著者
今永 正明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.61-67, 1990-03-26

最近長伐期林業への道が提唱され, 鹿児島県では地元スギ品種であるメアサスギの見直しが行われている。メアサスギは材質がすぐれ, 成長は晩成型で, 壮齢期以降の成長が永く持続する。そこで長伐期生産品種としての価値が極めて高い。したがってこうしたメアサスギ林の調査研究は現下の重要な課題であり, 今回現地調査によって,その林分構造を明らかにすることを試みた。蒲生町を中心に特色ある高齢林分9林分(林齢55年〜85年)を選び, 主としてその胸高直径の分布を基に林分構造の解析を行った。各林分の胸高直径, 樹高, 単木材積の平均値, 標準偏差, 変動係数を明らかにするとともに直径についてはその分布のヒストグラムを描き林分構造を調べた。それによると各林分には, 二段林型を示すもの, 本数が著しく減少しているもの, 超高齢木の混入するものなどがみられ, 高齢林の特色ある構造が明らかとなった。ところで直径分布については「同齢単純林における直径分布は, 幼齢あるいは若齢の間は一般に正規分布にしたがうが, 年齢が進むにつれ, 除伐や間伐の影響をうけて, しだいに左傾していき, シャリエA型分布からピアソンI型分布へと進む傾向がみられる。直径の分布範囲は比較的小さく, 変動係数は10〜30%である」といわれる。そこで正規分布に近い林分について分布の正規性の検定を行ったが, 高齢林分にあってもその直径分布の正規性を否定出来ぬものが見出された。これは除間伐等森林育成作業との関連で今後検討を要する課題を与えるものといえよう。5林分についてメアサスギ収穫表と比較しその立木度をみると, 0.8〜1.2の間にあるから, これら林分はほぼ正常に近い林分であるといえる。これら林分の直径の変動係数は10〜30%におさまることから, この点は従来の知見を裏づけるものといえる。
著者
春山 元寿 下川 悦郎 井上 利昭
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-92, 1977-03-31
被引用文献数
1

桜島火山地域における土砂害発生のメカニズを究明するうえで, 基礎的資料となる降灰および渓床滞積土の物理的性質を検討した。その結果は次のように要約される。(1)試料降灰のうち細粒子部分を火山灰と呼び, 粗粒子部分が多いものを火山砂と呼ぶことにする。試料としては火山灰, 火山砂, および渓床滞積土を用いた。とくに火山灰は各種の試験に供した。(2)試験行なわれた試験は, 土粒子の比重試験, 粒度試験, 現場密度など, 透水試験, 不飽和透水試験, 排水・乾燥試験, スレーキング試験, 膨張・収縮試験, 三軸圧縮試験, および最小密度試験である。(3)土粒子の比重これは, 火山灰, 火山砂ともに2.66,渓床滞積土は2.62である。(4)粒度組成火山灰は粘土分9%, シルト分24%, 砂分67%のシルト質砂, 火山砂はシルト分以下が7%, 砂分59%, レキ分34%の細粒分まじり砂である。渓床滞積土の粒度は場所によって大きく変化し, レキ質土, 砂質土, 細粒分まじり砂などとして分類される。(5)乱さない渓床滞積土の状態地獄河原では, 含水比15.4〜24.6%, 湿潤密度1.53〜1.69g/cm^3,乾燥密度1.22〜1.46g/cm^3,間ゲキ比0・80〜1.14,軽石が多い古河良川では, 含水比25.4〜36.6%, 湿潤密度1.22〜1.26g/cm^3,乾燥密度0.89〜1.00g/cm^3,間ゲキ比1.61〜1.93である。(6)火山灰の最小密度降雨などの影響を受けていない降灰の滞積密度を知るために, 火山灰の最小密度を測定した。その値は, 滞積状況で異なるが, 乾燥密度の最小値という点から決定すると1.31g/cm^3程度である。そのときの間ゲキ比は1.030である。(7)透水性火山灰と火山砂について透水試験を行なった。火山灰の透水係数は時間とともに増加する傾向を持ち, 間ゲキ比と透水係数の対数の間に直線関係が認められ, さらに10^<-4>〜10^<-5>(cm/sec)のオーダーの範囲にある。火山砂の透水係数は, ゆるい状態では時間とともに減少し, 密な状態ではわずかながら増加する傾向がみられる。また, 間ゲキ比の平方と透水係数の間に直線関係を認めることができる。透水係数は10^<-2>〜10^<-3>(cm/sec)の間にある。(8)不飽和時の透水性これは火山灰についてだけ試験した。不飽和火山灰の透水係数は飽和したものに比べて小さく, (4.5〜8.5)×10^<-5>(cm/sec)である。(9)重力排水・蒸発乾燥特性試料として火山灰と火山砂を用いた。重力排水は火山灰, 火山砂とも24時間以内でほとんど終了する。重力排水後の含水比は, 間ゲキ比によって異なり, 火山灰で13〜18%, 火山砂で10〜12%である。空気乾燥状態での含水比は0.38%程度である。火山砂は火山灰より水分消失速度が速い。含水比の時間的変化は, w=at^bによって表わされる(w=含水比, t=経過時間)。(10)スレーキング崩壊火山灰についてスレーキング試験を行なった。供試体の乾燥とともにスレーキング崩壊の時間は短かくなる。崩壊所要時間tと含水比wの間には, logt=m1ogw+hの関係があり, 含水比が低いほど崩壊時間は小となる(m, h=定数)。(11)吸水膨張・収縮特性火山灰に吸水させて体積変化状況を試験した。間ゲキ比が0.6〜0.7では吸水によって収縮も膨張も生じなく, それよりゆるい状態では収縮し, 密な状態では膨張(膨潤)する。収縮・膨張は吸水開始後5〜10分でほとんど全量を終了する。吸水による供試体高さの変化率Rと経過時間tとの間には, R=αlogt^2+βlogt+γの関係がある。収縮のときα>0,膨張のときα<0,体積変化を生じないときα=β=0となる。(12)セン断抵抗角火山灰, 火山砂について, 供試体の密度をいろいろかえて, 拘束圧が0.5および1.Okg/cm^2のもとで圧密排水三軸圧縮試験を行なった。火山砂はセン断を受けると膨張傾向が強く, 火山灰は収縮傾向が強い材料である。したがって外力を受けたとき, 火山灰は火山砂に比較して不安定になりやすい。火山灰のセン断抵抗角φ_dは30〜36度, 火山砂のφ_dは40〜50度であり, いずれも間ゲキ比eが小さいほどφ_dは大きい。φ_dとeの間には, φ_d=ne+lの関係があり, eを知ることによってφ_dを推定できる。粒子のかみ合いの補正を行ったときの摩擦角は34度内外である(n, l, =定数)。

