著者
東口 篤司 逸見 博文 金澤 朋扇 斉藤 学
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.134-138, 2009-10-01
参考文献数
14

薄い内膜では何故妊娠率が低いのか、そのメカニズムは不明である。本研究ではそのメカニズムを解明するために薄い内膜と正常の厚さの内膜のステロイドレセプター、Transforming growth factor α(TGFα)、酸化ストレスを比較検討した。対象は205症例、1,035自然周期で、妊娠率から排卵後5-7日目の子宮内膜が6cm以下を薄い内膜群(12例;妊娠率8.3%)、7cm以上を正常内膜群(193例;妊娠率51.3%)とした。薄い内膜群ではエストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、内膜間質における酸化ストレスが有意に高く、TGFαが有意に低かった。これらの機能的異常が薄い内膜における低妊娠率のメカニズムと考えられた。
著者
若山 清香 三宅 正史 若山 照彦
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.152-158, 2005-10-01

近年、胚性幹細胞(ES細胞)を用いた再生医療への応用研究が始まっているが、免疫拒絶反応に関する問題は依然として解決していない。そこで免疫拒絶反応の起こりえない、患者自身の体細胞から核移植技術によって作りだされたES細胞の研究に注目が集まってきた。これまでの研究から、核移植で作られた体細胞由来胚性幹細胞(nES細胞)は受精卵由来ES細胞と同様に多能性を持ち、キメラマウスの生殖細胞にも寄与できることが分かっている。また、その樹立効率にはマウスの系統差や性差による違いが認められず、核移植に用いるドナー細胞の由来に依存しないこと、さらにはそのnES細胞の樹立する効率が高いことなども明らかとなっている。しかし、ES細胞とnES細胞がまったく同質なものか吏に検討する必要があると考えられる。本稿ではこれまでに明らかになったnES細胞の特性およびその応用例について紹介する。
著者
吉澤 緑 Ulloa Ulloa Carlos Manuel Hufana-Duran Danilda ATABAY Eufrocina DURAN Peregrino G CRUZ Libertado C 金井 幸雄 高橋 芳幸
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.157-160, 2010-10-01
参考文献数
22

体外受精水牛胚の低受胎率の原因究明のために、分割初期胚における染色体異常の出現率を明らかにした。フィリピン、インドのと場入手の河川型水牛卵巣の直径2-8mm卵胞から卵子を吸引採取、23-24時間成熟培養し、河川型水牛の凍結精子を最終濃度1×10(6)sperm/mlで媒精した。媒精12-18時間後に体外培養用培地へ移し36-40時間卵丘細胞と共培養し、2-8細胞期胚を100ng/mlのビンブラスチンで6-10時間処理した後、吉澤ら(1998)のウシ体外受精胚の方法に準じて染色体標本を作製した。206個の胚の51.0%(105/206)が中期像を有し、87.6%(92/105)で分析可能であり、染色体異常の出現率は47.8%(44/92)で、多倍数体は23.9%(22/92)、混倍数体と半数体は各12%(11/92)であり、多倍数体や混倍数体は多精子侵入が原因と考えられた。
著者
平岡 謙一郎 淵脇 恩美 平岡 夏織
出版者
日本哺乳動物卵子学会
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.23-28, 2007 (Released:2011-02-04)

ヒト生殖補助医療において、凍結融解胚盤胞移植により多くの健常児が得られている。しかし、一度凍結融解した胚より発生した胚盤胞の再凍結保存に関する報告は少なく、胚盤胞の再凍結保存の有用性は明らかではない。そこで今回我々は、一度分割期で凍結融解した胚より発生した胚盤胞の再凍結保存の臨床成績を報告する。2004年2月から2006年12月までの間、一度分割期で凍結融解(緩慢凍結法)した胚より発生した胚盤胞27個をガラス化法により再凍結を行い、12症例15周期に対して融解胚移植を行った。融解後の生存率は96%(26/27)、胚移植後の着床率は35%(9/26)、妊娠率は47%(7/15)であった。妊娠の成立した7周期のうち、2周期は流産したが、4周期は5人の健常児の出産に至り、1周期は妊娠継続中である。以上の結果より、一度凍結融解した胚より発生した胚盤胞の再凍結保存は有用であることが示唆された。
著者
鈴木 裕之 Presicce Giorgio A. Yang Xiangzhong
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.49-62, 1998-04-01
参考文献数
62
被引用文献数
4 4

