著者
春山 元寿 下川 悦郎 井上 利昭
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-92, 1977-03-31
被引用文献数
1

桜島火山地域における土砂害発生のメカニズを究明するうえで, 基礎的資料となる降灰および渓床滞積土の物理的性質を検討した。その結果は次のように要約される。(1)試料降灰のうち細粒子部分を火山灰と呼び, 粗粒子部分が多いものを火山砂と呼ぶことにする。試料としては火山灰, 火山砂, および渓床滞積土を用いた。とくに火山灰は各種の試験に供した。(2)試験行なわれた試験は, 土粒子の比重試験, 粒度試験, 現場密度など, 透水試験, 不飽和透水試験, 排水・乾燥試験, スレーキング試験, 膨張・収縮試験, 三軸圧縮試験, および最小密度試験である。(3)土粒子の比重これは, 火山灰, 火山砂ともに2.66,渓床滞積土は2.62である。(4)粒度組成火山灰は粘土分9%, シルト分24%, 砂分67%のシルト質砂, 火山砂はシルト分以下が7%, 砂分59%, レキ分34%の細粒分まじり砂である。渓床滞積土の粒度は場所によって大きく変化し, レキ質土, 砂質土, 細粒分まじり砂などとして分類される。(5)乱さない渓床滞積土の状態地獄河原では, 含水比15.4〜24.6%, 湿潤密度1.53〜1.69g/cm^3,乾燥密度1.22〜1.46g/cm^3,間ゲキ比0・80〜1.14,軽石が多い古河良川では, 含水比25.4〜36.6%, 湿潤密度1.22〜1.26g/cm^3,乾燥密度0.89〜1.00g/cm^3,間ゲキ比1.61〜1.93である。(6)火山灰の最小密度降雨などの影響を受けていない降灰の滞積密度を知るために, 火山灰の最小密度を測定した。その値は, 滞積状況で異なるが, 乾燥密度の最小値という点から決定すると1.31g/cm^3程度である。そのときの間ゲキ比は1.030である。(7)透水性火山灰と火山砂について透水試験を行なった。火山灰の透水係数は時間とともに増加する傾向を持ち, 間ゲキ比と透水係数の対数の間に直線関係が認められ, さらに10^<-4>〜10^<-5>(cm/sec)のオーダーの範囲にある。火山砂の透水係数は, ゆるい状態では時間とともに減少し, 密な状態ではわずかながら増加する傾向がみられる。また, 間ゲキ比の平方と透水係数の間に直線関係を認めることができる。透水係数は10^<-2>〜10^<-3>(cm/sec)の間にある。(8)不飽和時の透水性これは火山灰についてだけ試験した。不飽和火山灰の透水係数は飽和したものに比べて小さく, (4.5〜8.5)×10^<-5>(cm/sec)である。(9)重力排水・蒸発乾燥特性試料として火山灰と火山砂を用いた。重力排水は火山灰, 火山砂とも24時間以内でほとんど終了する。重力排水後の含水比は, 間ゲキ比によって異なり, 火山灰で13〜18%, 火山砂で10〜12%である。空気乾燥状態での含水比は0.38%程度である。火山砂は火山灰より水分消失速度が速い。含水比の時間的変化は, w=at^bによって表わされる(w=含水比, t=経過時間)。(10)スレーキング崩壊火山灰についてスレーキング試験を行なった。供試体の乾燥とともにスレーキング崩壊の時間は短かくなる。崩壊所要時間tと含水比wの間には, logt=m1ogw+hの関係があり, 含水比が低いほど崩壊時間は小となる(m, h=定数)。(11)吸水膨張・収縮特性火山灰に吸水させて体積変化状況を試験した。間ゲキ比が0.6〜0.7では吸水によって収縮も膨張も生じなく, それよりゆるい状態では収縮し, 密な状態では膨張(膨潤)する。収縮・膨張は吸水開始後5〜10分でほとんど全量を終了する。吸水による供試体高さの変化率Rと経過時間tとの間には, R=αlogt^2+βlogt+γの関係がある。収縮のときα>0,膨張のときα<0,体積変化を生じないときα=β=0となる。(12)セン断抵抗角火山灰, 火山砂について, 供試体の密度をいろいろかえて, 拘束圧が0.5および1.Okg/cm^2のもとで圧密排水三軸圧縮試験を行なった。火山砂はセン断を受けると膨張傾向が強く, 火山灰は収縮傾向が強い材料である。したがって外力を受けたとき, 火山灰は火山砂に比較して不安定になりやすい。火山灰のセン断抵抗角φ_dは30〜36度, 火山砂のφ_dは40〜50度であり, いずれも間ゲキ比eが小さいほどφ_dは大きい。φ_dとeの間には, φ_d=ne+lの関係があり, eを知ることによってφ_dを推定できる。粒子のかみ合いの補正を行ったときの摩擦角は34度内外である(n, l, =定数)。
著者
松本 舞恵 下川 悦郎 地頭薗 隆
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林研究報告 (ISSN:13449362)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.9-21, 1998-12-25