1 0 0 0 OA 3.黒島の植物

著者
迫 静男 丸野 勝敏
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-61, 1983-03-25
被引用文献数
1
著者
今永 正明 長 正道 吉田 茂二郎 中島 ネルソン 上杉 基
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.177-185, 1995-10-20

ブラジル3都市で住民の森林観について調べた。調査はすでに原生林のほとんどを失ったサンパウロ州とパラナ州と原生林の豊かなアマゾナス州の州都,サンパウロ市,クリチバ市とマナウス市で行った。調査対象者は一般市民1,195人,高校生477人である。調査の結果以下の点が明らかになった。1.ブラジル人の好む旅行先は「広い砂浜」である。2.彼等の森林への関心はヨーロッパのドイツ人やフランス人ほどではないが,日本人より少し高いと思われる。3.ほとんど9割のブラジル人が大きな古い木をみたとき,神々しい気持をいだき,深い森へ入ったとき神秘的な気持をいだく。従ってブラジル南部でそうした木や森を失った痛手は大きく,今後の樹木や森林の取扱いは十分慎重に行わなければならない。4.都市間の差はサンパウロ市,クリチバ市間では少ないが,この両市とマナウス市との間には差が認められる。
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 野元 俊秀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-50, 1986-03-25
被引用文献数
1

火山地帯に位置し, 火山砕屑物に厚く覆われている鹿児島大学農学部附属高隈演習林において, 森林理水試験流域を設置し, 水文観測を開始した。この観測は, 火山地帯における山地流域の流出特性を解明すること, 同時にこのような特異な環境条件下での森林の水源かん養機能, 洪水調節機能, 土地保全機能等について検討するための基礎資料を得ることを目的としている。ここでは, 試験流域の地形, 地質, 土壌, 植生等の調査結果について述べ, 1984年〜1985年の水文観測資料から試験流域の流出特性について考察した。得られた結果をまとめると次のようである。1)試験流域は, 扇形をした放射状流域であり, 標高520〜680mの高度域に位置し, 面積は43.42haである。2)流域の地質は, 中世界に属する砂岩からなる四万十層, これを覆うように洪積世末期に姶良・阿多両カルデラから大量に噴出した降下軽石が分布している。また, 土層の上層部には流域ほぼ全体にわたり霧島および桜島から噴出した火山灰および降下軽石が分布している。3)試験流域にルーズな状態で堆積している降下軽石層は非常に侵食されやすいため, 流域からは多量の土砂流出が行われている。1984年8月〜1985年8月の1年間に流域から流出された土砂量は約150m^3(約345m^3/km^2)であった。4)試験流域のほとんどは森林であり, 約40%がスギを主体とした針葉樹林, 残りの約60%が壮齢の広葉樹林である。5)試験流域における降雨-流出の関係を解析し, 流出特性について考察した。その結果によると, 試験流域では直接流出は一般山地流域より短時間で終了し, 直接流出継続時間は2〜23時間であった。したがって, 直接流出量も少なく, 直接流出率は0.1〜12%の範囲にある。6)地下水減水定数は, 0.001〜0.022(1/hr)の範囲にあり, 平均0.007(1/hr)であった。これらの値は一般山地流域より小さい。試験流域は火山砕屑物に厚く覆われていることから, 地中水は一般山地流域よりも長い経路をたどりゆっくり河川に達している。その結果, 地下水減水曲線の勾配は緩く, 無降雨時期にも安定した, 高い基底流量が得られている。無降雨時期の基底流量は試験流域において夏期0.04(m^3/s/km^2), 冬期0.02(m^3/s/km^2)である。
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 松本 舞恵 加藤 昭一 三浦 郁人
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-54, 1995-10-20

