著者
一杉 正仁 菅谷 仁 平林 秀樹 妹尾 正 下田 和孝 田所 望 古田 裕明
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.79-84, 2008-07
被引用文献数
1

医学部6年生を対象に,試験におけるマークミスの実態調査を行い,有用な予防対策を検討した. 36人の学生が530問の医師国家試験用模擬試験を解答し,自己採点結果と実際の採点結果を照合した.半数以上の受験生が1問以上のマークミスをおかしていた.ミスの具体的内容では,自己採点が正しいものの,マークは誤っていた場合が45.7〜54.8%と最も多く,選択数を誤っていた場合が30.4%〜35.7%と続いた.また, 5肢複択問題のしめる割合が増えるにしたがって,マークミスの頻度も有意に増加する傾向であった.受験者の正味試験時間を調べると,規定時間の約10%は見直し時間として利用できることがわかった.受験者は,自ら選択した解答肢が正確にマークシートに記入されているかを見直すことで,不本意な失点が防げると思われる.マークミス予防の指導は, fail-safeの対策としても重要であり,医師となった後にも十分役立つと考えられる.
著者
木村 真三 三浦 善憲 クマール サフー・サラタ 遠藤 暁
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、経済的・政治的理由からチェルノブイリ汚染地域に取り残された住民の健康影響を調査するため環境放射能調査、食事調査、罹患率調査を行った。その結果、事故当時、土壌汚染レベルから空間線量率は350μSv/h~5μSv/hと推定された。内部被ばくの汚染ルートは、牛乳、キノコ、ベリー類であり、僅かではあるがパンも汚染源のひとつであった。また、これらの地域では汚染度の違いにより、汚染が高いほど妊婦の貧血が有意に上昇していることが確認された。
著者
菱沼 昭 小飼 貴彦
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

胚内の間葉系細胞に発現する HMGA2 は腫瘍細胞の分化マーカーとして注目されている。我々の多種の甲状腺腫瘍での発現の検討から、HMGA2 の悪性腫瘍での選択的な発現が示された。また、分化型甲状腺癌である濾胞癌は、しばしばその診断に困難を伴うが、術後組織のHMGA2免疫染色の結果が確定診断や予後予測に応用できる可能性が示唆された。一方、甲状腺癌培養細胞モデルを用いたトランスクリプトーム解析から、発癌を促進する変異サイログロブリンが、HMGA2 の発現を介して数種の細胞増殖関連遺伝子を誘導するという当初の仮説を裏付ける結果を得ることが出来た。
著者
秋山 一文 斉藤 淳
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.207-212, 2006-10-25
被引用文献数
1

脳には視床下部-下垂体-副腎皮質系(hypothalamiic-pituitary-adrenocortical axis, HPA系)とノルアドレナリン系というストレス反応を担う2つの系が存在する.急性のストレス反応を終焉させるためにHPA系全体に負のフィードバックが作動する.しかしストレス反応は長期化すればいわば「両刃の刃」としての性質をもつようになる.その引き金になるのがストレスの反復による海馬神経細胞への障害で,これにはbrain derived neurotrophic factor(BDNF)の減少が関与しているかもしれない.またストレスの反復によって脳内ノルアドレナリンの放出は感作される.精神障害は何らかの意味でストレスの影響を被るが,特にストレス反応を担うHPAの制御の障害が示唆される精神障害としてうつ病.外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD),摂食障害を取り上げた.いずれも遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するという図式に共通点がある.しかしデキサメサゾン抑制試験で評価したHPAの制御障害の方向性はうつ病では非抑制,PTSDでは過剰抑制と相反している.MRIによるうつ病の画像研究では海馬の萎縮を認めた報告が多い.これがいつから始まるかという問題はストレスによる海馬神経細胞への障害の時間的経過という点で興味深いが更に今後の検討が必要と考えられる.近年,児童虐待が社会問題化しているが,被虐待児が後年になってうつ病,あるいはPTSDなど深刻な精神障害を高率に発症することが見いだされている.このようにストレスと精神障害との関係は大きな広がりを見せつつある.
著者
石井 芳樹
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.245-249, 2012-10-25

