著者
榊原 伸一 上田 秀一 中舘 和彦 野田 隆洋
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

神経系前駆細胞、神経幹細胞の分裂タイミング調節などの幹細胞維持機構の一端を明らかにするために、神経幹細胞に強く発現する新規遺伝子を同定し、SE90/Radmis(radial fiber associated mitotic spindle protein)と命名した。radmis mRNAは塩基配列から80kDaのタンパク質をコードすると予測されるが、既知の遺伝子との有意な相同性を示さず、また保存されているモチーフ構造も有さない。ノーザンプロット分析によりradmis mRNAは神経幹細胞で強く発現しているが、分化誘導により発現が低下、消失することが明らかになった。さらに特異的抗体を作製しradmisタンパク質の発現パターンを詳細に解析した。その結果、Radmisはnestin陽性神経幹細胞に強く発現し、胎生期の終脳胞において、Radmisは神経上皮細胞(神経幹細胞)の放射状突起(radial fiber)に発現していた。また脳室に面する部位に見られるリン酸化Histon3陽性の分裂期の神経幹細胞では、有糸分裂紡錘体に非常に強く局在していた。分裂期の発現解析からRadmisはM期の前中期、中期、後期の神経幹細胞の紡錘体に発現し、分裂面とは無関係に発現することから、対称性・非対称性分裂の両方の分裂様式で機能することが示唆された。さらに成体脳では側脳室前角のSVZのわずかな細胞に発現が限局される。これら陽性細胞では、胎生期と同様に、分裂期の紡錘体で発現が見られ、さらにその周囲のnestinまたはGFAP陽性の細胞突起にも発現が認められることから、RadmisはTypeB、TypeCなどの成体の神経幹細胞および神経前駆細胞に発現することが示された。また培養細胞系においてRadmis遺伝子の強制発現を行なったところ、mitotic indexの亢進と異常な紡錘体微小管形成が観察された。以上のデータから、Radmisは神経発生期、成体期を通して神経幹細胞あるいは前駆細胞の分裂時の細胞骨格再編成、あるいは紡錘体微小管の形成調節などを通してこれらの細胞の維持機構に役割を担っている可能性が考えられる。