1997年3月および5月に鹿児島県北西部で発生した一連の地震により斜面崩壊が多発した花崗岩地域を対象に, 斜面崩壊の空間的・時間的推移および植生との関係について検討した。得られた結果は以下の通りである。1) 地震と降雨により発生した崩壊には拡大崩壊と新規崩壊がみられた。2) 調査流域(約678ha)における崩壊地の個数と崩壊面積は, 地震発生約1年前の1996年3月5日時点で124個と2.31ha, 1997年3月26目地震後の4月25日時点で290個と6.18ha, 5月13日地震後の5月27目時点で543個と13.37ha, 梅雨後の8月24日時点で649個と18.11haと経時的に大きく増加した。3) 調査流域において斜面崩壊により生産された土砂量は, 地震発生約1年前の1996年3月5日時点で23100m^3,1997年3月26目地震後の4月25日時点で61800m^3,5月13目地震後の5月27日時点で133700m^3,梅雨後の8月24日時点で181100m^3であった。4) 斜面崩壊の発生は櫓生に強く支配され, 幼齢針葉樹林地で多数の崩壊が発生していることが認められた。
著者
寺本 行芳 下川 悦郎
出版者
鹿児島大学農学部演習林
雑誌
鹿児島大学農学部演習林研究報告 (ISSN:13449362)
巻号頁・発行日
no.35, pp.1-9, 2007-12

2007年7月の台風4号に伴う大雨によって鹿児島大学附属高隈演習林で発生した林道法面の崩壊ならびに土石流の実態について調査した。得られたおもな結果は以下の通りである。(1)調査地でみられた斜面崩壊の形態として、林道法面における大隅降下軽石層とその上位の火山灰・軽石層で発生した肩部の崩落、自然斜面における風化土層中への雨水の浸透に起因した表層崩壊、林道法面および自然斜面における雨水の浸透および地下水に起因した深層崩壊が挙げられる。(2)土石流が発生した流域における生産・流出土砂量を現地調査に基づき求めた結果、生産土砂量は4,325m(3)(5,545m3/km(2))、流出土砂量は3,600m(3)(4,615m3/km(2))である。(3)現地調査の結果、流木は針葉樹林で覆われた斜面からだけでなく、広葉樹林で覆われた斜面からも発生していた。斜面崩壊に伴って生産された226m(3)の流木のうち、72m(3)が河道内で捕捉、125m(3)が流域最下流地点に流出、29m(3)が流域最下流地点より下流に流出している。
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 野元 俊秀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-50, 1986-03-25
被引用文献数
1

火山地帯に位置し, 火山砕屑物に厚く覆われている鹿児島大学農学部附属高隈演習林において, 森林理水試験流域を設置し, 水文観測を開始した。この観測は, 火山地帯における山地流域の流出特性を解明すること, 同時にこのような特異な環境条件下での森林の水源かん養機能, 洪水調節機能, 土地保全機能等について検討するための基礎資料を得ることを目的としている。ここでは, 試験流域の地形, 地質, 土壌, 植生等の調査結果について述べ, 1984年〜1985年の水文観測資料から試験流域の流出特性について考察した。得られた結果をまとめると次のようである。1)試験流域は, 扇形をした放射状流域であり, 標高520〜680mの高度域に位置し, 面積は43.42haである。2)流域の地質は, 中世界に属する砂岩からなる四万十層, これを覆うように洪積世末期に姶良・阿多両カルデラから大量に噴出した降下軽石が分布している。また, 土層の上層部には流域ほぼ全体にわたり霧島および桜島から噴出した火山灰および降下軽石が分布している。3)試験流域にルーズな状態で堆積している降下軽石層は非常に侵食されやすいため, 流域からは多量の土砂流出が行われている。1984年8月〜1985年8月の1年間に流域から流出された土砂量は約150m^3(約345m^3/km^2)であった。4)試験流域のほとんどは森林であり, 約40%がスギを主体とした針葉樹林, 残りの約60%が壮齢の広葉樹林である。5)試験流域における降雨-流出の関係を解析し, 流出特性について考察した。その結果によると, 試験流域では直接流出は一般山地流域より短時間で終了し, 直接流出継続時間は2〜23時間であった。したがって, 直接流出量も少なく, 直接流出率は0.1〜12%の範囲にある。6)地下水減水定数は, 0.001〜0.022(1/hr)の範囲にあり, 平均0.007(1/hr)であった。これらの値は一般山地流域より小さい。試験流域は火山砕屑物に厚く覆われていることから, 地中水は一般山地流域よりも長い経路をたどりゆっくり河川に達している。その結果, 地下水減水曲線の勾配は緩く, 無降雨時期にも安定した, 高い基底流量が得られている。無降雨時期の基底流量は試験流域において夏期0.04(m^3/s/km^2), 冬期0.02(m^3/s/km^2)である。
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 松本 舞恵 加藤 昭一 三浦 郁人
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-54, 1995-10-20