大規模災害発生時の健康障害として問題となるのは,災害そのものによる疾患の発生と災害による環境衛生の悪化によって発症する疾患,さらに災害によるライフラインの途絶や医薬供給の途絶による医療サポートの欠如などである (表1).呼吸器疾患領域においては,停電により慢性呼吸不全患者に対する在宅酸素療法や在宅呼吸器管理ができなくなる問題,被災による寒冷曝露や粉塵曝露による感冒や肺炎への罹患,口腔衛生状態悪化による誤嚥性肺炎の増加,集団避難所などにおける伝染性疾患の流行,常用薬の紛失や入手困難に伴う慢性疾患の増悪,ストレスに伴う慢性疾患の増悪,車内生活や狭い避難所生活による下肢静脈血栓と肺血栓塞栓症の発症,ヘドロ肺など災害に特有の呼吸器疾患,肺挫傷など外傷性呼吸器疾患など多彩な病態が挙げられる.本稿では,多様な災害関連の問題の中から在宅酸素療法患者への対応と災害時の粉塵曝露による呼吸器疾患の問題の2 つに焦点を当てて論じたい.
著者
村越 友紀 望月 善子 渡辺 博 稲葉 憲之
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.87-94, 2011-03-25

10 代妊娠を「防ぐべきである」という視点ではなく,出産を目指す10 代妊婦に共感し,母性意識の発達を促し,セルフケアできるよう援助していくための方法を探索することを目的として,1998 年から10 年間に当センターで出産した10 代妊婦138 名を対象に承諾を得た85 名に対し,アンケート調査を実施した (回収率45.9%).妊娠時の心境としては妊娠を肯定的に受け止めていた者が76.9%であったが,出産時には92.3%と増加していた.現在の相談相手は母親,夫,友人であり,育児,金銭面の相談が主であったが,相談相手すらいない状況下,一人で育児を行っている者もいた.10 代での妊娠出産をよかったと71.8%が判断していたが,10 代出産のデメリットは経済的不安,知識の少なさが挙げられた.思春期には性行動,妊娠,出産そして育児など長いスタンスの知識提供と現況を把握理解した上での支援体制が必要と考える.
著者
榊原 伸一 上田 秀一 中舘 和彦 野田 隆洋
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

神経系前駆細胞、神経幹細胞の分裂タイミング調節などの幹細胞維持機構の一端を明らかにするために、神経幹細胞に強く発現する新規遺伝子を同定し、SE90/Radmis(radial fiber associated mitotic spindle protein)と命名した。radmis mRNAは塩基配列から80kDaのタンパク質をコードすると予測されるが、既知の遺伝子との有意な相同性を示さず、また保存されているモチーフ構造も有さない。ノーザンプロット分析によりradmis mRNAは神経幹細胞で強く発現しているが、分化誘導により発現が低下、消失することが明らかになった。さらに特異的抗体を作製しradmisタンパク質の発現パターンを詳細に解析した。その結果、Radmisはnestin陽性神経幹細胞に強く発現し、胎生期の終脳胞において、Radmisは神経上皮細胞(神経幹細胞)の放射状突起(radial fiber)に発現していた。また脳室に面する部位に見られるリン酸化Histon3陽性の分裂期の神経幹細胞では、有糸分裂紡錘体に非常に強く局在していた。分裂期の発現解析からRadmisはM期の前中期、中期、後期の神経幹細胞の紡錘体に発現し、分裂面とは無関係に発現することから、対称性・非対称性分裂の両方の分裂様式で機能することが示唆された。さらに成体脳では側脳室前角のSVZのわずかな細胞に発現が限局される。これら陽性細胞では、胎生期と同様に、分裂期の紡錘体で発現が見られ、さらにその周囲のnestinまたはGFAP陽性の細胞突起にも発現が認められることから、RadmisはTypeB、TypeCなどの成体の神経幹細胞および神経前駆細胞に発現することが示された。また培養細胞系においてRadmis遺伝子の強制発現を行なったところ、mitotic indexの亢進と異常な紡錘体微小管形成が観察された。以上のデータから、Radmisは神経発生期、成体期を通して神経幹細胞あるいは前駆細胞の分裂時の細胞骨格再編成、あるいは紡錘体微小管の形成調節などを通してこれらの細胞の維持機構に役割を担っている可能性が考えられる。
著者
鈴木 圭輔
出版者
獨協医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

