著者
金児 石野 知子 石野 史敏
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-20, 2016-06-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
28
被引用文献数
2 4

ヒトゲノムには,LTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子が30以上存在している.これらの多くは哺乳類(真獣類)特異的遺伝子として存在しており,哺乳類の進化との関係に興味が持たれている.筆者らは,sushi-ichiレトロトランスポゾン由来のSirh遺伝子群に関する網羅的なノックアウトマウス解析から,Sirh11/Zcchc16遺伝子が注意や衝動性など認知に関わる脳機能に関係すること報告した.胎盤機能に関係する複数のSirh遺伝子に加え,この発見は哺乳類における胎生の起源と進化だけではなく,大きく発達した脳機能の進化にも獲得遺伝子群が関与した可能性を示すものである.興味深いことに,この遺伝子は真獣類の幾つかの系統において大きな構造変化を起こした後,それらの系統内で種特異的な機能の多様化を起こしたと予想される.Sirh11/Zcchc16は個体発生には必須な遺伝子ではないが,恐竜の絶滅後に起きた哺乳類の大規模な適応放散のプロセスにおいて,脳機能の調節に関わることで生存の適応度の向上に寄与した可能性があるのではないかと考えている.
著者
金児 石野 知子 石野 史敏
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.16-23, 2013-04-01

PEG10,PEG11/RTL1は胎盤形成に必須の機能を果たす遺伝子である。どちらもLTRレトロトランスポゾンに由来しており,PEG10は胎生の哺乳類(有袋類と真獣類),PEG11/RTL1は真獣類にのみ保存されている。すなわちこれらの遺伝子はレ卜ロトランスポゾンが祖先のゲノムに挿入後,内在遺伝子化し,自然選択を受けたものであることが分かる。遺伝子機能を考えあわせると,これらの遺伝子獲得が胎盤形成を通じて,胎生という生殖様式をとる獣類,真獣類というそれぞれ哺乳類の亜綱,下綱の形成に重要な寄与をはたしたことも確かであろう。LTRレ卜ロトランスポゾンが内在遺伝子化するイグザプテーション機構は,「ほぼ中立説」に従うプロセスと自然選択による「ダーウィン進化」の2段階のステップから構成されると考えられる。また,イグザプテーションの起きる場所として,DNAメチル化レベルが比較的低い胎盤は好条件下にある。「胎盤は哺乳類進化の実験場として機能した」という仮説を提唱したい。