著者
中村 美香子 野田 正順 村上 隆之 日俣 克一 細谷 誠生 山田 雄司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.229-237, 2004-05-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

(1) 臭素酸カリウムを添加した角型食パン及び山型食パンを調製し,それぞれパン中の臭素酸の残存量を,改良微量分析法(検出限界0.5ppb)を用いて測定した.その結果,角型食パンからは添加濃度13及び15ppmにおいて臭素酸は検出されなかった.一方,山型食パンからは各添加濃度(9,13及び30ppm)においてその添加量に比例して0.5ppb以上の臭素酸が検出された.(2) 臭素酸の分解を促進する製パン工程を明らかにするため,山型食パンの製造工程中における臭素酸の残存量の変化を,ポストカラムHPLC法(検出限界3ppb)を用いて測定した.その結果,ホイロ後,すなわち焼成前までに,臭素酸の残存量を低減した条件下において臭素酸の残存量が検出限界以下になることが認められた.しかし,その条件下では臭素酸カリウムの製パン性に対する改良効果があまり認められなかった.(3) 山型食パン中の残存臭素酸の分布を改良微量分析法(検出限界0.5ppb)を用いて測定した結果,上部クラスト(型に接していないクラスト)に臭素酸が残存していることが明らかとなった.一方,焼成型に蓋をして焼成する角食の食パン類には臭素酸が残存せず,焼成蓋をせずに焼成する山型食パンに臭素酸が残存することが明らかとなった.(4) 山型食パン中の臭素酸残存量を低減するため,各種還元剤(L-アスコルビン酸,硫酸第一鉄,システイン及びグルタチオン)を臭素酸カリウムと同時に添加し,それぞれのパン中の臭素酸残存量をポストカラムHPLC法(検出限界3ppb)を用いて測定した.その結果,いずれの還元剤も臭素酸残存量の低下に効果を示し,特に,L-アスコルビン酸(対粉30ppm以上),硫酸第一鉄(対粉15ppm以上)を同時に添加した場合に効果が高かった.しかし,これらの添加は,臭素酸カリウムの製パン性改良効果にあまり寄与しなかった.(5) 臭素酸カリウムを添加した山型食パン中の臭素酸残存量を低減するため,焼成条件及び焼成型の蓋について検討し,改良微量分析法(検出限界0.5ppb)を用いて残存臭素酸量を測定した.その結果,山型食パンの焼成温度を角型食パンと同じ210°Cにして,16分から33分間焼成したところ,焼成時間が長くなるに従って臭素酸の残存量が低下する傾向が認められた.また,山型食パンを焼成する際に,焼成型に蓋をすることによって,臭素酸の残存量が検出限界以下になることが認められた.(6) 実際の製造所(6箇所)において臭素酸カリウムを対粉12ppm(粉末添加む)とL-アスコルビン酸を対粉5ppm添加した角型食パンを試験的に調製し,改良微量分析法(検出限界0.5ppb)を用いて残存臭素酸量を測定したところ,パン中の臭素酸の残存量は検出限界以下であった.