我々はパーキンソン病やアルツハイマー病を含む8つの神経変性疾患患者156例を対象に血清インスリン様成長因子(IGF-1)値と臨床症候との関連を調査した.結果,各疾患において血清IGF-1値に有意差はみられなかった.パーキンソン病患者では血清IGF-1値は年齢および日常生活動作の障害と負の相関を示し,線条体におけるドパミントランスポータースキャンの集積および前頭葉機能と正の相関を示した.またアルツハイマー病患者では血清IGF-1値は年齢,罹病期間,日常生活動作の障害と負の相関を示した.本研究により神経変性疾患における血清IGF-1値の測定が疾患進行の評価に有用である可能性が示唆された.
著者
相良 博典 知花 なおみ 沼尾 利郎 中島 宏和
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

肺サーファクタントは主に肺胞II型上皮細胞で合成、分泌される脂質・蛋白質複合体で肺胞被覆層を形成し肺胞表面の気相・液相界面の表面張力を低下させることにより呼気時における肺胞の虚脱を防いでいる。また、サーファクタント蛋白には感染防禦、免疫制御などの多彩な機能があ乱気管支喘息の本質的異常は、中枢部気管支粘膜における好酸球性炎症とそれに続発する気管支の機能障害と考えられてきたが、最近、多くの研究から、好酸球性炎症は末梢気道や肺胞領域でも起こっていることが明らかになってきた。この領域における炎症の存在は肺サーファクタントに影響を与える可能性があり、逆に、サーファクタントの異常が炎症反応に影響を及ぼすことも考えられる。今回、喘息における肺サーファクタントの異常の有無、肺サーファクタントが喘息病態に及ぼす影響、サーファクタントの合成・分泌細胞である肺胞II型上皮細胞の好酸球性炎症への閧与の有無を明らかにする目的で、以下の研究を行った。1.モルモット慢性喘息モデルにおける肺サーファクタントに関する研究、2.気管支喘息患者の肺サーファクタント関連蛋白に関する研究、3.好酸球のinterleukin(IL)-8に及ぼすSP-Aの影響についての研究、4.肺胞II型上皮細胞によるIL-16の産生に関する研究を行った。その結果として喘息肺では、その病態の強さに応じて肺サーファクタントの量的、質的、機能的異常が起こっている可能性があること、そのサーファクタント異常は、肺胞・末梢気道の開存性に影響を与えるばかりでなく、その領域の炎症反応をも修飾する可能性があることが示された。肺サーファクタントの正常化も、特に末梢気道優位型の喘息では治療目標の1つになる可能性がある事を示唆したものである。
著者
川合 覚 保富 康宏
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

実験用ニホンザル4頭にサルマラリア原虫(Plasmodium coatneyi)を静脈内接種し、感染経過にともなう脳MRI解析および造影灌流強調画像解析を行なった。その結果、いずれの感染個体においても微小出血や梗塞巣、浮腫等の器質変化を疑うMRI所見は認められなかった。また造影灌流強調画像解析では脳血液量(rCBV)、平均通過時間(MTT)および血流量(rCBF)を測定し、感染前と重度発症時の比較を試みた。その結果、前頭部、側頭部、後頭部および小脳において感染前と発症期との間に明確な違いは認められなかった。各感染個体は最終MRI撮像の直後に剖検し、脳の病理組織学的観察をおこなったところ、大脳および小脳血管内に多数の感染赤血球接着像(sequestration)が認められたが、神経細胞の変性や脳組織の器質的変化は認められなかった。これらの結果を総合すると、脳血管内で発生するsequestrationの形成は、脳マラリアにおける中枢神経症状の主要な要因であると思われるが、単純に脳内の虚血性変化や脳の血流障害を誘発するものではないことが明らかとなった。
著者
小正 裕佳子 木村 真三
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-07-19