鹿児島県は1993年幾度となく豪雨に見舞われた。これによって県内のあちこちで斜面崩壊・土石流による土砂災害が発生し,大きな被害がでた。8月6日の災害直後,鹿児島市とその北部域の垂直空中写真が撮影された。空中写真判読に基づき,斜面崩壊・土石流の発生分布とそれによる侵食土砂量について解析を行った。得られた結果をまとめると次のようである。1)空中写真判読区域(南北方向20.6km×東西方向15.8km,面積約325km^2)に発生した斜面崩壊・土石流は大小合わせて6,500個以上にのぼった。それらの約60%は侵食域の面積が300m^2未満のものである。2)斜面崩壊・土石流による侵食域分布図に200m間隔でメッシュをかけ,200×200mグリッド内の斜面崩壊・土石流の個数を求めた。グリッド総数8,137個のうちグリッド内に斜面崩壊・土石流が1箇所以上存在するものは全体の約26%に相当した。斜面崩壊・土石流が10個以上存在するグリッドは甲突川中流域および思川中流域に集中している。3)空中写真判読区域を5区域に区分し,それぞれの区域の斜面崩壊・土石流による侵食域の面積を求めた。さらに,侵食域面積に平均的な侵食深を乗じて各区域の侵食土砂量を計算した。8月1〜2日豪雨で約1,600箇所の斜面崩壊・土石流が発生した思川流域では約500×103m^2(約8,000m^3/km^2)の土砂が侵食された。8月6日豪雨で約3,700箇所の斜面崩壊・土石流が発生した甲突川流域では約655×10^3m^3(約6,000m^3/km^2)の土砂が侵食されている。また多くの死者やJR日豊本線,国道10号の大きな被害が発生した姶良カルデラの西壁でも約55×10^3m^3(約7,000m^3/km^2)の土砂が侵食されている。4)空中写真判読区域を表層地質で大まかに3区域に区分し,それぞれの区域の斜面崩壊・土石流による侵食域の面積,土砂量を計算した。その結果,火砕流堆積物の非溶結部であるしらす区域で約942×10^3m^3(約5,OOOm^3/km^2),火成岩類区域で約224×10^3m^3(約3,O00m^3/km^2),堆積層区域で約202×10^3m^3(約4,O00m^3/km^2)であった。
著者
松下 幸司
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.191-211, 1992-03-30
被引用文献数
2

減反率法によって木材の供給予測を行う際には伐採齢の平均と標準偏差が必要である。減反率法の直接的な適用が有効なのは,この統計値が安定している場合である。北海道のカラマツを事例に,伐採齢級の平均と標準偏差の時系列的変化を推計した。用いた資料は,1970年度以降の年度末現在の齢級構成表である。分析の結果,北海道のカラマツ人工林の伐採動向に関し,以下の点が明らかになった。1.伐採面積,造林面積ともに減少傾向にある。伐採面積が造林面積をかなり上回っており,カラマツ人工林面積の減少が続いている。2.カラマツの伐採齢級の平均はIV齢級からV齢級へと近年上昇傾向にある。若齢級での伐採が減少してることが影響している。なお,伐採齢級の標準偏差については余り変化が見られない。3.齢級別伐採率からみるとピークがVII齢級から,VIII,IX齢級と上昇している。ピーク齢級での伐採率は低下している。齢級を問わず,全齢級で一定の最低伐採率を観察することができる。4.民有林については,価格の低下に従って,伐採齢級の上昇と伐採面積の減少を観察することができる。ただし,国有林,道有林では一概に言えない。伐採齢の平均と標準偏差から将来の供給予測を行う際には,伐採齢の継続的調査によって,モデルの仮定が大きく変化していないことを常に確認する必要がある。変化が見られる場合には,その変化要因の分析が必要である。
著者
瀬戸 和明 吉田 茂二郎 今永 正明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-10, 1995-10-20

近年日本でも,地理情報システム(GIS)が森林経営に応用されるようになってきている。この研究の目的は,GISを鹿児島大学佐多演習林に応用することとこのGISの有効性を評価することにある。この研究では,テラソフト(ビジュアルサイエンス社)が利用された。各小班ごとの森林情報を基礎にデータベースが構築され,森林基本図,林分表,地形,および道路がこのデータベースに納められている。この研究では,地図に関する問題,すなわち現行の森林基本図はGISの精度に耐えるものではないことが指摘された。現在,各県の林務課はこのGISを県の森林経営管理に応用することを計画しているが,筆者らは完全な地図の整備を行うことが先決であると考える。