体内ならびに体外成熟中のウシ卵丘細胞-卵母細胞複合体の表面微細構造を走査型電子顕微鏡により比較した.また,卵母細胞の直径の変化についても検討した.体内成熟卵は過剰排卵処理した雌ウシからhCG投与後0,12,24時間後に,超音波ガイド法により2 mm以上のすべての卵胞から回収した(それぞれ85,38,39個).体外成熟卵は屠場卵巣から回収された卵母細胞を0,12,24時間体外培養して得た(それぞれ188,138,228個).未成熟卵は緊密に配列した顆粒層細胞に囲まれていた.体外培養24時間後に,体内成熟卵に比べ(44%),より多くの体外成熟卵(100%)が顆粒層細胞の膨化を示した.しかし,体内成熟卵の顆粒層細胞の膨化の程度は体外成熟卵のそれに比べ顕著であった.透明帯は成熟のステージや成熟方法に関わらず繊維性のメッシュ構造を示した.未成熟卵の細胞膜には,大型の舌状突起の分布が見られ,これらは成熟に伴い徐々に微絨毛の分布パターンに変化した.成熟12時間後では,体内成熟卵に比べ(11%),より多くの体外成熟卵(100%)の細胞表面が舌状突起の分布パターンから微絨毛の分布パターンへ変化していた(p<0.05).卵母細胞の直径は成熟培養中に徐々に減少した.すなわち,0,12ならびに24時間後で,それぞれ127±1,122±1,116±1 <i>&mu;</i>mであった.一方,体内成熟卵ではそれぞれ121±2,129±2,101±1 <i>&mu;</i>mであった.以上の結果から,hCG投与後の体内卵子成熟は体外培養による体外成熟に比べ緩やかに進行する傾向がうかがわれた.しかし,成熟開始24時間後では,体外成熟卵に比べ体内成熟卵において,より顕著で完全な顆粒層細胞の膨化と卵母細胞の直径の劇的な変化が観察された.<br>
著者
橋本 洋美 後藤 栄 坪内 美紀 泉 陽子 吉村 由香理 笠原 優子 塩谷 雅英
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.209-213, 2004-10-01
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

IVFとICSIを回収された卵子の半数ずつに行うSplit ICSIを考慮すべき精液所見を検討することを目的とした.当院で初回ARTを施行した682症例の精液所見を目視法で調べ,精液濃度および運動率別の受精率,妊娠率の検討を行った.受精率30%が以下の症例では受精率50%以上の症例と比較し妊娠率は有意に低かった.精子濃度が2,000万/ml未満の症例では受精率は50.0~53.8%であり,2,000万/ml以上の症例における受精率の65.0~79.5%と比較して有意に低率であった.精子運動率が20%未満の症例では受精率は0~29.6%であり,運動率20%以上の症例の受精率66.8~76.8%と比較して有意に低率であった.精子濃度2,000万/ml未満または精子運動率が20%未満の症例に対してはsplit ICSIを考慮すべきと考えられた.<br>
著者
向井 千夏 奥野 誠
出版者
日本哺乳動物卵子学会
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.176-182, 2010 (Released:2011-07-26)

体内受精を行う哺乳類では、精子鞭毛は射精にともない運動を活性化し、雌生殖器官内での受精能獲得時には超活性化と呼ばれる運動を示す。精子は卵に出会うまで、鞭毛運動を維持するためにATPが必須であるとともに、活性化や超活性化の運動変化を引き起こす細胞内シグナル伝達においても、cAMPの生成やタンパク質リン酸化にATPが必要となる。ATPの供給経路としては解糖系と呼吸系の2つがあげられるが、従来、精子の形態やその生産効率からミトコンドリアによる呼吸系が主であると考えられてきた。しかし、近年の研究成果により、鞭毛主部における解糖系によるATP供給が主要な働きをしていることが明らかとなってきた。本稿では、マウスでの知見を中心に、精子の鞭毛運動とシグナル伝達に関わるATP供給について解説する。
著者
葉梨 輝 金野 俊洋 櫻井 敏博 今川 和彦
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.214-220, 2009-10-01
参考文献数
28
被引用文献数
1