原子力災害による被災者への最も大きな影響として、放射性物質による長期の汚染が予測される地域への居住制限が挙げられる。特に帰還困難区域、居住制限区域の高齢者を中心に、心身のストレスによる苦悩や体調悪化(難聴、認知症等)が報告されており、本研究では、こうした高齢者が今後の人生を再構築していくかに必要なエビデンスを構築することを目指している。方法としては、初めに、原発事故被災高齢者が希望と尊厳のある暮らしを取り戻すことができるよう、質的手法により(1)終の住処として安住できる環境に必要な条件、(2)条件が達成される見込みと時期、(3)現在に至るまでの健康状態、について網羅し系統的に分類すること、を目標としている。平成28年度は、対象者の選定が適切かどうかの検討を行うのに時間を要し、同意を得られた人に対して予備的に聞き取りなどを行った。また、背景情報として必要な文献の収集などを同時並行で実施した。平成29年度は、対象となる65歳以上の高齢者のうちの一部で、避難指示が解除された地域に帰還した人への質的調査を開始した。その中で、現在に至るまでの健康状態については、震災・原発事故発生後に、これまでにかかったことがなかったような病気になったと回答した人が複数みられ、その他にも様々な自覚症状があった。一方、避難指示区域の再編や住宅の整備、家族の事情などにより対象となる高齢者が転居しているケースも多いことから、追跡可能な対象者を再度設定して調査を順次行っていく。
著者
和氣 晃司
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.225-229, 2012-10-25

「災害はいつ起こるかわからない」,よく耳にする言葉であるが,2011 年3 月11 日の東日本大震災も前ぶれなく突然に発生した.三陸沖を震源とするマグニチュード9.0 の地震 (観測史上国内最大規模) とそれに続く大津波によって多数の尊い生命が犠牲となった.またそれに続く福島原発事故も発生し,今なお多くの方々が辛い生活を強いられている.従来,わが国では首都直下型地震,東海地震,東海・東南海地震など大規模な災害を想定して様々な対策を講じてきた.しかし,先の東日本大震災は全くの想定外だったという.阪神・淡路大震災など今までの大地震では,局地的な家屋の倒壊とそれに続く大規模な火災が問題であった.しかし,東日本大震災では東北地方から北関東にかけて大規模な津波が到来し,死者・行方不明者合わせて約2 万人という極めて多数の犠牲者が発生した.さらに福島原発からの放射能汚染を合併する甚大広域災害となってしまった.規模の大小にかかわらず,災害が発生すると当該地域は大混乱となり,近隣周辺地域も少なからず影響を受けることになる.そのような状況に遭遇した時,われわれはどのようなことに留意して医療活動を行うべきであろうか.本稿では,救急医学の立場から行うべき災害急性期の活動やそのための組織体制の紹介,さらには獨協医科大学病院として災害医療に臨むための準備,特にマニュアルの作成と効果的な訓練の必要性について述べる.
著者
一杉 正仁 菅谷 仁 平林 秀樹 妹尾 正 下田 和孝 田所 望 古田 裕明
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.175-178, 2008-10-25
被引用文献数
1

マークミスが生じやすい試験問題を明らかにするために,同一受験生を対象に,問題の種類や解答肢数の違いといった質的な変化あるいは問題数の変化がマークミスの発生頻度におよぼす影響を検討した.医学部6年生が4パターンの試験(530問,複択問題6.8 %;1130問,複択問題2.0 %;530問,複択問題11.8%;530問,複択問題57.2%)を受験し,それぞれにおけるマークミスの発生頻度を調査した.問題数が約2倍になっても,複択問題のしめる割合が低下するとともに,1人当たりのマークミス発生率は有意に低下した.問題形式および問題数が同じ場合,複択問題のしめる割合が4.8倍に増加すると,1人あたりのマークミス発生率は2倍に増加した.問題数を増加させるより,複択問題のしめる割合を増加させた方が,マークミスを誘発しやすいことがわかった.したがって,今後は複択問題のしめる割合を増加させた試験問題を利用して,マークミスの予防対策を講じることが有効と考える.
著者
茂原 信生 松村 博文
出版者
獨協医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

