著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 野元 俊秀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-50, 1986-03-25
被引用文献数
1

火山地帯に位置し, 火山砕屑物に厚く覆われている鹿児島大学農学部附属高隈演習林において, 森林理水試験流域を設置し, 水文観測を開始した。この観測は, 火山地帯における山地流域の流出特性を解明すること, 同時にこのような特異な環境条件下での森林の水源かん養機能, 洪水調節機能, 土地保全機能等について検討するための基礎資料を得ることを目的としている。ここでは, 試験流域の地形, 地質, 土壌, 植生等の調査結果について述べ, 1984年〜1985年の水文観測資料から試験流域の流出特性について考察した。得られた結果をまとめると次のようである。1)試験流域は, 扇形をした放射状流域であり, 標高520〜680mの高度域に位置し, 面積は43.42haである。2)流域の地質は, 中世界に属する砂岩からなる四万十層, これを覆うように洪積世末期に姶良・阿多両カルデラから大量に噴出した降下軽石が分布している。また, 土層の上層部には流域ほぼ全体にわたり霧島および桜島から噴出した火山灰および降下軽石が分布している。3)試験流域にルーズな状態で堆積している降下軽石層は非常に侵食されやすいため, 流域からは多量の土砂流出が行われている。1984年8月〜1985年8月の1年間に流域から流出された土砂量は約150m^3(約345m^3/km^2)であった。4)試験流域のほとんどは森林であり, 約40%がスギを主体とした針葉樹林, 残りの約60%が壮齢の広葉樹林である。5)試験流域における降雨-流出の関係を解析し, 流出特性について考察した。その結果によると, 試験流域では直接流出は一般山地流域より短時間で終了し, 直接流出継続時間は2〜23時間であった。したがって, 直接流出量も少なく, 直接流出率は0.1〜12%の範囲にある。6)地下水減水定数は, 0.001〜0.022(1/hr)の範囲にあり, 平均0.007(1/hr)であった。これらの値は一般山地流域より小さい。試験流域は火山砕屑物に厚く覆われていることから, 地中水は一般山地流域よりも長い経路をたどりゆっくり河川に達している。その結果, 地下水減水曲線の勾配は緩く, 無降雨時期にも安定した, 高い基底流量が得られている。無降雨時期の基底流量は試験流域において夏期0.04(m^3/s/km^2), 冬期0.02(m^3/s/km^2)である。