レトロウイルスは新しい遺伝子を取り込み,その機能を獲得,発揮することが出来る.実際,レトロウイルスの一種であるラウス肉腫ウイルスは宿主に感染することによって,宿主の持つがん遺伝子srcを取り込み,それを自らのゲノムの一部にしたことは良く知られている.このようにレトロウイルス側が宿主細胞側の遺伝子を取り込み利用することが可能であれば,それとは逆に,細胞生物側がレトロウイルス由来の遺伝子を取り込んで利用することがあっても不思議ではない.脊椎動物のゲノム上にはレトロウイルス由来と思われる配列が数多く存在しており,内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus, ERV)と呼ばれている.そして,それら遺伝子の発現は,哺乳類において特徴ともいえる"胎盤"で高いことが知られている.このようなレトロウイルス由来タンパクの組織特異的な発現とその機能を考えれば,レトロウイルス由来の遺伝子が胎盤の形成機構に関与している可能性は高い.本論文では,哺乳類,特にヒトにおける胎盤形成のメカニズムと内在性レトロウイルスの関係について,胎盤に発現するERV由来タンパクsyncytinを中心に,今後の展望を交え述べていく.<br>
著者
小柳 深 柳田 信也
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.31-35, 2004-04-01
参考文献数
24
被引用文献数
3

ポリビニルアルコール(PVA)がマウス初期胚の発生に及ぼす影響を検討した。その結果、0.1mg/mlおよび1.0mg/ml PVA添加培地において牛血清アルブミン(BSA)添加培地と同様マウス初期胚は高率に拡張胚盤胞に発生した。しかし、10.0mg/ml PVA添加培地では、胚盤胞への発生はみられなかった。したがって、PVAは適当な濃度であれば、1細胞期胚の拡張胚盤胞までの発生を支持することが明らかとなり、PVA添加培地は限定培地としてマウス胚の培養に用いることが可能であると考えられる。さらに、本研究ではPVA添加培地を用いて1細胞期、2細胞期、8細胞期および初期胚盤胞のどのステージから培養を開始しても拡張胚盤胞への発生率および拡張胚盤胞期までの各ステージへの発生速度は、BSA培地のものと同じであった。これらのことはPVA培地で各胚は正常な発生過程を経て拡張胚盤胞にまで発生することを示し、PVAは拡張胚盤胞期までの各過程にそれぞれ有効に作用するものと推察される。しかしながら、1細胞期から初期胚盤胞のどのステージから培養を開始しても、脱出中および脱出胚盤胞に発生する割合はBSA添加培地にに比べて減少した。In viroにおける胚盤胞の透明帯脱出には蛋白質分解酵素が関与していると考えられているので、胚盤胞の低い透明帯脱出率は蛋白質分解酵素の生成・分泌能の低下に起因している可能性が考えられる。
著者
金児 石野 知子 石野 史敏
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.16-23, 2013-04-01

PEG10,PEG11/RTL1は胎盤形成に必須の機能を果たす遺伝子である。どちらもLTRレトロトランスポゾンに由来しており,PEG10は胎生の哺乳類(有袋類と真獣類),PEG11/RTL1は真獣類にのみ保存されている。すなわちこれらの遺伝子はレ卜ロトランスポゾンが祖先のゲノムに挿入後,内在遺伝子化し,自然選択を受けたものであることが分かる。遺伝子機能を考えあわせると,これらの遺伝子獲得が胎盤形成を通じて,胎生という生殖様式をとる獣類,真獣類というそれぞれ哺乳類の亜綱,下綱の形成に重要な寄与をはたしたことも確かであろう。LTRレ卜ロトランスポゾンが内在遺伝子化するイグザプテーション機構は,「ほぼ中立説」に従うプロセスと自然選択による「ダーウィン進化」の2段階のステップから構成されると考えられる。また,イグザプテーションの起きる場所として,DNAメチル化レベルが比較的低い胎盤は好条件下にある。「胎盤は哺乳類進化の実験場として機能した」という仮説を提唱したい。