本研究は、当面は基礎データの収集と文献的データの収集が主な仕事である。基礎データの収集は、計測による研究を主にし、歯冠近遠心径頬舌径の計測をおこなった。非計測的データ(22項目)もあわせて収集した。対象とした材料は、日本およびアメリカの各研究施設に所蔵されているアジア系モンゴロイド人骨合計2249の上・下顎歯である。分析は統計的な解析方法(多変量解析)を用いた。それにもとづいて、まず日本国内の各時代・各地域の集団を調査し、それぞれの変異を明かにした。計測的なデータから得られた分析結果と非計測的なデータから得られた分析結果とは、現在収集している日本人のデータに関するかぎり、かなり高い関係が見られた。どちらの方法によっても「縄文・アイヌ」の集団と「弥生・中世・現代人」の集団とに分離された。この他、古墳人は弥生時代人に最も近く、現代人の含まれる集団の方に属している。ただし、種子島の弥生人は「縄文・アイヌ」の集団に近く位置し、やや特殊な位置にある。このような地方差や時代差を検討するためには、日本人の祖先となるモンゴロイドの大陸からの流入に関しても、琉球列島経由にようものと朝鮮半島経由によるものとの相互関係を詳しく調べる必要がある。縄文人では、東日本縄文人と西日本縄文人との間の歯の大きさに差があり、東日本縄文人の方がやや小さかった。このように、縄文時代人の中での歯の大きさの変異は地理的な分散と対応している。今後の分析には、日本人の直接的な祖先となったと考えられる系統をひいている中国人のデータが必要になり、次年度の調査目標である。これらの歯の調査の他に、アジア・オセアニアおよび北米のモンゴロイドの歯に関する文献データベースを集積中である。
著者
糸岐 一茂
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.T25-T32, 2012-03-25

背景:薬物治療中の高血圧症患者が,頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy, CSM)の術後,その高血圧が改善する例を時に経験する.特に降圧薬治療に反応しない難治性高血圧群で改善が見られることが多い.本研究ではCSM 術後の血圧及び副交感神経機能の推移について検討し,報告する.方法:2009 年1 月1 日から2009 年12 月31 日まで我々の施設内でCSM に対する椎弓形成術を施行した68例に対し,検討を行なった.術前の平均血圧が100 mmHg を超えていた術前高血圧群は17 例あった.うち12例は術前降圧薬を内服していたにもかかわらず,入院時高血圧を呈していた(難治性高血圧群).全症例で頸椎C3 からC6 にかけての筋層構築的棘突起椎弓形成術(myoarchitectonic spinolaminoplasty)が施行されている.血圧は術前,術後1 ヶ月,3 ヶ月,6 ヶ月の時点では外来で測定された.術後1 週間のみ入院中の病棟で計測された.全対象症例中47 例で術前,術後1 週間,1 ヶ月,3 ヶ月,6 ヶ月の測定をすべて遂行しえた.測定した血圧は術前の血圧との比例で表し,平均血圧比,収縮期血圧比,拡張期血圧比として比較検討している.また,副交感機能の指標として心電図上RR 間隔変動係数(coefficient variance of RR intervals, CVRR)を同時に測定し,比較検討している.結果:術前高血圧群(n=17)と正常血圧群(n=29)の間で術前後の血圧変化において有意差を認め,そのうち術前高血圧群において術後1 週間,6 ヶ月の平均血圧比,収縮期血圧比,拡張期血圧比の有意な低下を認めた.術前降圧薬内服群と術前降圧薬非内服群の間での血圧変化においても有意差を認め,そのうち術前降圧薬内服群において術後1 週間の平均血圧比,収縮期血圧比,拡張期血圧比の優位な低下を認め,さらに収縮期血圧比のみ術後6 ヶ月の時点で優位な低下を示した.さらに術前降圧薬を内服していたにもかかわらず,入院時高血圧を呈していた難治性高血圧群(n=12)とその他の症例群(n=37)との間で術前後の血圧変化に有意差を認め,難治性高血圧群では術後1 週間と6 ヶ月で有意な血圧低下効果をみた.術前正常血圧群(n=29)においては術後有意な血圧変化はみられなかった.その他高齢者群(65 歳以上,n=13)と若年者群(60 歳以下,n=23)及び術前MRI で脊髄実質内にT2 高信号を示した群(n=19)とそれ以外の群(n=27)との間では血圧変化に有意差は検出されなかった.全ての群で,CVRR は有意な変化を示さなかった.結論:頸椎症性脊髄症に対する外科的減圧術は,高血圧の改善をもたらす.その機構には副交感神経系の関与は否定的である.