鹿児島県は1993年幾度となく豪雨に見舞われた。これによって県内のあちこちで斜面崩壊・土石流による土砂災害が発生し,大きな被害がでた。8月6日の災害直後,鹿児島市とその北部域の垂直空中写真が撮影された。空中写真判読に基づき,斜面崩壊・土石流の発生分布とそれによる侵食土砂量について解析を行った。得られた結果をまとめると次のようである。1)空中写真判読区域(南北方向20.6km×東西方向15.8km,面積約325km^2)に発生した斜面崩壊・土石流は大小合わせて6,500個以上にのぼった。それらの約60%は侵食域の面積が300m^2未満のものである。2)斜面崩壊・土石流による侵食域分布図に200m間隔でメッシュをかけ,200×200mグリッド内の斜面崩壊・土石流の個数を求めた。グリッド総数8,137個のうちグリッド内に斜面崩壊・土石流が1箇所以上存在するものは全体の約26%に相当した。斜面崩壊・土石流が10個以上存在するグリッドは甲突川中流域および思川中流域に集中している。3)空中写真判読区域を5区域に区分し,それぞれの区域の斜面崩壊・土石流による侵食域の面積を求めた。さらに,侵食域面積に平均的な侵食深を乗じて各区域の侵食土砂量を計算した。8月1〜2日豪雨で約1,600箇所の斜面崩壊・土石流が発生した思川流域では約500×103m^2(約8,000m^3/km^2)の土砂が侵食された。8月6日豪雨で約3,700箇所の斜面崩壊・土石流が発生した甲突川流域では約655×10^3m^3(約6,000m^3/km^2)の土砂が侵食されている。また多くの死者やJR日豊本線,国道10号の大きな被害が発生した姶良カルデラの西壁でも約55×10^3m^3(約7,000m^3/km^2)の土砂が侵食されている。4)空中写真判読区域を表層地質で大まかに3区域に区分し,それぞれの区域の斜面崩壊・土石流による侵食域の面積,土砂量を計算した。その結果,火砕流堆積物の非溶結部であるしらす区域で約942×10^3m^3(約5,OOOm^3/km^2),火成岩類区域で約224×10^3m^3(約3,O00m^3/km^2),堆積層区域で約202×10^3m^3(約4,O00m^3/km^2)であった。
著者
春山 元寿 下川 悦郎
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土質工学会論文報告集 (ISSN:03851621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, 1978-09-15

鹿児島県内では, 年々の梅雨期や台風時には必ず地盤災害が発生している。その原因は多くの場合, 素因としてのしらすと誘因としての異常豪雨に帰せられていたが, 崩壊形態から判断する限り, 第一義的にしらす自然斜面の崩壊といえるのは必ずしも多くないことが述べられている。山地を主とする斜面の崩壊発生と降雨量, 崩壊地の地質, 崩壊形態, および崩壊地の植生について検討している。雨量観測と崩壊時間の測定から, 先行降雨が比較的少なくて, 短時間の降雨の場合表層すべりが多く, 先行降雨が多い場合はパイピングの発生の可能性の大きいことを指摘している。さらに多雨期に集中豪雨が発生し, 雨量が200〜250 mmを越え, この間に時間降雨が50〜60 mm以上発生すれば, その後数時間以内に斜面崩壊の発生のおそれがあると述べている。また, 崩壊斜面の地盤・地質を調査した結果から地盤がしらすであっても, 崩壊物質はしらすをおおっている表土層やローム層が多いことを述べている。また森林の土地保全機能は樹木の生態的特性を考えて論ぜられるべきだとしている。