗サイクルの急激なシフトについて行けないために出発地の時間が体に残っていて時差ぼけが生じるのです.といえば,当たり前のことなのですが,長い間どうしてこういった環境のリズムと体内時計の乖離が生じるのかわかっていませんでした.時差症候群の原因には体内時計中枢の解剖学的な構築が大きく関与しており,そういった観点からの解析技術を我々の教室が有していたために価値のある所見を得ることができました.この総論では哺乳類体内時計の場所である視交叉上核とその中に存在する小領域と,体内時計はどうして変位するか.すなわち,日々の時刻あわせをどのように行うかについて説明して,最後に時差症候群の成り立ちについて述べます.ほとんどの生物には体内時計が存在し,われわれの生理現象(睡眠,体温,行動,ホルモンなど)のリズムが存在します.このリズムの周期は,正確に24時間ではなく24時間より若干長かったり,短かったりすることからこのリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれています.体内時計の中枢は,視床下部の視交叉上核という小さな神経核にあり,その視交叉上核の細胞が環境の明暗周期に同調しています.視交叉上核の一側には1万個弱の細胞が存在し,その内の半分以上が神経細胞です.その神経細胞のほとんどが自律的な約24時間のリズムを作り出すことができます.